■技術者が持つべき資質 5 やる気  (No.459)

第5回目は「やる気」について考えてみる。

  気力に優るものなし

逆説的に考えてみると明らかであるが,やる気が無い状態では何事をやっても上手く行かないことが多い。技術者だけでなく,人間が何かをしようとするとき,「やる気」が不可欠なものであることは自明の理である。スポーツ競技などでもよく見られるが,勝者や勝ったチームには必ずと云って良いほど活気が漲り,一人ひとりの「やる気」が前面に出ていることが多い。

技術者が開発研究に没頭するときでも,その集中度が高くなるのは「やる気」がバックで支えていることが多い。技術者といえども,人間固有の感情が豊かであり,それが物事の成就に専念するとき,気力が高まり一点集中突破する力が湧いてくることがある。これは論理的に説明が付くものではなく,人間が持って生まれた能力であり,普段の何倍もの力が発揮されるものである。

競争相手との戦いや試合においても,スキルで勝っている方が相手の気迫に負け,勝敗が決することがよくある。つまり,いざというときの力の発揮度合いに差が付くのである。技術者も同様で,ここでと云うときに持てる力以上の力量を発揮できるのが,その背後を支える「やる気」なのである。

  同じ能力でも差が付く

同じような能力を持った技術者が居て,成果に差が付くとしたら,それは「やる気」の差ではなかろうか?もちろん,物事には運・不運は付きものだが,それは自分でコントロールはできない。自分でコントロールできるのは気力であり,それが上手く働いて能力を活かすのである。一番良く判るのは自分自身である。能力そのものは時間経過で成長はするが,短い期間で能力に大きな差が付くのは,「やる気」があるか否かではないか。「やる気」がある状態で,物事に取り組めば,目標達成意欲も高く,何としてでも成し遂げようとする気力が湧く。不思議な力ではあるが,これが人間特有のものである。

引っ込み思案や冷静過ぎては,この「やる気」のスイッチが入り難い。何事も積極的に取り組もうと云う姿勢が必要で,この僅かな感覚的な差がものを言う。積極性が出るか否かは性格的な面もあり,一朝一夕に変えられるものではないが,考え方次第で訓練すれば十分活かせることができるものである。持てる能力を温存することもときには必要なこともあるが,やはり活かしてこそ初めてその能力があることが証明されるのである。この活かすためのスイッチが「やる気」なのである。

  若者には不可欠な要素

若い人は知識も能力もまだまだ未熟な状態である。だから,いろいろなことに挑戦し,知識を得,経験を積むことが必要なのである。それらを最も効果的にできるのが「やる気」であり,若者からこの「やる気」を無くしてしまうと,成長への道筋が細まってしまう。しかし,若者だから誰もが「やる気」があるわけではない。「やる気」があるのは,目的意識や明らかな目標を持って取り組み姿勢があってこそで,ただ漫然と日々を過ごしているようでは「やる気」は生まれない。

年配になると,先を読むことにも長け,頑張ろうと努力する前に,成果の度合いが判ってしまうことがある。そうすると,それ以上努力しても結果が変わらないとなると,努力を惜しんで手抜きをしてしまう。努力次第で成果が大きく変わる可能性が秘めているから,努力のし甲斐があり,挑戦意欲が湧くのである。その点若者は,先がなかなか見通せないから一生懸命努力をし,それが成果に結びつくとなると,俄然「やる気」を出して頑張ろうとする。この姿が重要なのである。

技術者の仕事は若者の姿に類似する。つまり,未知のものへの挑戦,新しいことを切り拓くことは,先が容易に読めないことが多い。だから,何とかやってみようと努力をし,いろいろな壁にぶつかっても,その障害を乗り越えようと頑張る。それを支えるのは技術者の「やる気」であり,目標必達意欲である。それが強ければ強いほど,難関を突破する力を与えてくれる。そうして目標に到達することができる。この成功した経験は大きな糧であり,それが技術者を成長させる。

  コンピテンシー(発揮能力)の源泉

以前にも説明したが,人の生産性の三要素と云うものがある。これを図に示すと下図の通りである。

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MOT人材の育て方のところで詳細は説明しているので,ここでは簡略な説明に止めるが,人が力を発揮しようとするには,@ミッション(MUST)とAスキル(CAN)とBモチベーション(WILL)の三つの要素が絡み合い,その三つが上手く重なり合った状態になることが,最も生産性が上がり,人のコンピテンシー(発揮能力)が最大になるのである。

つまり,ここでも「やる気」(モチベーション)が非常に重要な役割を担っているのである。技術者の仕事にも必要なものは,ミッションであり,スキルであり,さらには,このモチベーションが不可欠なのである。

また,別な人事的観点で,個人を評価するときにも,この三要素に分解・分析することで,その人の特徴が現れ,強化すべき点を指導するのにも大いに役立つのである。

「やる気」が難関を突破する力となる

(続く)

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[Reported by H.Nishimura 2016.01.11]


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