■生産性を考える (No.075)

会社において,付加価値を上げることが重要な役割であることを説明したが,それも,効率よく付加価値を上げて会社に貢献することであることを前回説明したが,今回はそれの続きである。

「掛けた費用よりも大きい付加価値を生み出すこと」とは,言い換えると「生産性」と云う言葉が用いられる。労働生産性と云うと労働量に対する付加価値と云われている。この労働生産性を上げることが,我々の生活を豊かにする源なのである。

しかし,若い人に生産性を上げろ,と云っても感覚的に何となくは理解できても,品質やスケジュールのように明確な目標値が見つからずピンと来ないのが通常一般である。つまり,技術者の活動は作業時間は測定できても,それで生み出した価値を測ることができないからである。それでは,生産性とはどのように考えれば良いのだろうか?

前回,価格構成の図を示したがそれを思い出して欲しい。技術者として考えることは,先ずは新しい技術の創造など,顧客が求める付加価値を上げ,高く商品を買って貰えるようにすることである。付加価値は外から取り込めと云われているように,外に向かって仕事をする(付加価値を付ける)ことが先ず第一である。ただし,前回も述べたように価格は顧客が決めるので,技術者は決めることはできない。生産性としてどれだけ上げられたかは,結果としては判るが管理できるものではない。

次は,原価低減である。求められる機能を発揮するために,如何に安い原価で作り上げるかが,技術者の力量になる。商品企画段階で原価見積をするが,この時点で目標値が定められ,各機能が与えられた目標をクリアするために努力する。これは,目標値が予め定められるので,日々の努力が現れ,管理できる指標である。プロジェクトを進める中で,リーダとしてはスケジュール,品質と共に管理すべき重要なものである。

次は,掛かる費用である。技術者の活動は,原価構成では固定費と云われるスタッフの費用に含まれる。原価を計算するときに,技術開発に掛かる費用が計算され原価の一部として組み込まれる。それは,事業計画のときや或いは開発プロジェクトをスタートするとき研究開発費が予測としていくら掛かることになるか計算される。これには,研究開発に掛かる費用が全て(つまり開発者の人件費及び研究材料費,委託研究費など)が計算され,開発する商品の企画数で割って,個々の商品に掛かる費用が算出される。

こうして予め開発する商品の原価計算がなされ,顧客の要望する価格に対して利益が出るかどうか吟味される。時には,開発費が重すぎて利益が出ないこともある。それは,企画数が少ないものや,競合との競争が激しく低価格競争を強いられる商品である。技術者は,専門的な技術には当然深い関心を持ち,開発に勤しむが,実際,自分の開発した商品が世の中にどれだけ貢献するか,利益を上げる商品になっているかどうかにも関心を持つことが大切である。

一方,実際の原価計算は一商品だけを考えると単純であるが,実際はそうではない。いろいろな商品群があって,企画数は決まっていても実際に売れる商品数は変動する。或いは,商品固有の技術ではなく,広範囲に利用される研究開発もある。従って,商品を企画する段階では,その商品の原価計算として検討するが,実際の事業運営では,技術活動費用として人件費や研究開発費などを合算して,企画数には関係なく固定費(人が居る以上掛かる経費として)として,他のスタッフ費用と合わせて事業計画に組み込まれる。いわゆる間接費用(スタッフ費用)となる。

つまり,自分たちの掛かった費用の多少で,価格に直接反映するかと云うとそうではない。固定費として丸められてしまうので,間接的にしかわからない。(技術活動費が増える→固定費が増える→原価の間接費が増える→利益が減る)このことは,自分たちが管理できるのは,研究材料費を少なくすることぐらいになってしまう。開発を早めて何か違う仕事をするのならば,別だが同じ仕事をしている以上,掛かる費用は変わらない。外部委託を使って仕事をしている場合は,スケジュールを早めることで,多少費用の流出が少なくなることはある。

「技術者に生産性を上げろ」と云っても,実際にはなかなか難しいことで,管理する指標が限られている。唯一が,原価低減目標である。商品が売れてヒットした(顧客が付加価値を認めてくれた)ので開発の生産性は上がったと云っても,それは結果指標であって管理指標にはならない。もちろん,結果指標が何もできないから意味が無いと云うことではない。会社として,或いは組織として見るならば,こうした指標が,年々良化傾向なのか,悪化傾向なのかをある程度のスパンでもって評価することは重要なことである。これは技術者と云うより,技術のマネジャーが考えることである。日々の管理ではない。

生産性とは一言では言い切れない。でも非常に重要なこと。

管理指標と結果指標は別に考える方が判りやすい

 

[Reported by H.Nishimura 2008.07.21]

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