■生産性向上策 1 (No.120)
品質第一とよく言われているが,それが変わった訳ではないが,品質がある程度安定した状態になると,生産性の話題が出てくる。もちろん,製造業などモノを作っている会社において生産性は非常に大事な数値である。以前,生産性を考える(No.076)と生産性に関しての話題を提供している。今回は,この生産性について,特に間接の生産性向上策について考えてみる。
製造現場ではやり尽くされた課題
昨今,経済状況の厳しさも踏まえて,如何に生産性を上げて仕事をするか,が注目されている。この生産性向上は,今新たに始まったものではなく,高度経済成長時代にも製造業では,いろいろな効率化を目指した活動が展開され,日本のシステムが海外でいろいろ分析され,システムとして出来上がったものも多い。即ち,製造業,特に現場では古くから生産性向上に対する取り組みがなされてきた。
例えば,ラインでの流れ作業,今では少なくなってしまったが,ラインのスピードを少しずつ上げることで,或いは手送り作業では,一番早い人を先頭に持ってくるなど,きめ細かな対応がされてきた。流れ作業がセル生産方式に変わると,多能工が台頭し,物の置く位置一つで生産性が違ったり,一日の生産量を示す看板を付けるだけで見る見る生産性が上がっていったなど,製造現場ではやり尽くされたことであるが,同じ製造業でも間接生産性の向上はまだまだと云った部分がある。
製造現場とスタッフ部門の違いは,やはり一番大きいのは,定量的な把握が容易で効果がすぐ見える現場と,なかなか定量的な数値で表わし難いスタッフ部門との違いくらいで,同じ人間が仕事をやっている。黙々とわき目も振らず同じような繰り返し作業と自分のペースで思い通りにいろいろな仕事をと仕事内容に違いはある。
間接の生産性を向上させることは永遠のテーマ
スタッフ部門の生産性を上げることについては,現場同様以前から取り組まれている課題である。経費の話になると固定費削減が第一に挙がるくらいである。それほど間接固定費にはムダがあるのだろうか?現場と違い標準値がなかなか設けにくい,個人のスキル差があったり,経験差があったり,そのとき,その場面で変わりうる標準値になる。だから,現状の20%削減とか,相対的な目標値が設定され,それらに対していろいろ取り組むことになる。
一般的に取り上げられる内容は,固定費削減になると,残業人件費の削減,研究材料費の削減,旅費交通費,消耗品や通信費の削減と云った出費を抑える方法である。これは使うお金を抑制することになるので,目標値も決まり,具体的な数値で管理でき,効果の確認が容易にできる。しかし,これらは活動の制限であり,生産性向上の点で見ると必ずしも効果が出たかと云うとそうで無い面もある。
生産性と云う観点で捉えた活動展開となると,具体的には会議時間の削減,会議メンバーの絞込みなど,付加価値の少ない仕事に掛ける時間を少なくしようとする取り組みが挙げられる。いかに,会議がムダな時間と見られているか,このことからも良く判る。本来,会議は必要なメンバーが集い,議論しあって結論を出し,方向付けをする目的で開かれるのだから,効率的でなくてはいけないはずである。会議時間を少なくすると云う案が浮上することは,会議が有効に機能していないことの表れでもある。
有効な時間をどれだけ使っているか?
過去,技術者の有効な仕事にどれだけ時間を使っているか測定したことがある。1日や1週間では偏りもあり,1ヵ月間程度で測定したことがある。正確な数値は忘れてしまったが,ほぼ70%程度が技術者として本来やるべき開発,設計など付加価値を生み出すとされる時間に費やしており,会議,打ち合わせ,メールのやりとり,電話など付帯業務に残り30%程度を使っていた。これは技術部門はこの程度と云う訳ではなく,基礎の研究開発に没頭している部門と,現場近くの技術部門では違った数値になるだろうし,緊急的な仕事が立て込んでいる場合とそうでない場合とでは同じ部門でも変わってくる。
しかし,一般的に本来業務に80%以上没頭できている技術部門は少ないのが実態ではなかろうか?また,こうした付加価値を生む仕事は,掛けた時間よりも,そのときの集中度,熱心度でも大きく変わってくるので時間比較で論じるのも限界があることは否めない。
人の効率は強制ではすぐに限界
間接の仕事は管理した状態でやれば生産性が向上するか?と云えば必ずしもそうとは云えないものがある。無管理状態だと,生産性が良いのか,悪いのかも判らないことになるので,それは別として管理することで生産性が上がるとはなかなか言い難い面がある。確かに,目標値を与え,これ以内に仕事をやれと指示命令してやらせる方法もあるが,これでは長続きしないし,結果も始めは効果があっても直ぐに限界が見える。つまり,生産性向上策と云うと,直ぐに管理することを考える人も居るが,無管理で効果が判らないよりも良くなる程度に見るのが良いのではないだろうか。管理状態にすることで,生産性が向上したとされる場合は,それまでが如何に無管理でダダ漏れの状態で仕事をしていたに他ならない。今まで,見えなかったものが見えるようになると云う効果は出てくる。
人の生産性は本人のやる気ややり甲斐が結構大きなウェートを占めることがある。人間誰しも自分が興味を持ったものや,やりたいと思ったことに対しては,時間を忘れて熱中することがある。それは,管理状態では計り知れないパワーが発揮されている場合が多い。しかも,一つのことに熱中しているので,アイディアも出やすいし,発明・発見につながるようなことも起こる可能性を秘めている。そこでは付加価値が一気に付くことにもなる。そういった状態は常時作れる訳ではないが,それに近い状態にすることは可能である。
(続く)
経済不況下では生産性に注目が集まる
人の生産性は簡単には上がらない
[Reported by H.Nishimura 2009.06.01]
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