■儲からない製品開発 5 (No.245)

話題 : なぜヒット商品,儲かる新製品の開発ができないのか?

  新製品開発が上手くできていない理由(その3) 内的要因 2

先ず第一に開発第一線の開発リーダの問題を取り上げたが,次に開発組織のあり方の課題を取り上げる。つまり,新製品開発は個人の能力ではなく,開発組織で行われるが,この開発組織が十分機能できずに,結果的に競争力のない,顧客に価値を認められない製品しか開発できないことが問題である。この問題の責任は開発リーダと云うより,その上の開発(組織)責任者の無策によるものと考えられる。こちらの方が問題としては深刻である。

その大きな理由の一つは,特に電機産業においては,技術的にも素晴らしい新製品が開発されているが,1990年代以降利益がなかなか出ない構図に陥っている。新興国の台頭など先に述べた外部環境によるところが大きいが,顧客が価値を認める新製品の開発が十分できていないところに問題がある。すべての日本の産業がそうかと云えば,自動車産業のように,新興国の台頭があっても,高価な日本の車が顧客をしっかり捉えている。産業の違いと云えばそれまでであるが,開発への取り組み姿勢も違っているように見える。その大きな点は商品企画力ではないだろうか。自動車はいまだに顧客に売れる商品作りができている。ただ自動車も安心ばかりはしていられない。多くの人が気づいているように,自動車も日本優位の構図はいつまでも続くのではなく,電機産業と同じ道を歩むことになるだろう。それが,2,3年後か,5年以上後かはわからないが・・・。

こうした新製品開発は当に技術経営戦略とでも云うか,如何に産業そのものを新興国の台頭に負けない製品開発をすることにあり,こうした責任は現場責任と云うより,上の技術政策・戦略に依存する部分であり,開発(組織)責任者としての責任は免れないところである。技術開発を中心とした目先の開発商品にばかり集中し,僅かな利益しか出ないことが判っていてもこれまで儲かっていた栄光の商品にしがみつき,顧客ニーズを創出するような新製品開発を怠っていたためではなかろうか?現に,売れる商品は,アップル社のipadやiPhoneと云ったもので代表されるように,米国の方が優位である。これまでのような日本発の新製品が影を潜めているではないか。特に,ソフトウェアをベースにした開発に遅れが目立つ。

一口に製品開発と云っても,優秀な技術者が集まればすぐにできるものではない。これまで日本の製品が顧客に満足された商品化に成功していた裏には,それまでに培われてきた組織力(要素技術,ノウハウ,基礎技術など)の結集の賜物であり,企業が互いに切磋琢磨してきたもので,数年先の将来の商品化に向けた蓄積が常に行われていた。だから,新製品のネタが次々と仕込まれていて,顧客のニーズに合った感動するような商品化ができており,日本の高い技術力が称賛されていたのである。ところが時代は変わった。技術蓄積する努力が希薄化してきているのである。

それを下図で説明する。

下図は,数年前になかなか思うように利益が上がらない状況をみて実態調査し,その原因がリーダの意識構造に問題があることを表現するために作成したものである(当時,この図を見せると,殆どの責任者がその通りだと頷いた)。本来,組織力があってその上に商品が出来上がり,利益が上げられていた。ところが,下図の現状で示すように,利益追求が強く,急いで求められるために,全体の意識構造が利益が先にあって大きく,組織力が乏しくなってしまってきている。時の流れで一般層はやむを得ないとしても,責任者層までがこのような構図になってしまっている実態があった。利益は大切だが,それは組織力などに裏付けされたもので初めて生まれるもので,組織力の乏しい状態で利益は生まれない。このように図で指し示すと理解はできるのだが,実態は大きな渦に巻き込まれてしまって理解できずに行動に移しているリーダ層が多いのである。全体の意識構造そのものをもう一度理想に戻す必要がある。これは組織責任者の重要な役割である。

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しかも,組織力を高めても実際に商品化され利益に還元されるまでには時間(期間)を要する(下図のように,数年の遅延が生じる)。だからこそ,組織責任者は将来を見据えて手を打つことが重要なのだが,それができていない。否,できない状況に置かれてしまっている。つまり,即利益を上げないと,職責を全うすることにならず,首が飛んでしまう状況にあるので,将来に向けた組織力よりも手早い差別化などに目が向いてしまっている。本来上になればなるほど,利益の源泉となる組織力を強化させ,価値創造への力を結集させねば鳴らないはずが,幹部も一般と一緒になって目先の利益追求(価値獲得)へ走っている。将来が先細りするのは当然の結末である。また,よく見られることだが,組織変更が激しく,本来,現時点の結果責任を追及されるべき経営幹部が居なくなっていて,たまたまその時点で居る幹部が責任を負う事態が起こっている。本当は前任者の責任だと言いたいところである。しかし,サラリーマンである以上,運も成功の一つの要素であり,じっと我慢しなければならないのである。今もこの仕組みは殆ど変わっていない。

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以上のようなことが,日本の組織のあらゆるところで起きている。これはたいへんな事態である。しかし,抜本的に立て直しをする余裕は全くない。これでは,確実に,長期的に利益を上げ,企業を健全化させることは不可能である。

組織力を軽んずるところに健全な成長は無い

企業そのもののあり方が問われている

 

参考文献:「価値づくり経営の論理」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2011.9.22

      「MOT「技術経営」入門」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2006.9.22

 

[Reported by H.Nishimura 2011.11.14]


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