■職場の問題点とその解決策 10 生産性の向上策 2 (No.482)
生産性向上策の続きである。生産性が向上しているかどうかを見るには,計画した目標値と実績と比較して分析することが必要で,思ったより工数が増えたとか減ったとか,感覚的なことは大まかには把握できるが,それだけでは生産性向上策が効果がどれだけあったか定かではない。意外と丼勘定で把握するだけに留まっていることも多いので,ここでは品質的な観点の量と質に分けて検討してみることにする。
生産性向上の結果分析
生産性向上は,トータル工数が予測した時間,又は標準とした目標時間より多かったか少なかったかで,前者であれば向上せず,後者であれば向上したと見なすことができる。これはつまり,人件費がどれだけ掛かったかに相当し,如何に少なくすることが求められている。ただ,結果の大小で,生産性向上を云々するのは重要なことではあるが,もう少し分析することが必要である。
下図に示したのは,工数を作業数と作業単位時間に分解して,予測と実績の差を一目で判るようにグラフで示したものである。つまり,設計前の当初の予測,又は目標に対して,作業数そのものが増えたのか減ったのか,作業単位時間が増えたのか減ったのかを表したものである。
作業効率と云う面では,作業単位時間で見ることが一般的であるが,それだけでは必ずしも生産性が向上したとは言い切れないことがある。つまり,作業数が同じであればそれで正しいが,必ずしも作業数が予測,又は目標と一致することは無い。作業数の増減は予測,又は目標の誤りと云えばそれまでだが,生産性向上を目指す活動をしているのであれば,作業数のファクターも考慮する必要がある。
下図の例では,予測工数を水色で示し,実績を黄色で示そうとしている,両者が重なった部分が緑色になっている。
一番目の上図は,作業数が予測を下回り,作業単位時間は予測を上回った実績の図であり,工数は,増減の面積の大きさの差になる。この場合,作業単位時間が増えた原因を究明しておく必要があり,次回以降の課題は,作業効率つまり,作業単位時間を如何にして減らすかである。もちろん,作業数が減った原因も解明しておくことが大切である。これと逆なケース,即ち,作業数が増,作業単位時間が減の場合もあり,これも同様に原因を解明することが必要である。
2番目の上図は,作業数も作業単位時間も予測よりも上回った悪い結果である。これは生産性としては,工数(全体の面積)が増えており生産性が悪化したと云える。この原因を,作業数,作業単位時間に分解して解明しておくことは,非常に大切なことで,こうした地道な積み重ねが生産性向上には一番役立つ仕事である。
3番目の上図は,作業数,作業単位時間共に,実績が予測を下回っており,工数が少なく生産性が向上していることを示している。もちろん,こうなることが一番ベストであるが,これについても良かったで終わることなく,各々の理由を解明して,次回の展開に繋げるようにしよう。
生産性の向上策(量の課題と対策)
上図で示したように,作業数と作業単位時間に分解することは,次の活動に繋がる第一歩であり,できるだけ原因を解明しておくと良い。つまり,量的な観点の作業数では,予測した時点の作業数よりも複雑さが増減したとか,作業者のレベルが予測時点とは違い,それによる増減があったとか,予測精度の確度を上げることが,次の生産性向上活動に繋がってくる。
作業数の多少の増減は必然であるが,予測誤差の範囲だったかどうかで,次の展開が変わってくる。予測を大きく外れたならば,その原因究明はもちろんのこと,予測精度を上げることも必要で,大規模なソフトウェアになればなるほど,この予測精度の確度が高いかどうかが,課題となることがある。
経験が積まれた組織では,作業数の推測に各々独自の手法があり,FP(ファンクションポイント)から予測する方法などいろいろな方法が検討されているが,絶対的なものはなく,取り扱っている規模の大小でも考え方が異なり,経験則から独自の方法を編み出されているのが現状である。
ただ,工数見積は,コストにも,工期にも大きく左右し,経営を揺るがしかねない問題になることさえあるので,十分な検討,常にフィードバックが掛かり,顧客に迷惑を掛けないやり方をしておくことが重要である。一般的に言われていることは,見積が甘すぎる傾向があり,その要因は,作業項目の漏れや,早い段階での見積で精度が悪い,環境変化に対応しきれていない,目標を安易に高く設定してしまいがち,などが挙げられている。ここらはかなり専門的になるので,専門書などで研究していただきたい。
生産性の向上策(質の課題と対策)
一方で,作業効率が上がらない課題があり,これは作業数とは分離して,質の課題として捉えるのが良い。つまり,ソフトウェアを記述する効率であり,ベテランと新人では自ずとその効率が違ってくる。したがって,作業に携わるメンバー構成を想定した見積が必要となるが,外部委託などが盛んに行われている実情から,なかなかメンバー構成の詳細まで把握することが困難で,標準的な値を目標値と設定して行われていることが多い。
本来は外部委託と雖も,内部環境の作業場でメンバーを固定して,生産性が向上することを目指すのがベストであるが,なかなか理想通りには行かないが,長年にわたって委託している場合には,正規社員同様の扱いで,生産性向上活動の協力を依頼し,目標を設定して展開できればお互いのメリットを享受することができる。生産性向上にはこうした地道な取り組みの積み重ねが重要であり,優れた企業ではこうしたことが確実に行われている。
一番厄介なのは,この場でも何度も紹介しているオフショア開発である。海外への委託は,言葉の問題だけではなく,生産性向上活動は困難を極め,お互いの取り分を競うことに終始してしまうケースが多い。もちろん,契約して取り決めするので大きなトラブルになることは少ないが,工数での契約はコストは一見抑えられたように見えても,品質が確保できておらず,日本での見直し,或いはやり直しなど,生産性としては芳しくない結果が起こっていることも事実である。ここでは,この程度の表現に止めておき,詳しくはオフショア開発の部分を参考にしていただきたい。(No.148,No.149,No.172,No.173,No.314)
生産性向上活動の展開
生産性向上活動が確実に展開されている職場の多くは,その組織のメンバーにもコスト意識が芽生え,生産性だけでなく,品質なども良化し,優良な職場に変化していくことがあり,企業活動として相応しいものになってくる。もちろん,その中で人が育ち,リーダに育っていく人が出てくる。
企業活動の原点は付加価値を付けることであり,それは生産性向上に依るところが着実で将来性もある。ただ,生産性向上活動はその反面,地道な活動であり,華々しさは無いが,これが確実に実施できている企業は優良企業になっている。
生産性向上活動を地道に挑戦し続けよう!!
[Reported by H.Nishimura 2016.06.20]
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