■職場の問題点と解決策(その4) 業務の外部委託 4 (No.471)  

これまで,業務の外部委託の問題について述べてきたが,その行く先のオフショア開発はもっと問題点が多い。これまでオフショア開発については何度か述べてきたので,ここでは問題点の本質についてまとめて述べてみることにする。

  日本人的発想の問題

オフショア開発はソフトウェア部門でのプログラム開発には欠かせないものになっている。人件費の高騰から,海外の安い人件費を活用しようとする解決策であるが,なかなか思い通りに行かない現実がある。多くの企業が,良かれと思って進めているオフショア開発が逆に品質的にも,経営的にも足を引っぱってしまっていることが多い。

ハードウェア技術ではかなり困難な外国技術者の利用を,ソフトウェア技術は言語などの壁を低くして,決められたルールに則って仕事が進められる安易さがある。確かに仕事を任せるには,ソフトウェア技術は便利であり,日本人のリーダや技術者が余り手を煩わすことが少なくて委託できる。しかもコストが安いとあれば,利用しない手はない,と一般的には思われがちであり,多くの企業が利用している。ところが,安い費用どころか,品質が悪く,手直しなどの後処理に日本側の技術者が手を焼き,反ってコスト高になっているのが実態である。

なぜ,このような実態が発生しているかと云えば,その一番の要因は,海外の技術者の扱いに不慣れな日本のリーダの行動である。つまり,日本的な感覚で,外国人技術者を扱おうとしているからである。日本の技術者のような品質感覚が欠如し,帰属意識も弱く,チャンスさえあれば高い給料を求めてジョブホッピングするのが当たり前の民族を相手に,余りにも理解不足で,お人好しの日本人をカモにしていることさえ見受けられる。

オフショア開発に於ける費用は,その大半が人件費であり,契約したことに対する遵守はするが,製品品質までの保証はよく見極めないとんでもない結果をもたらす。つまり,技術レベルも信用がおけて,実績も確認できている委託先ならともかく,そうでない場合はレベルの低い技術者など人数だけ帳尻を合わせ,稼働時間で費用請求してくるところがある。それらの実態をしっかり見抜けるような日本人のリーダはまだまだ少ない。距離が離れ実態が見えないだけに,委託先の言いなりになっているケースが多い。これも日本人だけの感覚である。

開発コストを管理している課長レベルの人も,海外業務に慣れ親しんだ人は希で,技術力はあるだろうが経営的センスはまだまだと云う人が多い。そんな人に海外のずる賢い人達をコントロールできる能力は備わっていない。部長レベルでも,コストが掛かりすぎた結果を見て判断はされるが,事前に察知して指示できるような人は少ない。いろいろな雑務が多く,部下任せになってしまっていることが多い。

オフショア開発を進めるには,この日本人的発想を止めなければ上手く行かない。単なる外部委託の延長だと見ていると,痛い目に遭う。

  経営的感覚の鈍さ

日本人的感覚を指摘したが,それと同時に経営的なセンスの欠如が挙げられる。つまり,技術的な詳細は部下に任せても,経営的な数字のコントロールは管理者としては絶対に必要で,技術者のリーダは経営よりも技術に拘る人が多い。管理者としては,技術と経営のバランスが重要で,両方をしっかりコントロールする役割を担っている。

オフショア開発は最初からコストメリットを求めるのは酷だと思っている管理者も多い。確かに,1年目からコストメリットをしっかり求めるのはムリとしても,その将来性を見抜く眼を持っていなくてはならない。要は,委託先の企業の実態を具に把握できているかどうかである。ずる賢い相手に対して,数字での実績や,人員の移動状況などをしっかり見る目を持っておれば,海外まで出掛けなくても実態の把握はできる。そうした能力を備えられているかどうかである。

私が経験した限りでは,なかなかそこまでできる技術リーダには巡り会えなかった。つまり,技術的なフォローや指導などはできても,それらと同様に経営的な目でどこまで見られているか,と云うことである。経験不足と云えばそれまでだが,海外の狡猾さに慣れていない,理解できていない人ばかりである。

  上手く進める方策

技術のリーダに海外での経験を積ませるのが最も早い手かも知れないが,そうはなかなか行かない。しかし,海外との取引を上手く進めるやり方を指導する機会はいくらでもある。それを怠っているとしか見えない。定例の検討会など収支を見直す機会がある。そうしたときでも,表面的な数字だけを見ていると,なかなか実態が判らない。判った頃には,大きな欠損が出てしまっている。

つまり,委託先から出てくる数値を,もっと分かり易くする方策である。人件費でも,人数と時間だけでなく,人名と稼働時間,仕事内容分析の報告をさせるだけでも,具体的な仕事内容が把握できる。つまり,新人など入れ替わりの多い場合は,新人教育など本来の仕事以上に余分な時間が発生していたり,それを仕事に紛れ込むようにすると,開発されたライン当たりの稼働が極端に落ちていたりして,その実態が見えてくるのである。要はこうした数値に関心を示さないところに相手が付け込むスキを見せてしまっているのである。

私が経験した中では,こうした数値を出すよう委託先に要求すると,相手は隠しきれなく,その実態が浮き彫りになって行ったことがある。人数でのごまかしも,人名まで報告させれば,技術者が継続できているかどうかも判った。また,極端に開発速度が落ちたことから,これまで居た技術者が抜けたことも見抜けた。

ブリッジエンジニアと称して日本側との間を取り持つ技術者が居る場合は,この技術者をしっかりコントロールすることが重要で,委託先の技術者であっても,日本側で面と向かって仕事をしていると,こちらの意向を理解してくれるもので,上手くタッグを組んで進めることも必要である。もちろん,あくまでも委託先の人間だと云うことを承知しての関係である。

とにかく,甘い技術リーダが多すぎることを指摘しておきたい。

 

オフショア開発の詳細については以下を参照(No.148No.149No.172No.173No.314

 

[Reported by H.Nishimura 2016.04.04]


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