■生産性向上策 3 (No.162)
これまで生産性を向上させることに関して何回かに亘って述べてきた。(No.76 No.120,No.121) これらは,如何に人の生産性を上げるかに付いてのべ,その方法も考えてきた。今回は,それにも大いに関連する内容であるが,生産性向上に着目すると,必ずと言ってよいが出てくる話題が,非作業時間の大きさ,つまり稼働率であり,名称は会社によって違うが,管理工数などと言われている本来の設計・開発作業以外の時間をどれだけ短縮するか,と言う話題で,このことについて今回は考えて見ることにする。
稼働率の考え方
稼働率とは,生産ラインであれば,一日の作業時間の中でライン作業をしている比率であり,これが高い状態で維持されることが生産性を上げる大きな要素の一つと考えられている。スタッフなど間接業務では,本来業務に携わっている時間の一日の時間の比率を指し,これも稼働率が低くなれば,本来業務が進まなくなり,生産性が当然悪化傾向になってしまう。つまり,稼働率としてある一定以上の比率であって欲しいのである。
前述したが,過去何度か技術者の集団で2週間〜1カ月程度データ収集したことがあるが,通常一般の技術集団では70%強程度であったように記憶している。つまり,技術者の活動の一日の中には,決まった定例の会議に出席や,メールの読み取り連絡,電話での応対,顧客・業者との打ち合わせなど,本来の開発者・技術者としての設計などの本来業務以外の仕事が30%程度含まれていたのである。もちろん,担当者の時間配分と,リーダ・サブリーダの配分では前者の稼働率が高くなるのは当然である。
生産性を議論するときもこの稼働率をどのように考えるかは重要であり,まして限られたリソースでプロジェクトを進める場合など,確保する工数を稼働率を考慮して考えるか,稼働率を無視して考えるか,会社の方針的な部分はあるにせよ,配慮しておかないと,30%程度の誤差が生じてしまうことになる。特に,限られたリソースで限られた期間でやり遂げることが要求されたプロジェクトでは,どれだけ稼働率を考慮して検討したかで大きな狂いが生じてしまうことになるので,注意が必要である。
管理工数の削減策
非作業時間と決めつけるのは些か乱暴な部分は残るにせよ,経営幹部から見ると,管理工数などの比率が高いプロジェクトは本来の業務の一部が食い込まれてしまっていることで,これら管理工数と言われる中身について良く吟味して,如何にして削減するかがプロジェクトを進める中で大きな一つの重要課題と言える。
上述したように,管理者でなくて一般技術者でも一定の稼働率以上に稼働率を上げることはなかなか個人レベルでは難しい。それを厳しく進めると,サービス残業など,稼働率をクリアするために記録には残らない作業をしたり,或いはそうした作業を強いることにもつながりかねない。
昨今の状況では,正規従業員以外に請負など構内委託の作業者がいる場合など,その請負先に管理者がどうしても必要となり,管理と称される時間,工数が増加傾向にあることは否めない事実である。つまり,プロジェクトで言えば,正規の社員がプロジェクトリーダとして管理を任されている以外に,請負先にリーダから指示が下りてくるサブリーダが必ず必要で,そのサブリーダが第一線の設計者に指示を与える構造になっている。作業の規模が大きく,サブリーダが多くのメンバーを抱えている場合は,正規の従業員の場合でも,サブリーダを置いてプロジェクトを進めることになるから大きく管理工数が増えることはない。
数人の小さな場合には,それでも委託先には管理者が必要となり,それが複数社に跨るなど組織が複雑になればなるほど管理工数なる部分の比率が高くなってしまうことになる。さらには,これがオフショア開発などになると,オンサイト・オフサイトの両者に管理者を必要とすることになってしまう。こうしたことで,どうしても管理工数比率が,本来の開発業務と比較しても大きな比率をしめすことになり,経営幹部からは当然の成り行きとして「管理工数の削減」が与えられたテーマとなってしまう。
管理工数の削減に関する考え方
プロジェクトリーダが管理工数の削減の命題を言いつかると,必ず数値が先行する。何%ダウンとか,何%以下と言った目標値が示されることが多く,それに対して敏感に反応するのである。そのこと事態,決して間違いではなく,上司から与えられた目標なのでクリアしようと考えることは当然のことである。
ところがそうした削減策の検討の実態を詳しく観察してみると,決して経営幹部が望んでいる管理工数の削減策にはなっていないことも目に付く。一般的には,会議の回数や時間を減らす工夫,週報や報告まとめの簡素化,或いは二重管理の撤廃など当然の検討項目は先ず上がってきて検討される。しかし,そうしたことで容易に目標値に近づくことは少ない。やはり厄介なのは,プロジェクトリーダだけではできない,限られたリソースの中での複雑なメンバー構成,つまり組織間を跨るための管理者の必要性などにぶちあたってしまう。
こうした場合に考えて欲しいのは,管理工数の中身の十分な吟味である。具体的な内容の吟味は通常一般に出来るのだが,減らそうとする内容が,固定費的な扱いの工数か,管理可能な工数なのかと云った観点で見ようとする人は少ない。
つまり,例えば,リーダ(正規従業員)の管理工数は,固定費的な扱いで管理工数を減らしたからと云って,その人が別の仕事をするケースは極めて希であり,そのプロジェクトにおいては管理工数として減らすこと自体があまり意味を持たない。ところが,管理工数を減らすこと,つまり時間合わせが必要と狙いを間違って解釈すると,リーダ自身が一部の作業を受け持ったりして作業工数のカウントに入れてしまうような事態が起こる。これにより,逆に管理が疎かになってプロジェクト自体が遅れたり,リスクを見逃してしまったりと,逆にプロジェクトの生産性が落ちてしまうことが起こる。
それに対して,請負などの管理工数は,サブリーダなど務めているので,リーダと同じ役割を担ってはいるが,固定費的な内容よりも変動費的で,管理可能な工数と見る方がよい。つまり,管理工数の削減の狙いどころは,管理可能な,請負,オフショアでの管理工数に目を付けることが正しいやり方である。こうした見方はなかなかできないようである。
正規従業員の管理工数は削減ではなく,管理内容の質がどうなのか,プロジェクトを成功に導く上で十分なる機能を果たしているかどうか,それを見直しことが重要である。
管理工数の削減を正しく考えていますか?
[Reported by H.Nishimura 2010.03.29]
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