■伝統産業から学ぶ 3 (No.275)
伝統工芸品の現場を見学して感じたことを述べてみる。
西陣織
京都でも最初に伝統工芸品として指定され,全国に,或いは世界に名の知られた織物である。西陣織会館(http://www.nishijin.or.jp/kaikan/)が堀川通今出川にあり,西陣織の歴史など資料館,展示即売,着物ショーなどが行われ,観光客を集めている。詳細はそのホームページに譲るとして,そこで感じたことを以下に述べてみる。
確かに観光客を集客する目的はこれで十分なのかも知れないが,伝統工芸品として産業として見ると,その衰退は激しい。確かに,生活品としての着物の需要は激減している。成人式,結婚式など着物姿を見る機会は未だ残っているとはいえ,それもだんだん少なくなってきている。私達の時代は,未だ嫁入り道具のタンスや長持の中に,着物を何枚かあったものである。実際,今も女房の袖も通したことのない着物がタンスの中に数枚あるが,着る機会もないようである。娘も成人式の着物は祖父母に作って貰ったが,それだけで嫁入り道具の中に着物は一枚も持って行かなかった。このことに象徴されるように,日本人の女性が着物を着る習慣が殆ど無くなってしまっており,その反映が着物産業そのものの衰退になってきている。
データから見る限り,織機の設備台数も年々減少してきており,織機を扱う女性も高齢化し,減少しているようである。希少価値は増しているものの,産業として成り立たないようでは,それで生活することも困難になりつつあることは必然的であり,伝統工芸品としての行く末が心配される。ただ,西陣織としてのブランドイメージは十分高いものがあり,今後どのようにするかは窺い知ることはできなかったが,問題が多いことは事実である。
京焼・清水焼
京都五条にある清水焼の窯元を見学させてもらった。そこでは,昔の登り窯や煙突が残っているが,焼き物は行われていない。廻りに住民が多く住む市内では,煙突からの公害が酷く焼き物をすることはできず,その遺物として窯があり,それを京都市が保存していると云われている。確かに,その登り窯を拝見すると,廻りに散らばっている焼き物や窯入れするサヤなど当時が偲ばれる。
この遺産を残そうといろいろな人の努力がなされていることも伺うことができたが,何か虚しさが感じられてならなかった。文化遺産として登り窯を残すことに異論はないが,本当にこれだけを残しているだけで,遺産でしかないのではと云う感じが強く,焼き物を作る技術はどのように伝承されているか気になったので尋ねてみたが,技術は他の土地で細々と伝わっているが,殆ど技術の伝承はされずに終わってしまっているようであった。
現在も清水焼と称して売られている焼き物があるが,どうもその殆どが昔ながらの窯で焼いたものではなく,電気炉で焼いたもののようである。伝統工芸として,登り窯と電気炉の違いは明らかであり,製造プロセスが明らかに違っているがどこまでを伝統工芸と認められているのか疑問を感じる。
伝統工芸品として扱うならば,登り窯を残すと同時にその技術の伝承もあってこそ成り立つもので,現在のような登り窯だけの保存は,文化遺産としての扱いにしかならない。要は,文化遺産として目に見えるものを保存するのはそれで良いが,伝統工芸としては技術が伝承されて初めて成り立つもので,登り窯を扱う焼き物技術の目に見えない技術・ノウハウの伝承が大切なのではないか。どうもこの目に見えない暗黙知の多い技術が蔑ろにされているようでならない。
京友禅
ここも着物なので産業全体としては,西陣織と変わりないと思われる。ただ,手書き友禅として,その技術は若い人への伝承もされているように伺えた。実際,工場内で働く若い人も見かけられたし,それ以外に内職としてされている人が2倍以上おられるようで(年齢的には判らないが),手書き友禅としての技術は残って行くように見えた。
ただ,ここでの課題は,京友禅として仕上がるまでの工程が20工程ほどあり,それらは外部で行われており,工程によっては1〜2人しか日本でもいない状況になっているようである。その品質によって,京友禅そのものが左右されかねないようであるが,それらに対して適切な手が打てているかと聞けば,疑問符が付けられるようである。要は,専業化が強く,他からはどうしようもないようである。工程毎に専門業に特化しているため,全体をコーディネートできていないようである。
着物の仕上がりを誰が見ているのかと質問してみたが,最初に企画図案した人が出来映えをチェックされるようであるが,各々の工程に立ち入って指示するようなことはできないようで,出来上がり状態をみているだけに過ぎないようである。これでは,京友禅の技術もいつ何時立ち行かなくなるかは時間の問題ではないかとも感じられた。
(続く)
多くの伝統工芸品が遺産的な扱い?になってしまっている
伝統工芸品としてのトータルコーディネートは誰が?
[Reported by H.Nishimura 2012.06.18]
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