■プロジェクトマネジメントの内容 4(解説編・計画)

 ◆全体からクリティカル・パスを見つける

役割分担が決まり,作業見積もりができれは,次は,全体の効率を考える。

一連の仕事には必ずネックになる部分が存在する。製造であれば,工程のどこかに生産量を左右する工程が存在するように,いくら頑張っても,また効率を上げたとしても,その中のネックとなる部分,制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints )を考慮しないと無駄な努力をすることが起こる。

そこで着目するのが,クリティカル・パスである。このクリティカル・パスがどのタスクにあって,それによってプロジェクトが左右されていることを見定め,如何にしてパスを短く,効率よく運用するかを検討するのである。

作業の従属関係をはっきりさせ,スケジューリングをする。

WBSで分解した個々の作業において,前の工程が完了していないと始めることができない仕事もある。このような従属した関係のある仕事を整理して,順序付けたスケジュールを検討する。このスケジューリングにあたっては,@この作業に先行するのはどれか,A並行して作業できるのはどれか,Bこの作業の成果物を必要とする作業はどれか,などに注目しながらネットワーク化することになる。

これらを十分配慮しないと次のような作業が出てしまう。

1.循環:複数の作業の依存関係がそれぞれ循環していて,終了することがない。どの作業がどの成果物を必要とするかの見極めをして改める必要がある。

2.宙ぶらりん:後続作業が無く,宙ぶらりんの状態の作業がある。後続作業を見つけるか,その作業を直接終了につなげなければならない。

3.重複:ある作業が直前先行作業以外のものにつながっている状態。各作業の直前先行作業のみを書き出す。

これらは従属関係の誤りであり,正さないと正しいネットワークにならない。

クリティカル・パスを見つけ,短くする

このようにして各々の仕事がつながったネットワークができあがるが,その中で最も時間の掛かるパスが必ず1つ以上できる。この最も長い経路が,「クリティカル・パス」と呼ばれる。つまり,このクリティカル・パスの経路で日程の遅延が発生すると,他のパスでどれだけ頑張っても,プロジェクト全体が遅延することになる。従って,プロジェクト管理はこのクリティカル・パスを管理することに他ならない。プロジェクト日程において,遅延することがないようにできるだけ作業を分解し見積もり作業をし,正しくクリティカル・パスを浮き彫りにさせるためには綿密な分析が重要である。

その分析のやり方は,まず詳細に分解した仕事の見積もりに従って,スタートから各仕事毎にその仕事が最も早くスタートできる日程を入れ,日程の終わりに最も早く終了する日程を入れる。次にネットワークの終了から,順番に最も遅く終了してもよい日程を入れ,仕事にかかる日程を計算して,最も遅い開始日をいれる。クリティカル・パスでは,この最も早い日と最も遅い日とが一致している。最遅終了日と最早終了日との差がフロートと呼ばれ,各仕事の日程余裕になる。もちろん,クリティカル・パスにはこのフロートがない。

プロジェクトを早めるためには,このクリティカル・パスになっている工程を如何にして短くするか,である。と同時に,日程が遅れる可能性もこのクリティカル・パス上にあるため,十分な管理をする必要がある。しかし実際には,技術における新製品開発プロジェクトなどのような場合,技術難易度など開発要素が高ければ高いほど不確定要素が大きくなる。即ち,見積もり日程の精度が悪くなる。従って,単なる日程の合計からクリティカル・パスを求めることに主眼をおくよりも,不確定要素を加味したり,そのパート(仕事)の完成度の出来映えなどを加味して,どの経路がクリティカル・パスになるかを見極める力が必要である。これはプロジェクトリーダの洞察力がものを云うことになり,そうしたコントロール,管理ができることがプロジェクトリーダたる所以になる。

クリティカルパスの具体的な扱い方

1.クリティカル・パスとは? : プロジェクトリーダがスケジュール管理する最大のポイント

@クリティカル・パスの管理がスケジュールを左右する

マイルストーンに到るまでの仕事を分解して(WBS),リソースを配分して,スケジュールを従属関係をもとに立ててみる。立て方はいろいろあるが,最後から必要なタスクを順番に前に追っかけると整理がつきやすい。概略の目安がついている場合は,目安の基点を中心に展開してもよい。こうして立てられたスケジュール全体を眺めると,スケジュールを遅らせることができないパスが見つかる。これがクリティカル・パスで,スケジュールを左右するパスである。

Aクリティカル・パスは変化する

また一度立てたスケジュールでも状況の変化は日常茶飯事である。つまり,クリティカル・パスだと思っていたパスと違うところがクリティカル・パスになることがある。そうしたことから,準クリティカル・パスとでも呼ぶ次のクリティカル・パスにも十分配慮しておくことが,全体のスケジュール管理には必要である。

Bプロジェクトリーダはクリティカル・パスの管理を最優先に

プロジェクトリーダがすべてのスケジュールを逐一追いかけるのは無駄である。肝心のクリティカル・パスを見極め,それに遅れがないか,或いは,他にクリティカル・パスになるパスがないかに注力すべきである。また,不確定要素の多いパス,リスクの高いパスは,結果的にクリティカル・パスに変貌することがあるから,常にチェックしておこう。また,クリティカル・パスがメンバーに浸透しているとメンバー間での自主的なコントロールもあり,リーダの負担が軽減される。

2.クリティカル・パスの見つけ方 : イベント,マイルストーンから追っかけると見つかる

@イベント,マイルストーンの直前のタスクがクリティカル・パスにつながっている

プロジェクトには,マイルストーンが設定されている。或いは途中にイベントがある。こうした日程は通常変更が困難(動かすことのできない)なものである。これに行き着くには,その直前のタスクが完了しなければならない。全体把握が不十分であっても,こうした点に視点をおけば,さらに,この直前のタスクを左右する(従属させる)タスクが何かを探す。これを追っかけていくと自ずとクリティカル・パスになっている。

Aクリティカル・パスは動かすことのできないタスクから特定する

プロジェクトの進捗を見ていると,必ずしもマイルストーンとはっきり決められていなくても,重要なタスクは特定できる。(ハイリスクのタスクも同様である)これは,遅れると日程に大きな影響を及ぼすから,重要と見られているケースが多い。開発リーダはプロジェクトを進める中でこうした重要なタスクは判っている。したがって,検討されている中で,優先度が高かったり,徹底してフォローされているタスクは間違いなくクリティカル・パスである確率が高い。MTGでのやり取りの中から,見抜けるスキルを身につけよう。

B遅れが大きいタスクではなく,クリティカル・パス上のタスクの遅れが問題である

4週間遅れているタスクと,1週間遅れているタスクがあった場合,4週間遅れのタスクを問題視するケースが多いが,必ずしもそうではない。クリティカル・パスにあるタスクの遅れが問題なのである。遅れは計画に対するものなので,余裕がどれだけあるかで(マージンをどれだけ見ているか),問題になるか,ならないかが変わるのである。

3.クリティカル・パスの対処法 : 対処法を確実に行うこと

@クリティカル・パスがメンバーで共有されていること

これが大前提。(でも,これができていないことが多い)

Aクリティカル・パスが同じリソースの場合の対処法

クリティカル・パスが同一人物に依存している場合には,次のような対処法がある。
   @担当者をタスクに専念させる(余分な業務をさせない)
   Aスキル不足(質)の場合は,先輩のアドバイス,スキルを持った人のバックアップ
    *現実には,この問題が発生すると一番日程を左右する。リーダは早目に見極めが大切。
   Bパワー不足(量)の場合は,リソースの追加,タスクの分割

Bクリティカル・パスが複数のリソースを介する場合の対処法

クリティカル・パスが複数のリソースに及んでいる場合には,次のような対処法がある。
   @確実な情報共有をすること(連携不足がロスを生む)
     *現実には,この連携不足が一番多い。リーダの的確な指示とメンバー間のコミュニケーションが重要
   A進捗状況の共有で,並行に進める
     (タスク完了を待たず,できるところからスタートする,など)
   Bリーダが確実な采配をすること(お互いの譲歩がロスを生む)

4.クリティカル・パスを短くするとスケジュールが早まる

クリティカル・パスはスケジュール上で最も長い工程である。したがって,この長い工程を短く縮めることがスケジュールを早めることになる。一般的な大きなプロジェクトは,クリティカル・パスを縮めることが重要なポイントになる。(工期が短くなり,早く完成する)

 そのためには,
  @タスクを分割して並行して実施する
  Aスキルの高い人に割り当て,日程を縮める
  Bタスクの組み換えを行い,最短パスをみつける
  C次のクリティカル・パスにも注目しておくこと(クリティカル・パスは変わる)

 

[Reported by H.Nishimura 2008.03.30]


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