■伝統産業から学ぶ 4 (No.276)
次に,伝統工芸品の現場を見学していろいろな課題があることが判った。
伝統的工芸品の条件にある矛盾?
国の指定している伝統的工芸品の5つの条件を以下に再掲載するが,対象となっている伝統的工芸品の多くがその条件をクリアすることが難しくなってきている。
@主として日常生活に使われるもの。
A主要工程が手作業であること。
B江戸時代以前(100年以上)の伝統的技術技法により製造されていること。
C江戸時代以前(100年以上)の伝統的に使用されてきた原材料を使用していること。
D10社以上,従業員30人以上の産地を形成していること。
- 商品として日常的に使われるものからどんどん衰退し,珍しいもの,即ち,文化的・遺産的価値が出てきつつあるものがある(西陣織,京友禅,清水焼など)。つまり,工芸品が日常的に使われ続けるには,安価で使いやすいことが重要だが,自ら条件で枠を嵌めてしまっていて,産業として成り立つ条件が狭められつつある。
- そのそもの条件に手工業や技術,原材料の継承など古いままでの定義は,産業として伸びることを自ら否定する条件であり,その結果として,一定の産地形成を維持することができなくなってきている。つまり,昭和49年に制定された時代と40年近く経った今日では,その環境が大きく変わってしまっている。
- 日常品が手作業で作られたものである必要性はあるのか?手作業品の出来映えが機械品よりも優れていた名残が残っているだけではないか?すべて機械化はともかく,産業として成り立つためには,品質確保が十分できる範囲での機械化導入は必須ではないか?こうした条件の見直しが定期的になされているのか?
- 各々の伝統的工芸品に携わっておられる方々は,中小零細企業が多く,専門技術・技能に長けた人はおられるが,伝統的工芸品として産業として発展させる商品企画などができる人は見当たらないように感じられた。伝統的工芸品の条件を維持していくための優秀な人材の投入が行われているのか?
- 伝統的工芸品を支える活動はあるようだが,これも産業を発展させる活動と云うより,文化遺産を保存する活動,つまり製品,古い道具・機械など(見えるもの)を大切に守ろうと云う姿勢は見られるが,職人の技術・技能・ノウハウなど暗黙知(見えないもの)を如何に伝承するかとの視点が欠落しているように感じられる。
技術の伝承が欠落してはいないか?
現場見学する限りでは,大学や京都市から(国,都道府県など)の援助があって伝統的工芸品を支える活動が展開され,存続してきているようであるが,西陣織,清水焼,京友禅などを見学して感じることは,機織機や窯など目に見える財産については関心が高く,保存しようとするところがありありと伺えるが,それらが残ったところで,肝心のプロセス技術が伝承されないようでは,単なる遺物になってしまう可能性がある。また,京友禅でも絵を描く部分については,技術・ノウハウの伝承もされてきているが,京友禅としてトータルのプロセス技術がきっちり継承されているようでなく,工程の一部にボトルネックとなった部分があり,ここでの伝承が危ぶまれるようである。
また,現場が職人特有の手に技術を持った人が多く,工業製品で行われているような仕様書・設計図面などが少なく,その技術・ノウハウがその人固有の暗黙知のままになっている部分が多い。設計図などドキュメント化すれば,すぐに伝承されるとは言い難いノウハウが多いことは理解できるが,技術の伝承が疎かにされているように見える。否,職人の集まりの中での常識は,親方や先輩から技術・ノウハウは盗み取ることで継承されて行くのかも知れないが,後継者不足が言われる中では,ますます伝承が困難な事態に陥っている。
自分自身が技術の伝承に興味があるので,どうしても技術・ノウハウの伝承方法,継承手段などに関心があり,そうした目で見るからかも知れないが,通常一般の企業での技術・ノウハウの伝承から見れば,全く伝承ができていないように映る。つまり,職人の方々は自分の保有する技術・ノウハウに誇り高いものを持っておられ,それらは非常に優秀なもの,希少価値の高いものであることは伺える。しかし,それら技術・ノウハウを次の世代へ伝承するノウハウは持ち合わせていない。また,国や市などの保存を推奨している機関も,各々の産業任せになっており,文化遺産的な保存の支援になっている。つまり,伝統的工芸品として各々のトータル技術・プロセスの伝承をコーディネートしている人が見当たらない。このままでは,後継者の減少,及び作業条件の困難さ(公害などへの配慮)など,技術が廃れていくのをそのまま放置されてしまっているように映る。これは由々しきことではないか。
顧客目線の商品が作られ続けているか?
産業として成り立たせて行くには,顧客の要求に応えて行くことが重要である。どの商品も伝統的には優れたことはよく判るが,顧客目線の商品開発ができているかと云うとなかなかそうではない面が随所に見られる。伝統に固執するあまり顧客を見失っているものも多い。つまり自分たちの伝統ある技術に誇りがあり,そうした優れた技術で作っているものだから買わないのは顧客が見る目がないからだ,と云わんばかりの様子も垣間見える。
小学生など古い伝統技術の良さを伝え,ファン作りをされている産業もあるが,どちらかと云えば文化的・教育的な面であり,真に産業を維持拡大していくような意気込みは感じられない。いつまでも日常品として使って貰うには,少なくとも市場や顧客要求の変化に敏感に対応することが必要ではないか?それを伝統的と云う言葉の魔術で,古いものをそのまま続けることがすべてで,それで産業として成り立たないのは致し方ないとの諦めがあるのではないか?
時代の流れと共に産業が廃れていくのは世の常である。いろいろな環境変化に対応できないと生き残れないことも事実である。そうした事実を踏まえた上で,伝統的工芸品としての生きる道を自らが切り拓かなければならないことを十分認識する必要がある。そうした意味では,今一度顧客目線に立ち返って,産業としてのあり方を追究するべきではないだろうか。
伝統的工芸品が素晴らしい文化的遺産になりつつあるのではないか!
優れた技術の伝承を今一度見直してみよう!
[Reported by H.Nishimura 2012.06.25]
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