■新製品開発が思い通りに進まない (No.362)

最近,なかなかこれはと云う新製品が出てこない。スマホなど流行の製品はあるが,携帯電話から派生したものであって,パソコンの機能と融合されたものである。このように従来ある製品の組み合わせで,画期的な新技術が加わっているようには思えない。

  儲からない製品

昨今の電気製品は新しい技術が組み込まれたものが少なく,顧客の目も価格が安いかどうかに向いてしまっている。コモディティ化した商品が多くなり,海外で安く作られた製品が幅を利かしてしまっている。そうなると,儲かる製品でなくなり,次第に開発メンバーも縮小されて行き,ますます新製品開発ができない状況になってしまっている。

要するに,新製品開発のサイクルとしては負のサイクルに陥ってしまっている。現場では,起死回生を図る努力が行われているのだろうが,なかなかその悪いサイクルから脱却する手立てが見つかっているようには思えない。大きな流れとして,いろいろな産業は繁栄した時代が過ぎ去ると,衰退してしまう。嘗ての鉄鋼,繊維産業を見ればよく判る。電機産業もそうした流れに抗しきれないものかも知れない。

参照:既述した下記,儲からない製品開発1〜8で詳細を見てください

  1. 尖った製品開発が影を潜めている   No.241
  2. パナソニックがテレビ生産を縮小    No.242
  3. 外的要因1 デジタル化,変化スピード No.243
  4. 内的要因1 開発リーダの力不足    No.244
  5. 内的要因2 開発組織のあり方     No.245
  6. 内的要因3 コアコンピタンスの欠乏  No.246
  7. 内的要因4 学校教育の問題      No.247
  8. 内的要因5 負のサイクルに嵌る    No.248

  選択と集中

赤字製品をいつまでも事業として存続させるのではなく,成長分野へ事業をシフトさせることは経営者としては当然のことであり,電機産業界もその舵取りを余儀なくされている。電機産業の儲け頭であったテレビ事業の閉鎖が行われていることに象徴されている。テレビやビデオが珍しく,庶民の購買力が高かった時代は花形であったが,一回り行きわたると買い換え需要で,ブラウン管から液晶・プラズマの薄型へと移行し,特にデジタル化と共に,ハードからソフト中心の開発になって行った頃から,儲けは薄くなってしまっていた。

新しいハードウェア技術は無くなり,ソフトウェアでの競争,しかもソフトウェアの開発に掛かる人件費の高さ(ソフト開発に膨大な開発者が必要)から,外部依存や非正規労働者の活用など目先の利益追求に明け暮れるようになってしまうと,ますます泥沼化して行った。その当時の開発責任者はもう居なく,その残骸を背負わされた年代が後始末をしている。

最近は,まだ元気のある自動車分野やまだまだ問題が多い環境分野などへシフトしながら経営改善が図られよとしているのが現状である。確かに,自動車分野は今のところ元気があり,日本がまだまだ牽引していく力を持っている産業であり,利益を独り占めではないかと思われるほど頑張っている。特に,円高からの利益改善が大きく潤っていることは他の産業よりも群を抜いているように思われる。

テレビに代表される電気製品ではあるが,過去の栄光を引きずるのではなく,将来を見据えた成長産業へのシフトは不可避である。それを断行できるかどうかは経営者の腕に掛かっている。目先の人員削減,資産譲渡などで経営を立て直しているだけでは不十分である。赤字部門の切り捨ては当然のこととして,当面の自動車産業に続く,次の成長産業を早く見極め,技術者に明るい未来像を抱かせ,新製品開発を模索させるのは経営者の大きな役割である。

  開発のスピードと品質

新製品開発にはスピードが必要不可欠である。それはハードウェアの開発と違って,同じようなものを後から開発しようとするとすぐ追いつける場合が多いからである。デジタル化されたが故のものである。つまり,如何に素早く開発できるか否かで,開発成果が大きく違ってくる。二番目開発での利益を設ける時代は無くなってしまっている。一番手だけが設けることができるケースが多くなってきている。

開発スピードが大切なことは,開発コストにも大きく影響する。スピードが早いと云うことは,開発期間も短く,開発にかかる人件費も安くつくと云うことである。ソフトウェア開発の費用は人件費がウェートを占めることは上述した通りで,如何にスムーズな開発ができているかである。もちろん,スピードだけではなく,ソフトウェアの品質も重要なファクターである。バグで市場問題を起こせば,開発費用の差どころの問題では無くなってしまう。

このことは,ソフトウェアプロセスの品質確保ができているか否かに大きく左右される。ハードウェア開発では長年培われたTQC活動のやり方が確実に企業の中に染みわたっている。それと同様のことがソフトウェア開発で行われているかと云うと些か疑問がある。安定したプロセスができるまでに時間を要すると云えばそれまでであるが,ハードウェアの品質確保とは違ったものが要求され,それを確実に指導できる人材が不足していることも事実である。ハードウェアのベテランの品質マンでは,ソフトウェアの品質確保には少々ムリな部分がある。かといって,ソフトウェア開発のベテランは,外部開発などの要員の指導で手一杯である。もちろん,品質指導もされているが,ハードウェアの品質の比ではない。

このように開発のスピードと品質確保に精一杯の状態では,良い新製品が出るわけがない。スピーディな且つ品質確保が十分できた開発システムがあってこそ,素晴らしい新製品開発がなされるのである。

  日本独自の開発

これまで日本のメーカが強く,業界をリードしていた時代は,元気に満ちあふれていた。業界を牽引する責任者に続く若い力が育っている環境下にあった。基礎研究から製品開発まで,新しいものに挑戦している姿が日本の技術者の姿であった。その時代と今とを比較すると,元気さが無い。明るい希望が先に見えてこない。これでは新製品が次々生まれるとは到底考えられない。

オリジナリティを維持しながら,繊細な部分に到るまで,見事な調和を図り,他が容易に真似のできない製品を生み出す技術力があった。それはハードウェアだったからかも知れない。現に今元気な日本の自動車メーカは,当にその道を突き進んでいる。機械から電気に移行しつつ,主要部はコンピュータを搭載したデジタル化が進んでいるとはいえ,まだまだハードウェアの世界で戦っている。日本固有の開発スタイルで優っている。

デジタル化が進み,コモディティ化してしまった電気製品ではあるが,テレビやビデオと云った製品ではなく,まだまだハードウェアを上手く組み合わせないと優秀な製品に仕上がらない電気製品も多い。そうした分野での新しい製品開発はまだまだ日本が得意とするところであり,価格競争から一段進んだ魅力ある製品開発に未来を見つけられるのではなかろうか。日本の技術者の新しい技術へ挑戦する魂を今一度呼び戻して欲しいと願うばかりである。

新製品開発が思い通りに進まないことは大問題である

技術者の奮起を望む!!

[Reported by H.Nishimura 2014.03.03]


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