■儲からない製品開発 8 (No.248)

話題 : なぜヒット商品,儲かる新製品の開発ができないのか?

  新製品開発が上手くできていない理由(その6) 内的要因 5

リーダ,技術責任者,若い技術者と各々の立場で,昨今陥っている利益の出ない体質の課題を眺めてみた。評論家など著名な人がいろいろな意見を述べられており,前述した内容以外の指摘もある。上手く行かない理由を見つけるのはそれほど難しいことではない。赤字体質の企業では,“負のサイクル”に陥っていることがよくある。

“負のサイクル”とは,利益が出ない悪循環に嵌ってしまっている状態のことである。これは,以前,思考力不全(No.192)のところで述べているので繰り返しになるが,再度掲載する。

事例1 赤字経営

wpe1.jpg (54116 バイト)

事例2 新製品開発不調

wpe2.jpg (49230 バイト)

当に,このような状態になっていてこの悪循環から抜け出せないのである。

 

戦略面での議論では,マイケル・ポーターの競争戦略に,基本的な競争要因として5つ(5フォース)があり,競争の基本戦略としては,@コスト・リーダシップ,A差異化,B集中の3つで,成長している企業は,このいずれかの戦略で勝ち抜いてきていると教えられ,ポジショニングが重要とされ,現在でも,この理論に沿って上手く勝ち組を維持している企業もある。また,前々回述べたコア・コンピタンスを中心に展開している企業もある。しかし,一般的にはこれらは古典的な戦略で,これだけでなく,ゲーム理論を採り入れた戦略など,複眼的に見ることが必要とされている。したがって,多くの経営者はもちろん,技術責任者は,こうした戦略的な考え方を以て,企業経営を行ってきているが,なかなか上手く行かないのである。

戦略が足りない,戦略不全だと論じる評論家もおられるが,負け組になってしまっている以上,その意見は間違ってはいない。でも,戦略が不足しているだけで終わらせて良いものだろうか?技術責任者は経営の一端を担っていることからすれば,その責任は大きいが,「戦略」と云う言葉自体を広く捉えて欲しい。要は,如何にして勝ち組に入るか,その戦略はあるのか! そのためには,先ず自己分析をし,例えば前述のような“負のサイクル”に陥っていることが判れば,サイクルのどこで断ち切るかを真剣に考え,仲間共々よく議論して脱出をする方法を見出さねばいけない。「戦略」と云う言葉が響きが良いので独り歩きしがちであるが,技術責任者として「戦略」とまでは云わなくとも,そのやり方について良く考えることが必要である。戦略を考えることは自分の役割ではないと,割り切らないことである。

最近読んでいる本に,ユリウス・カエサルの有名な言葉に「人間は,自分が見たいと思う現実しか見ない」と云うのがある。なるほどその通りであると思うが,今の日本の企業の状態にも良く当てはまるようにも感じた。つまり,儲かる新製品がなかなか出てこない根本的なところに人間としての根源的なもの「人間は,自分が見たいと思う現実しか見ない」があるのでは無いだろうか?今一度,自分の思考・行動・情報収集など含めてよく考えて見て欲しい。

外的ないろいろな要因,内的な要因,これらのいずれも,自分が見たいと思うようにしか見ていないから,その原因を誘発しているのではないだろうか? 言い換えれば,もっと見たくないものも含め,客観的にものごとを見る努力を怠らず,良いニュースよりも悪いニュースが技術責任者に的確にフィードバックできるようのし,責任者自ら勧んでその課題に正面から向き合い,顧客と対峙して一番厳しい要求を確実に必達出来るシステムを創りだし,顧客と一緒になって市場を創出する体制作りに真剣に取り組んでみては如何なものか。

そうした意味では,マーケットインでは遅すぎる。むしろ,マーケットインのその先を行くプロダクト・アウトとも云うべき(潜在ニーズを誘発し,顧客が感動する物づくり)システムを,企業全体で進めることを目指して欲しい。そうすれば,現状からの脱皮ができ,再度,日本の素晴らしさが見直される時代が来るのではないか。

一度,今の技術責任者に問い掛けて見たい。果たして技術責任者としてその役割を全うしているか? 戦略的な構想力にしても,遂行能力にしても,結果的に自分の都合の良いように解釈してはいないか? 上手く行かなければ環境や情勢など外的要因に帰していないか? 互いに上手くいっていない競合と並べて致し方ないと思っていないか? 

技術責任者としての役割をよく考えてみよう

 

参考文献:「価値づくり経営の論理」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2011.9.22

       「MOT「技術経営」入門」  延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2006.9.22

          「経営戦略の思考法」 沼上 幹著 日本経済新聞出版社 2009.10.23

[Reported by H.Nishimura 2011.12.05]


Copyright (C)2011  Hitoshi Nishimura