■オフショア開発 1 (No.148)
オフショア開発が盛んに行われているが,これについて考えてみる。
オフショア開発の定義・実情(IT用語辞典より)
オフショア開発とは,システムインテグレータが,システム開発・運用管理などを海外の事業者や海外子会社に委託すること。
オフショア開発の主な受注先としてはインドや中国の企業が挙げられるが,近年ではロシア,カナダ等にもオフショア開発を請け負う企業が設立されている。また,日本や欧米の企業が現地に 進出して本国の案件を受託する場合もある。
オフショア開発の最大のメリットは安価な労働力を大量に得られることである。日本での高い人件費を嫌ってオフショア開発を推進する企業が増えているが,現地採用のスタッフに十分な技術が身についていなかったり,主に言葉や習慣の違いから来るコミュニケーション不足などが原因で発生する納期や品質に関するトラブルも増えている。
オフショア開発の狙い
ソフトウェアの開発の殆どが人件費で占められている。ハードウェアと違って,パソコンとソフトウェア,ネットワーク環境が揃っておれば何処ででも開発が可能である。国籍を超えた共通言語があるので,優秀な頭脳さえあれば開発が可能である。そうした環境から,日本でなく安い労働力でソフトウェアに強いインドが早くから注目されており,その他安い労働力で,ある程度の教育を受けていさえすれば,開発ができるので各国に拡大しているのである。
風土・文化の違い,言葉の問題
しかし,安い労働力はあっても,その国によって風土・文化があり,これが日本とは違っている。その上,英語が共通語であっても,日本人がすべて英語でやりとりできるかと云ったら,必ずしもそうではなく,国によっては日本人同様英語が必ずしもできる訳ではなく,言葉の問題はつきまとう。このことは,お互いの十分なコミュニケーションが採れないことになり,開発が思い通りに進まないことが起こる。
コミュニケーションが十分採れないので,それに対して共通語として英語でやりとりするなど,どこでも同じような検討がなされるがそれが簡単に解決はしないのである。ソフトウェア開発なので,それほど言葉の問題は少ないなどと日本ではそう思っていても,そんな訳には行かない。近くにいて判らなければ判るまで質問したり,教えて貰ったりと云う日本での事情とは違う。こんなことは常識で通じると思ったことがなかなか通じないのは当たり前である。
他社がやっているから出来ないわけはない,世の中の流れだから他社に遅れを取ってはならない,などと思って始めようものなら,手痛いしっぺ返しに合う。特に,現地での開発の実態を十分把握した上でオフショア開発をやるのならば,問題の実態もよく判っていて,その対応策もまだ地に足のついたやり方が可能だが,必ずしもそうではない。調査はしたと云っても,責任者クラスが2,3度現地の会社を訪れた程度であると,日本に上手い商売があると見透かした対応をすることも無いわけではない。
やはり一番の違いは風土・文化の違いであろう。これはどうすることもできないと云ってもよい。もともと終身雇用の制度は無い国が多い。つまり,自分の価値を高める仕事をすることによって,他社へ自分を売り込むことが日常的に行われる。したがって,パートナーとしていろいろ教えて,これからその実力を発揮して貰おうとするときに,他社へ移っていると云うことが起こる。いわゆるジョブ・ホッピング(技能や賃金の向上を求めて転職を繰り返すこと)である。
これが行われると,なかなか日本人が描くような技術レベルの向上が望めない。安い労働力なので最初はレベルが低いのは致し方ない。徐々に学習してレベルアップしてくれば,十分期待に応えてくれるはずである。そう考える日本人は多い。ところが,このジョブ・ホッピングが盛んに行われるところでは,いつまでの技術レベルが上がって来ないのである。優秀な技術者ほど他社へ自分を高く売り込む。残ったものは他社へも売り込みができないレベルの人である。
これをコミュニケーションの問題とか思って,真の要因を突き止めないととんでも無いことが起こる。例えば,契約する人と技術のやりとりする人が違うと,技術者は技術を向上させるためにどうすべきかを気に留め,契約する人は所定の要員の確保がされておれば,それで契約が成り立つと思っている。内容までは追求しない。先方にとって,日本はやりやすい,儲けやすい会社が多いと云うことになる。ここでも,言葉の問題やコミュニケーションが障害になってしまう。
見えない部分の管理・経験不足
日本の会社と違って,何か問題があれば,自らの足でちょっと覗いてその様子を調べると云うわけに行かないところに大きな課題が潜んでいる。見えない部分の管理をどのように上手くやるかが問われる。一般的に,日本人が要求することには,素直に従う場合が多い。しかし,返答だけは一人前だが,実力が伴わないことが多い。それは,日本人に対応する人は,やはり日本人に対応する心得がある。それに対して,対応する日本人は相手国の実情を心得ていない場合が多い。これでは,十分管理ができないのは当然である。
こうした管理が十分できるためには,こちらの方がきっちりとした開発プロセスを持っていることで,それと同じようなプロセスを相手側にも持たせることである。こうしたプロセスは,ノウハウが詰まっているので,簡単に確立は難しいが,相手に勝手にさせるよりは随分違う。こちらでそのプロセスがイメージできるので,問題がどこにあるかが現地を見なくてもデータで判る。したがって,相手側に改善要求するにもポイントが押さえられるので効果的にできる。
(続く)
オフショア開発が上手く行っていますか?
何が問題か,その主要因が判っていますか?
[Reported by H.Nishimura 2009.12.14]
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