■儲からない製品開発 3 (No.243)

話題 : なぜヒット商品,儲かる新製品の開発ができないのか?

  新製品開発が上手くできていない理由(その1) 外的要因

儲からない理由はいろいろあるが,環境変化に依るところが大きく,先ずその点から考えてみる。

  @デジタル化の進展

新製品開発の中心が,ハード面での擦り合わせを主とするアナログ的なものから,ソフトウェアを主としたデジタル的なものに変化してきていることがある。これは何を意味しているかと云うと,アナログ的なものは標準化することがデジタル的なものと比較して難しく,個々の微妙な調整などによって,より良い性能を出すことができる部分が多く,経験や熟練などに依る部分が大きい。謂わば,アナログ的なものは知識としては暗黙知的なものが多かった。

それに比較してデジタル化の進展は,0か1の組み合わせでできるため,標準化し易く,微妙な調整などしなくて同じ性能が出せるようになってきた。そのことは,経験や熟練などに依らず,一定の知識があれば,ベテランと新人の差は無くなってきている。つまり,日本固有の技術力に依存することなく,同じ性能の製品開発ができるようになってしまったのである。

デジタル化は,部品の組み合わせを容易にし,標準部品を集めて組み合わせることで,殆ど差のない性能確保ができるため,日本のような高い技術力を有した賃金の高い開発者を必要とせず,新興国などの技術レベルは劣っても,賃金の安い開発者で同等の製品化ができるため,日本の競争力は落ちてしまっている一つの要因である。もちろん,すべての新製品がそうだとは云わないが,ある程度普及した商品の開発はこのような状態になったいる。

  A価格決定権の変化(供給側→需要側)

高度成長期など需要が供給に追いついていない状況下では,供給側が掛かったコストに対して利益などを見込んで値付けすることで市場価格が決まっていた。従って,大量生産などコストダウンを図ることで利益が増加する方程式が成り立っており,企業はコストダウンの努力を惜しまず努力した。即ち,損益分岐点(下図参照:利益を出すために必要な販売額,数量を算出)を意識して,それを低くする努力(原価低減,固定費削減など)をしていた。その結果利益が出て,従業員の給料に,或いは顧客の市場価格低下へと還元されていた。

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また,企業はポートフォリオで有名な,商品の成長過程を4象限(市場占有率vs.市場成長率)に分類し,問題児(占有率:低,成長率:大)→花形商品(占有率:高,成長率:大)→金のなる木(占有率:高,成長率:小)→負け犬(占有率:低,成長率:小)に区分し,各々の商品を成長させ,成熟期から衰退期に入ると商品を入れ替え,成熟期で金のなる木から得た資金を問題児〜花形商品へつぎ込むことを繰り返し,企業全体として成長するようにしていた。高度成長期(供給<需要)にはこのサイクルが上手く廻っていた。

ところが需要に対して供給が十分追いつくようになると,供給側の目がだんだん肥えてきて要求が多様化し,供給側の要求に合致した商品が価値を認められ売れる商品になってくるようになった。つまり価格決定権が供給側から需要側へと移り始めた。即ち,供給側でコストから商品価格が決められていたものが,コストではなく需要側(顧客)が付加価値に見合った商品価格で買い求めるようになったのである。これは大きな変化でこれまで行われていた商品価格とコストの関係が乖離する事態になったのである。

そうなると売れる商品は益々顧客の求める商品になり,付加価値の見出せない商品は自ずと低価格競争が熾烈となり,そのうち企業も日本でのコストの合わない商品(赤字商品)は生産中止にせざるを得なくなり,海外生産品などコストの安い(原材料が安く,低賃金)商品が席捲し,市場原理が働き日本製商品が淘汰されることになってきている。

  B変化のスピード

商品の寿命も短くなり,開発のスピードもそれに乗じてスピード対応するようになってきている。つまり,これまでの緩やかな変化ではなく,すべての変化が速くなってきている。このことは新たに開発した新製品の売れる期間が短くなっていることを意味する。要は開発した新製品が量産化され売れ筋となって利益を出す期間が短く,製品の陳腐化が早くなってきている。つまり,企業として利益を上げる期間が短いことは,新製品として稼ぎ出す総利益額が減ることを意味しており,付加価値が十分採れないことになってしまう。結果的に新製品の販売額そのものも減少し(企画数が減少),開発に掛かるコストが同じように掛かっておれば,製品一台当たりの開発コストが上昇することになり,この点でも利益額が減少することになってしまう。

開発期間もスピード化しているので,開発費は期間が短い分減少しているかと云えばそうではなく,開発そのものの内容が複雑化,ソフトウェア化している状況から開発人件費は大きく膨らんでいるのが実態であり,むしろ企画数減少により利益を圧迫しているのが現状であると云える。こうした傾向は,製品がソフトウェア開発に依存している部分が大きければ大きいほど開発人件費が大きく,製品がヒットして売れるかどうか(企画数の大小)で経営を左右することになる。

  C技術力の向上

開発技術力そのものは格段の進歩が見られるが,このことによりモジュール化や標準化が進み,商品のコモディティ化が進むことになり,技術力の高い先進国でなくとも製品開発が容易に進むようになってきている。つまり日本が得意とした電気製品群が,新興国でも少しの技術力があれば品質の良い顧客に満足を与える製品が作れるようになってきており,大きな変化として,開発競争が世界規模で激化してきている。そうしたことで,低価格化の加速に一役買っているのが実情で,世界的に技術力向上そのものは歓迎すべきことなのであるが,日本としての競争力を考えると厳しい一面になってしまっているのである。

 

以上,初めに主な外的要因を列挙したが,先ずは外部環境の変化を冷静に受けとめることが大切だからあえて列挙することにしてみた。これらは事実であり,個人や会社組織だけではどうしようもない流れなのである。こうした事実を踏まえた上で考えないと,過去の経験に縛られたり,これまでの栄光を再びと夢描くだけでは解決に結びつかない。また,これらを理由に儲からないと嘆いているようでは,この先の明るい未来は無い。これまでとは違ったこれら厳しい環境下にあることの事実を踏まえて,それらを乗り越えるところに技術者の本来の使命があるのである。即ち,こうした外的要因下にあっても自らコントロール可能な内的要因がいろいろ潜んでおり,それらを克服することが重要で,次週以降は内的要因について述べることにする。

(続く)

環境変化に追随できていないところに一つの要因がある

 

参考文献:「価値づくり経営の論理」 延岡健太郎著 日本経済新聞出版社 2011.9.22

 

[Reported by H.Nishimura 2011.10.31]


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