■技術経営とは? 4 (MOT人材とその育て方)
次に,MOT(技術経営)人材とは何か,その育成はどうすれば良いかについて考えてみる。
人の生産性は三つの要素から成り立っていると云われている。
- ミッション(MUST) : なすべきことに対する理解
- モチベーション(WILL) : 率先してやる意欲
- スキル(CAN) : 実践するための技能
下図を見ていただきたい。これら三つの要素がバラバラになっている状態(現状)では,生産性は上がらない。これら三つの要素が重なり合った部分(コンピテンシー:発揮能力)が,生産性を最大化させる。即ち,三つの要素の重なりを多くする(目指す姿)ことが必要であり,このためには,十分なコミュニケーションが重要な役割を担うとされている。
MOT人材を育てるに当たっても,この三つの要素を頭に入れて考えてみることにする。
1.ミッション(MUST) : 役割,組織目標,仕組み
先ずは,自分のいる立場,会社の目指すところ,職場の目標など,全体像を正しく理解するところから始めなければならない。新入社員教育などを受けて,こうしたことは熟知しているはずであるが,真面目に取り組むと意外と奥が深い。広くは,自社の業界のおけるポジション,物づくりの考え方,組織のあり方など,どれ一つを真剣に考えてみても,すぐにきっちりとした解説ができないものである。
これらは,会社人となり組織に組み込まれると,その部分での効率を求められる。新人の10年程度は,その中でもまれ,現場で必要なことは何かを,体感・実感することが大切なことである。しかし,MOT(技術経営)を考えるにあっては,それだけでは済まされない。How-toの効率追求よりも,Whatの何をすべきか,会社の意義は何か,と云った経営的視点が重要になってくる。
一方,こうしたMOT人材を育てようとするとき,会社の中にきっちり決まった人材開発制度,或いは人材育成制度が整っているか,どうかである。個人の努力に依るのだと決めつけず,会社組織としてMOT人材が重要だとするならば,こうした制度,仕組みを作っておくことが重要である。
2.モチベーション(WILL) : ひとのやる気,意欲
人がやる気を持ってやるか,やらないかでは,その差は能力の差以上のものがある。ところが,昨今の状態を見ていると,技術者のやる気を削ぐような事象が目に付く。そうした環境にあって,MOT人材としては,常にアグレッシブな,やる気が見えることが重要である。
技術者が一番やる気が出るのは,お金・報酬ではない。自分の得意な,やりたい仕事ができることである*。それらを理解でき,技術者にチャンスを与えられるリーダでなければならない。また同時に,自らが技術者として率先垂範しなければならない。
*ハーツバーグの動機付け要因論では,衛生要因(不満となる要因)には,お金や報酬がある。動機付け要因(満足を与える要因)には,目的への共感,達成・承認などがあるとされている。
3.スキル(CAN) : 知識,能力,資格
MOT人材に必要なものは,「経営的視点」である。と云っても,抽象的な部分も多いので,これまで経験したもので,具体的なスキルを挙げると次のようなものである。
- 技術者と経営者の両者の視点をバランスよく使えること
- 技術立社を目指すコア技術を持っていること
- 事業化プロセスを経験し,プロジェクトマネジメント力があること
- 市場・顧客・現場を理解できること
- 先見性,洞察力,論理的・戦略思考に長けていること
- 上司,部下,仲間から信頼されていること
これらすべてがあれば良いが,技術者にいきなりこれらを求めても無理である。MOT人材として育成するならば,得意なところを伸ばし,苦手な部分を少しずつ補うことから始めるのが良い。向き不向きもあるので,真にMOT人材として育てるのが良いか,或いは,専門技術をとことん極める方が良いかは上司が見極めてあげるのが良いだろう。
参考:MOTリーダ育成法(古澤哲也著 中央経済社 2007.1)によると,次の6点を挙げられている。
- 先見力
- 現場感覚
- 課題設定力
- 対話力
- ネットワーク構築力
- 相談力
以上の三つが重なり合った部分の大きい人に育てることが,MOT人材として目指すところである。
[Reported by H.Nishimura 2007.05.29]
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