■京都のものづくりの真髄に触れる 1 (No.301)
10月から標記テーマによる大学での講義を拝聴している。以前,このコーナーでも触れたことがある「伝統産業から学ぶ 1,2,3,4,5」と同じ系統の講義で,前のときは社会人ばかりで20数人で,現地見学を中心としたものであったのに対して,今回は大学の授業の一つで,学生が数十名の中に,社会人が20数名混じって,教室での80分の講義形式である。毎週1回,各伝統工芸の専門家が来られ,実物も持参されたり,映像(動画・スライドなど)も取り込んだ講義を受講している。
講義の一覧
先ず,どんな内容の講義か紹介しておこう。
「京菓子」,「京唐紙」,「京表具」,「西陣織」,「小紋型紙」,「藍染」,「京木工芸」,「陶芸」,「漆芸」,「金属工芸」,「京人形」,「仏像彫刻」がその全体で,講義の狙いは,各々の分野を極めた職人・作家の肉声とモノに託された研ぎ澄まされた感覚を目の辺りにすることにより,物づくりの真髄に触れること,とある。
伝統工芸がそうであったように,各々の分野を極めた人の物づくりに対する息吹に触れ,物づくりに対する思いに接することで,これまで私が経験した量産工法を中心とした物づくりとどんな点が共通し,どんな点が違っているかを学び,物づくりの真髄とはどんなことかを学んでみようと思い受講してみた。学生と一緒の講義なので,学生には出席と講義の後のレポート(感想や意見)提出があり,社会人には義務づけされていないが,折角の講義なので感じたことをそのまま書き,毎回レポート(A4 1枚程度)は提出している。
その道を極めた人の講義
授業を専門とした大学教授の講義と違って,その道何十年と云う専門家の講義で,毎回違ったタイプの講師で,各人その特徴がよく表れている。年齢的には我々の世代から若い人は40代の講師陣で,その道一筋と云う人ばかりである。したがって,各々の工芸を極めた人で,その工芸に人生を賭けられ,自信に満ちた様子がその言葉から湧き出てきている。
「京都学」と名付けられた講義は今回で数回目になり,いずれの講師も初めての講義ではないようなので,各々時間配分を気にしながら,時間内に終わるようにされているが,職人として熱く語る人も居れば,伝統職人としての偉業を誇らしげに語る人も居るなど講義としての上手・下手は様々である。ただ,伝統を受け継いで何とかしたいと云う気持は,非常に強いものがある。誰にも負けていないと云う自負が漂っている。
今回の講義になっているモノの工芸としての技術的な高さ,素晴らしさはどれをとっても超一流で,これに優るものは無いと言っても良い。出来上がった製品・作品はほれぼれとするモノばかりである。こんな素晴らしい物づくりの技術が根強く伝わっていることに感心させられる。技術の引継は親から,師匠からなど様々であるが,素晴らしい技術を継続して何年も務め,磨くことで今日に至っていることは日本の誇りであると感じる。
講義内容が学生を対象としており,伝統工芸そのものもよく知らない学生も多いので,講師は必ず工芸そのものの歴史や成り立ち,今日に至るまでの経過などからは入り,自分の生い立ちなど,今日になるまでの経緯を簡単に紹介される。日頃から慣れ親しんでいるモノが少ないせいか,歴史や成り立ちからも初めて知ることも多い。製作工程は映像などで説明されるものもあるが,実際に見るのとは違って,プロセスの真髄を知ることはなかなか難しい。出来上がったモノや製作道具などから大凡のことは理解できるが,そのノウハウには行き着かず,講師の話も,人にもよるが自己陶酔ではないかと思わせる部分などもあり,話だけでは人にはなかなか伝わらない境地があるようである。
何世代も続いた家業
講師には何代目当主となった伝統家業を引き継いだ方が半数以上を占めている。つまり,子供の頃から,父親の背中を見て育ち,家業を継ぐ者として育てられたせいか,現在やっておられることが子供の頃から少しずつ身に付いた,身に染み込んでいるようにも窺える。伝統ある家庭に生まれ育った宿命とも云えるが,講師として来られている方々は全員,意気揚々と仕事に打ち込んで居られる。
ただ,古くからの伝統は素晴らしいものであるが,それが商売として成り立っているかは別問題のようである。すべてではないが,大半は細々と家業を継いで,何とか自分の代までは伝統を守り抜く気概であるが,将来的に大きく発展するであろう職業は見当たらない。だんだんその仕事に就く人が居なくなり,工芸品の修理など伝統を守ることが精一杯のように感じるモノもある。修理は技術的には高いものを求められるが,その割に商売として拡大する見込みは限られてしまっている。
今日までの足跡は,伝統あるモノとはいえ必ずしも順風満帆ばかりではないようであるが,若い人に向けた講義のせいもあって,余り苦労話は出てこない。伝統のよさを強調された話が中心で,これからの若い人で興味がある人があれば是非参加してみて欲しい,と云った意向のようにも感じられる。
京都の伝統あるものづくりは素晴らしいものがある
[Reported by H.Nishimura 2012.12.24]
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