■抽出法1 全体から見る

まず,取り上げるのは「全体から見る」方法である。

しかし,この「全体から見る」(全体を俯瞰する)ことが,なかなか難しいのである。なぜ,一番に取り上げたのか,その理由は,「課題とは?」で述べたように,目標とのギャップが課題である。このことは,目標がはっきりしていない限り,正しい課題は掴めないことを意味している。つまり,課題を抽出しようとするには,常に目標とのギャップがどうかに注目していなければならないのである。

目標は,全体を把握して作られる。決して部分的なものの積み上げではない。最初に最終目標があって,それらを分解して個々の目標が定められる。そうするとより具体的な内容が浮き彫りになり,課題がはっきりしてくるのである。

ところが,そうは云っても実際には,全体を把握した最終目標や或いは具体的な目標は,上から下りてくるケースが多い。特に,若い人は上司からこの目標を目指せと指示されることが普通である。そうした場合,全体を把握することは不可能に近い,或いは漠然とは判ってもはっきり判らないことが多い。そこで言われたことだけをきっちりやるだけ,と決めつけるか,全体ではどうなっている,或いは最終目標は何か,に関心を持ってやろうとするかでは結果的に大きな違いが出てくるのである。

  80対20の法則

その端的な事例は,社会現象の中に「80対20の法則」と云うものがある。つまり,下図(パレート図)に示すように,「全体の20%の項目が,影響度から見ると80%程度を占めている」ことが一般的に云われている。

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このことが意味するのは,全体を見ないで部分的に見て,一部を一生懸命頑張ってみても,全体への影響度が少ないものがあると云うことを示している。上図で云えば,A,B,C項目に注目していないと成果につながらないことを意味する。即ち,課題を抽出しようとしたとき,自分の目の前にあること,例えば,Dの項目だとすると,この課題を解決することよりも,A,B項目の課題を解決した方が良いことは一目瞭然である。「全体から見る」とは,このような全体に対してどうなのかを見ることが非常に重要であることを示してくれる。

いろいろな手法は氾濫(?)しているが,こうした全体を見るにはどうすればよいか,どのように考えればよいかを教えてくれることは少ない。我々の活動はすべて何でもできるものではない。効率よくやることが大切なのである。効率と云うと高度成長時代の産物とアレルギーを持つ人も居るかもしれないが,産業人である以上必要なことで,それを無視していると,頑張ってはいるが成果がなかなか出ないと云った現代でもあり得る状況に陥ってしまうのである。効率という言葉がイヤならば,重要ポイントを絞って活動すると考えてはどうか。

  クリティカル・パスを見極める

プロジェクトなどを進めるとき,多くの人でいくつものタスク(仕事)を並行して進めることが多い。こうしたとき,最終目標に到達するために,最初に大きなマイルストーン(中間目標)を定める。そのマイルストーンに対して,いろいろなタスクが行われるが,必ずクリティカル・パス(プロジェクトマネジメントで解説)と呼ばれる遅らせることができないタスクがある。このタスクが遅れると全体のマイルストーンの遅れになりプロジェクト全体の問題になる。従って,このクリティカル・パスを見極め遅れないようにすることが重要なのである。

ところがこのクリティカル・パスを理解せず,全てのタスクを追いかけるとなると少ない遅れでも気になり出す。或いは,クリティカル・パスで無いタスクが1週間以上遅れても問題にならないことはよくあることである。つまり,それよりも,クリティカル・パスのタスクが2日でも遅れた方を注視し,挽回策を練ることの方が重要なのである。だけど,全体を見ていないと,1週間以上遅れているタスクが問題で,その挽回策を考えようとする。それは全体からは全く無意味なことで,十分バッファーが取れていて問題にならないのである。

自分の目の前のことだけに注目していると,こうした無駄なことをすることが起こる。課題や問題としなくてよいものまで検討をすることになるのである。プロジェクトの場合,このクリティカル・パスがどこかを見極めることが,全体把握にとって最も重要なことであり,それを基に,色々な事象を判断することが大切である。

  全体を俯瞰する

高台から町全体を見下ろすと全貌がよく判る。町中でいろいろ見ていた景色とは違ったものが見えることを感じたことがあるだろう。これと同様のことが物事を見るときにも云える。

我々が物事を見るのは殆どが目の前で起こっている事象である。したがって,部分的なことに携わっているだけでは,全体像がなかなか把握できない。部分的なことで済ませることは,日常の行動の中なので容易である。ところがいざ全体では何が重要なのかと云われると戸惑ってしまう。全体を見る経験ができていないからである。高台から町全体を見下ろすように,全体を俯瞰することができて初めて,全体として何が重要なのかを知ることができる。

課題を抽出するに当たっても,部分的な内容で済ませているようでは,本当の重要課題が見つけられていない。目の前には無い重要課題があることを意識しよう。

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  全体から見るポイント

上述したように,目の前のことばかりに気を取られず全体を見ることが大切なことはお判り頂けたと思う。特に,若い人にはなるほどと判っても,実際の場面に遭遇するとそうは簡単では無いことも多い。中堅以上になれば,全体を見ることはいやが上にも大切なことになってくる。特に,自ら課題を抽出する立場におかれて見れば,如何に全体把握が必要かしみじみと判るはずである。

「全体から見る」ことは,口で言うほど簡単ではない。しかし,そうした訓練をしないと,いつまで経っても,課題を与えられないと前に進めない人に止まってしまう。後述する「一段上の立場で考えてみる」などして,是非,自ら進んで「全体から見る」ことにチャレンジして欲しい。

 

[Reported by H.Nishimura 2008.08.05]

[Reported by H.Nishimura 2013.02.08 見直し]


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