■伝統産業から学ぶ 2  (No.272)

伝統工芸品と呼ばれるものがあり,これらを何百年も支え続けているのが伝統産業で,京都には有名なものが多い。

  伝統工芸品とは?

昭和49年5月25日に施行された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づき,経済産業大臣が指定するもので,次の要件が必要。

@主として日常生活に使われるもの。
A主要工程が手作業であること。
B江戸時代以前(100年以上)の伝統的技術技法により製造されていること。
C江戸時代以前(100年以上)の伝統的に使用されてきた原材料を使用していること。
D10社以上,従業員30人以上の産地を形成していること。

このすべての条件を満たすことは難しい。特にDの産地の形成が難しく,年々継続が難しくなり減ってきて,数軒しか残っていない工芸品も多くなってきている。

  京都に於ける伝統工芸品とは

現在,国が指定している伝統工芸品が17品目(日本の都道府県では一番多い)ある。(日本全国では211品目)

伝統工芸品

指定年月日

西陣織,京鹿の子紋,京仏壇,京仏具,京漆器 昭和51年2月
京友禅,京小紋,京指物 昭和51年6月
京くみひも,京繍 昭和51年12月
京焼・清水焼 昭和52年3月
京扇子,京うちわ 昭和52年10月
京黒紋付染 昭和54年
京石工芸品 昭和57年
京人形 昭和61年
京表具 平成9年

国指定要件の中でDの要件(産地を形成していること)を満たしていない伝統工芸品を京都市が認定 56品目あり

例.舞妓のかんざし(1軒),舞妓のかつら(2軒),京舞の足袋(1軒),和傘(1軒),和ろうそく(5軒),尺八(1軒),三味線(1軒)

内訳

  1. 京都府伝統工芸品(京都府伝統工芸品指定要綱:平成6年)  12品目 (市内関連)
  2. 京都市手しごと工芸品(小規模産地:平成14年)         32品目
  3. 京都市伝統産業活性化推進条例(その他,清酒,京料理,京菓子,京漬け物など:平成18年) 12品目

  伝統産業の歴史(京都伝統産業ふれあい館見学資料より)

・京都の伝統産業の技術のルーツは平安京設立と共に 「朝廷による政治,儀式に必要な用具,権威を維持するために必要な用具,支配者階級の生活に必要な用具」

・漆器や和紙は8世紀から,織物も8〜9世紀,陶磁器や仏像は12世紀頃に確立

・鎌倉,室町時代・・・武家社会と禅

・安土・桃山時代・・・茶の湯と工芸

・江戸時代  ・・・問屋制家内工業 → 工場制手工業

・明治維新後の新政府の取り組み  ウィーン万国博(明治6年,1873年) 

          → 工芸品(陶磁器,漆器,銅器,七宝など)が世界的に認められ,その指導機関ができる

  京都の伝統産業の現状(講義資料より)

@本来,日本の自然,風土に根ざした伝統的な和のスタイルに対応した日常生活に使用するものづくりが中心であった。

A近代化の波が押し寄せる中で,次第に人間の手を離れ,機械化量産化の道を突き進んだ。

B特に20世紀後半から今日までの半世紀,日本社会は著しく変容。=和から洋へのライフスタイル変化。

C和の分野の悪循環スパイラルへの突入。
  デザイン不在・市場縮小・生産調整・・・
    コストダウン・輸入資材導入・産地の海外移転・旧態依然の流通機構・後継者難・廃業者続出など。

D原点に立ち戻って考える=近代工業化以前の状況に戻ってみる

  ●伝統を今に活かすとは職人の技を活かすこと

  ●職人とデザイナーの協同により,新たな「用の美」を生み出すこと

  ●同時に使い手の価値観を変えること

  ●そのために手仕事とその現場を知る

  伝統工芸品の課題

やはり一番大きな課題は,年々生産額が減少し,産業そのものが衰退化の一途を辿っていることで,もちろん従業員も比例して減少し,しかも高齢化していることである。

平成20年度に経済産業省製造産業局 伝統的工芸品産業室からの報告によると,次のような課題があるとされている。

1) 需要の低迷
 @ 少子高齢化による人口の減少
 A 国民の生活様式や生活空間の変化
 B 生活用品に対する国民意識の変化
 C 大量生産方式による安価な生活用品の普及
 D 海外からの輸入品の増加等

2)量産化ができない
 @ 基本は「手作り」: 手間も時間もかけた丁寧な仕上げ
 A 原材料,技術,技法へのこだわり: 多岐にわたる複雑な工程
 B 企業活動の規模も小規模: 1社あたりの平均従事者数は5.6人

3)人材,後継者の不足
 @産地の従事者数は,昭和50年代前半と比べて過去30年の間に約3分の1の水準に減少。昭和54年:290千人 平成18年:93千人
 A産地における高齢化が依然として解消されていない。
 B若年層の間に「就労意識の変化」や「将来への不安」

4)生産基盤(原材料,生産用具など)の減衰・深刻化
 @ 原材料は,主に自然素材であり,貴重な有限の資源。したがって,再生産には制約があること,原材料として再生・活用・使用
  できるようになるまでには相応の時間が必要であることなど,減衰・枯渇は深刻化。  
 A 産業活動の縮小は,生産用具の使用機会の減少をもたらし,用具の材料の採取,用具の製作・修理などを担う人材も,専業では
  成り立たず,廃業を余儀なくされる事態。  

5) 産地の知名度の不足
 @ 消費者は,伝統的工芸品のもつ「本物の良さ」や味わい深さ,日常生活における伝統的工芸品の活用や使用についての
  情報・理解が不足がち。
 A 背景には,国民の生活様式の変化,安価な生活用品の普及などにより,
  ・伝統的・歴史的な情報・理解を必要とせず,利便性・機能性が重視される日常生活へと構造的な変化が生じていること   
  ・冠婚葬祭,進物儀礼などの伝統的・慣習上の機会が減少しつつあること
    ・若年層の伝統的な文化や生活に対する体験や知識が不足しがちであることなどが挙げられる。   
 B 国内のみならず,海外においても,一部ブランドを除き,伝統的工芸品の知名度は必ずしも高くない。
  

(続く) 工房現場見学 → 西陣織から

  

[Reported by H.Nishimura 2012.05.28]


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