■オフショア開発 2 (No.149)

オフショア開発にいろいろ問題点があるのに,なぜ,日本人労働力を使わないのだろうと疑問が沸く。

  オフショア開発で成果が出ているのか?

オフショア開発の問題点を前回いろいろ述べたが,そんな状態で果たして成果が出ているのだろうか?安い労働力の魅力に囚われて十分な成果が出ているかどうか判っていないことも多い。と云うより,多くはトップの指示で,他社に横並びで始める。そこそこの技術力があると,日本でやるよりはるかに安い感覚になる。ところが,いろいろな問題点があって現場の責任者は苦労する。しかし,トップの方針だから問題点を言っても,他社で出来てなぜ自社ではできないんだ,と自分(現場責任者)に跳ね返ってくる。だから,なかなか本当のところがトップに伝わらない。

労働力が安いのは一目瞭然だが,技術レベルはどうかと云うとやはり一般的に云うと劣っている部分がある。その上,実際の実務の稼働率は日本より落ちて,稼働率ベースで考え,さらには,面倒を見る日本人の管理者が要るなどとなると,日本人労働力を使う費用と殆ど変わらないのが実態である。ところが不思議なことに日本の会社の多くは,オフショア開発の金銭的な管理は,購買部門だったり,技術のマネジャーだったり,要は現場の責任者とは違った人が扱う。だから,正確なコスト試算が疎かになってしまっている。

金銭を管理する購買部門や技術マネジャーは,契約などで取り決めた内容で縛られ,自ら稼働率や実態を暴くようなことはしない。現場責任者が泣きついてきたり,いろいろ注文をつけてくるとその時になって初めて動く場合が多い。プロジェクトに於ける混乱など総合的に見れば,日本人労働力を使った方が余程経営的な成果も大きいことが判る。それなのに何故か安い労働力の方に目が行き,冷静な目で判断されないのはなぜだろうか。

  日本人の労働力の活用

オフショア開発にて,安い労働力で利益を出す狙いが狂っていることを冷静に判断して,今こそもう一度日本人労働力を見直すべきではないか,と云う気がしてならない。景気低迷で,日本人の中の優秀な人材が職を探している。こんな機会にオフショア開発よりも日本人活用を真剣に考えるべきである。

派遣労働者の制度を肯定するのではないが,現状,多くの派遣労働者が働いている。しかもそうした労働者は身分の保障が十分ではなく,仕事が減るとそれに比例して減らされる。固定費扱いではなく,比例費扱いである。オフショアと同じレベルで考えるのは異論があるが,事実上派遣労働者はオフショア開発とも競合しているのが実態である。その上,賃金格差と云うハンディを背負っている。

是非,こうした景気低迷期には逆転の発想で日本人労働力を活かすことを考えて欲しいものである。

  設計の現地化を経験して

こんなことを考えたのは,現状そうした場面に出くわしたこともあるが,私の経験で,10数年前,東南アジアの現地で設計をやらせるプロジェクトに関わったことがある。日本での物づくりが行き詰まり,海外の安い労働力の魅力に惹かれて多くの会社が,現地で製造をはじめたのが約30年前になる。そして物づくりがどんどん海外へ出て行くので,日本での空洞化が問題視され,技術も移転して現地で設計までやらせようとするプロジェクトであった。

当時,設計と云っても,新製品の開発はやはり日本で,類似製品の展開など少し技術を修得すればできるレベルの設計を現地で現地人の手で行おうとするものである。開発のプロセスは確立しているので,やり方をマスターすれば,類似製品の設計は現地人でもできた。こうして,日本での新製品開発との棲み分けをしていた。しかし,簡単にできたかと云うとなかなかそうではなかった。

日本人の責任者が現地に張り付いて,主要なポイントは押さえないと,すべてを現地人に任せることは出来なかった。それよりも,折角苦労してそこそこ設計ができるレベルになったかと思うと,ある日,そうした現地人が突然居なくなる。よく聞くと,日本の○○社で設計ができるレベルになったと自分の給料を上げるために他社へ売り込みに成功して移ってしまった,とのことである。そこで,日本人の競合会社同士ではそうしたお互いの引き抜きをして,高い給料で雇うことはしないという暗黙か正式か知らなかったが協定があったように記憶している。

しかし,現地でこうした転職(日系企業でない会社へ転職)を止めることは不可能であった。つまり,日本人の感覚ではとんでもない常識でも,風土・文化の違いでジョブ・ホッピングは極めて日常茶飯事の出来事だった。このことは,時間と共に習熟度が上がって行って,技術レベルが向上することを目論む日本人にとって大きな障害になっていた。

逆に現地人の話を聞いたこともある。日本人の責任者は一般的に駐在員としてやってきて5年で帰ってしまう。だから,自分達の現地会社を何とかしようとしてくれる人は少ない。この人に付いていったら,自分の成長も期待できると云う人はいない。だからお互い様ではないか。本当に一生骨を埋めるつもりくらいでやってくれる日本人が居たなら,もっと現地人の成長も伸び,転職を考える人間も少なくなり,会社のレベルもアップするのではないか,と。現地人から見た日本のやり方,日本人に対する見方だった。結局は,日本人の駐在員の人となりに依存する部分が大きいようだった。

10年以上前の経験なので,現在はもっと違っているかもしれないし,国によって風土・文化は違うので一律では云えないが,オフショア開発のいろいろな問題点が出てくる度に,歴史は繰り返されている,ようにも映ったのである。

 

オフショア開発が当初の狙い通りに上手く行っていますか?

日本人労働力を見直すタイミングに来ていませんか?

 

[Reported by H.Nishimura 2009.12.21]


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