■儲からない製品開発 7 (No.247)

話題 : なぜヒット商品,儲かる新製品の開発ができないのか?

  新製品開発が上手くできていない理由(その5) 内的要因 4

リーダや組織責任者が十分機能していないことを前回までに取り上げたが,上司の責任に帰すことで若い技術者が救われる訳ではない。将来を見据えたとき,現在の若い技術者が中心となって活躍することを考えれば,若い技術者として十分なことを果たしているかと云えば必ずしもそうではない。リーダや組織責任者の責任は重いが,若い技術者にも問題はある。

新製品開発に於ける技術力の中心は,若い技術者である。技術の組織力としての責任はリーダや組織責任者にあるが,やはり新たな技術の開発は現場第一線の若い技術者に依存することが大きい。目標は定まっても,それを如何に実現させるか,具体的なやり方は試行錯誤する部分が多い。つまり,顧客の求めるものは理解しても,それを技術的に如何にして実現させるかは技術者の腕の見せ所である。だが,口で言うほど容易いものではなく,なかなか実現させることが難しい。容易にできる技術であれば,既に出来上がっているはずで,出来ていないから検討し,開発するのである。

実際技術者として開発に携わってみた経験からすると,目標としたQ(品質),C(コスト),D(納期)にピッタリ合致したものが出来上がることは少なく,何かが合わなかったり,大きな壁にぶつかって身動きが取れない状況に陥ってしまうことがある。その壁を乗り越えたところにゴールがあるのだが・・・。ここで挫折してしまうことが間々あるのが新製品開発で,何でも予定通りに開発ができるものは,新製品開発とは名ばかりで,それは設計作業に過ぎない。これも,もちろん技術者として立派な仕事で,如何に早く,確実にできるかで有効な活動ではある。ここで論じている儲かる新製品開発とは,設計作業ではなく,未知の新しい技術で以て顧客の感動を呼ぶものを開発することである。大きな壁にぶつかり,諦めなければならない寸前になったことがある経験からすれば,最後に力を発揮できるのは,何と云っても一つのことにとことん集中して諦めない執拗さではないかと思っている。この執念が今の技術者に欠如しているのではないかとも思う。

目標の決め方も,リーダから下りてくる場合が多いが,技術者として見失ってならないのが,目標が顧客の求めているものに合致しているかどうかである。どちらかと云えば,技術者は新しい技術に目が向いてしまうが,求められているのは新しい技術開発ではなく,顧客が要求しているもの(顧客に感動を与えるもの)の実現であって,ハイテクである必要はなく,ローテクで実現できても良いのである。ここを見失っている技術者が実に多い。その例は,プロジェクトが終わっての振り返りなどの話題で判断すれば判る。振り返りの話題の中心となるのが,殆どの場合,技術的な課題や納期的な問題などで,顧客に対してどうだったかとの話題が殆ど無いことからも類推される。本来プロジェクトとして振り返りをするのならば,先ず第一が顧客にどれだけ喜んで貰うことができたか否かではないだろうか。顧客中心などと,言葉だけがひとり歩きしているのが開発現場ではないかと感じている。(顧客を見ていない開発者が如何に多いことか!!)

少し違った角度から観察してみる。若い技術者の開発意欲,新しいことへの挑戦などモチベーションの低下は,学校教育の問題が深層に横たわっている気がする。少なくとも我々の世代(団塊の世代)は,学校でも何かにつけて競争があり,現在の30歳代位からの横並び,仲間意識の教育とは明らかに違う。その例は,最近の運動会をみても個人の競争はなく,せいぜい団体での競争であり,また,昔は学業成績でも中学生以降では,順位の公表は当たり前で,仲間との競争意識が成長のバネになっていたように感じている。決して,受験戦争のような相手をけ落としてでも勝ち上がることを推奨している訳ではないが,競争に勝ち抜くくらいの根性を以て仕事をしなければ,新興国の台頭に勝ち目はないのである。そのことが,最近の若者はなかなか身を以て判っていない気がしてならない。それが学校教育に起因していると感じている。

元々,和を以て尊しの精神が日本にはある。これ自体は非常に優れたことで,ことチームプレイで競争する場合は非常に心強い。我々の世代は個人での競争と共に,和の精神もしっかり持っていた。しかし,最近の技術者の態度から見る限り,和を以て尊しではなく,極端な個人プレイでもなく,中途半端な気力の失せた技術者が目立つように見えることがある。もちろん,目標をきっちり与えて仕事をさせればそつなくこなす力はもっている。与えられたことを処理する能力には長けている。だけど,これはと自分が思ったことを,多少ルール破りでも構わず突破してしまうような,謂わば“やんちゃな技術者”は少ない。開発とは,良い意味のルール破りで,それが顧客とマッチングすれば素晴らしい開発に繋がるものである。技術力を高める努力だけでなく,出る杭は打たれる環境を自ら突破する行動力を持って欲しいものである。

そうした顧客のニーズを自ら掘り起こす力は,今の若い技術者も十分あると思っている。分業の役割分担が明確になりすぎて,顧客の声を聞く役割は営業と決めつけてしまっていないか。言い方は悪いが,顧客から発せられたニーズは誰でも判り,顧客ニーズには違いないが,それだけでは不十分である。技術シーズを内に秘めた技術者が顧客の生の声を聞いて,顧客が未だ感じていない潜在ニーズを掘り起こすのは技術者自身であり,それは重要な役割なのである。その潜在ニーズを掘り起こして,顧客に感動して貰う製品開発こそ技術者冥利に尽きると思う。是非,技術者は内に籠もって実験開発するだけでなく,市場に出てニーズ発掘にも力を注いで欲しいものである。そうすれば,必ず儲かる新製品が生まれるチャンスがある。

ただこれは技術者であれば誰でもできるものではない。元々持っている感性のようなものが豊かな技術者であることが必要条件である。技術者と云ってもいろいろなタイプがあり,感性豊かで市場の動きに敏感で,企画力もある営業をやらせても十分出来るような人もいれば,そうではなく実験室でコツコツ材料とにらみ合って,あたかもそれと会話するかのように楽しんで実験を繰り返すようなタイプの人も居る。後者のような人に企画をさせようとすれば苦痛で本来の力の半分も発揮できない。だから技術者なら誰しも市場に出てマーケティングをするのが良いとは思わない,そこは適性を見るべきである。ただ,技術者は開発だけをやっていれば十分だと決めつけるのではなく,個性を活かして十二分に力を発揮できる環境に置いてやるべきである。また,技術者自ら勧んでそうすべきである。

若い技術者たちよ,もっと出る杭になって打たれよ!!

最後の勝負は執念がどれだけあるかに掛かっている!!

 

参考文献:「価値づくり経営の論理」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2011.9.22

       「MOT「技術経営」入門」  延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2006.9.22

[Reported by H.Nishimura 2011.11.28]


Copyright (C)2011  Hitoshi Nishimura