■儲からない製品開発 1 (No.241)

日本経済が低迷している。円高,株安とますます景気回復が遠退いている。新しい製品開発をしても利益確保ができない,価格競争に巻き込まれて儲からない製品作りになってしまっている。どうすればこうした悪循環から抜け出せるのか,なかなかその糸口さえも見つからない今日である。じっと景気回復を待っていても始まらない。海外での物づくりをさらに加速することが果たして正しい選択であろうか?

アップル社を大きくしたスティーブ・ジョブ氏が亡くなった。ジョブ氏のように,次から次へと新製品,それも大ヒットする商品を開発した人も珍しい。彼の生き様や考え方を学んだ訳ではないので,どうしたらあのようなヒット商品を生み出すことができるのか,それに対する答えを持ち合わせているわけではないが,これまでの経験から,なぜヒット商品,儲かる新製品の開発ができないのかを考えて見ることにする。

  尖った製品開発が影を潜めている

特に電機業界は,安売りの製品競争に明け暮れしている今日である。過去もそうかと振り返ると,必ずしもそうではなく,製品の標準化,コモディティ化が進んだ21世紀以降が,特に利益の出ない構造になってしまっている。薄型テレビなどで代表されるもので,価格が年々劇的に低下しており,殆どの企業が主力製品で利益が出ていないようである。

顧客の立場になって考えてみるとよく判る。薄型,大画面,視野角の拡大など技術競争があった時期から,現在のように,どのテレビでも特別優れた機能があるわけでなく,多少の優劣はあってもテレビはテレビで,放送を見るものでしかない。DVDの録画など忙しい人は,自分の見たいときに録画したものを見ることができるなど,過去のテレビとは違った使い方ができるようにはなっている。しかし,特別優れているので,多少高価でも買おうとするものではない。同じことが安価な製品で提供されているので,そちらへなびいてしまうのは当然である。その点,自動車などステータスシンボルの高級車が売れているのと比較すると違いが歴然である。

家電製品の殆どが,薄型テレビで代表されるようにコモディティ化されてしまっている。その原因は,技術が成熟した商品と云えばそれまでだが,機能的な差別化ができなくなってしまっているからである。そうだと認め諦めてしまっているようでは,技術者としては情けない。それにも拘わらず,スティーブ・ジョブ氏のように素晴らしいヒット商品を打ち出してきているのは,単に商品分野が新しいからなのだろうか?テレビ業界では確かに成熟商品,或いは枯れきった商品と言えるかもしれないが,家電商品全般で見れば必ずしもそうではない。ところが,やはり儲かるヒット商品は出てきていない。

技術開発が止まってローテク化してしまっている訳ではない。薄型化,省エネ化,ローコスト化など顧客要求に合致するような開発は続けられているのであるが,それらに見合う価値を顧客が認めてくれないのである。確かに,開発当初は珍しさ,希少化もあって顧客も高価格にも拘わらず買ってくれる期間がある。要するに,顧客が認める価値がコストを上回っている期間である。企業としては,生産台数が少ないので一台当たりの利益も少なく,大量生産することで低コスト化を図り利益を獲得しようとするが,コモディティ化するスピードが早く,価格低下のスピードが低コスト化のスピードを上回ることにもなり,結果的に企業が利益を獲得する期間が殆ど無くなってしまっている状態になっている。

これまでも創業者利益よりも二番手,三番手がすぐ追いつき利益を奪うことはあったが,現在のようなことにはなっていなかった。それは顧客が当該の新製品に価値を見出していたこともあるが,二番手,三番手もある程度開発コストが掛かっていて,容易に安価にできなかった事情もある(従って,当分の間,値下がりはしなかった)。ところが昨今では,モジュール化や標準化が進み(コモディティ化が進んでいることだが),開発コストを掛けず,安価な労働力で容易に同等の性能を出せる新製品開発ができるようになっているからである。特に,海外の会社では開発コストが掛かっていないので安価でも利益がでるのだから,日本企業の開発コストを掛けた製品価格とは当然優位になってしまう。

つまり,コモディティ化した製品群(開発コストが掛からないような製品)での競争は,日本企業には向いていないのは明白である。尖った製品,つまり他社(特に海外の会社)が容易に追いつけない(少なくとも追いつくのに1年以上を要する)ような新製品開発はあり得ないのだろうか?

新製品開発そのもののどこに問題があるのだろうか?

(続く)

家電商品の主力商品が赤字で苦しんでいる!!

参考文献:「価値づくり経営の論理」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2011.9.22

 

[Reported by H.Nishimura 2011.10.17]


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