■本質を究める 75 コーチング (No.596)

大坂なおみ選手がテニスの全米オープンで優勝する快挙を成し遂げ,大きな話題を呼んでいる。日本人としてのグランドスラム(4大会での優勝)は初めてのことである。その中で,サーシャ・バインコーチのおかげで,実力が発揮されたとも云われている。コーチングの良さが誉め讃えられている。

  大坂なおみ選手のコーチング

テニスをやっている人は良く判っていると思われるが,有名な選手には必ず優秀なコーチが付いていて,選手の能力を最大限発揮させるために,いろいろな指導を行っている。フィジカル面だけでなく,心理的な面も含め,選手が如何にすれば実力を発揮し,優勝することができるかを一緒になって考えている。

多くは過去にグランドスラムを勝ち得た経験から,若い選手にそのやり方を伝授しているタイプのコーチも居る。そんな中で,大坂なおみ選手のコーチは,選手での華やかな成績は無く,プロトップクラスの女子選手のヒッティングパートナー(練習時の相手役,打ち合う相手)を務めていたそうで,決勝戦で当たったセリーナ・ウィリアムズ選手のヒッティングパートナーを8年間も務めていたそうである。

ヒッティングパートナーは練習相手であって,意見やコーチングはできない立場であり,サーシャ・バイン氏はヒッティングパートナーの経験はあったもののコーチの経験は無かったようで,前のヒッティングパートナーをしていたキャロライン・ヴォズニアッキとの契約が切れた直後に,たまたま大坂なおみ陣営がオファーしたそうで,奇跡に近い状況だったそうです。

サーシャ・バイン氏が昨年12月からコーチングを始めてから,成績はぐんぐん上がりだし,世界ランクの7位にまで上りつめている。報道で知る限りでは,フィジカル面よりも心理面的な改善が大きかったようで,それが自信につながっているようである。試合の中で普段の実力が発揮できていることが大きいようで,サーブスピードなどは男子顔負けのものがあり,決勝戦でもセリーナ・ウィリアムズも,返せない場面があった。

  ティーチングとの違い

コーチングと同じような指導に,ティーチングがある。コーチングが選手をサポートすることで,大きな目標を達成することで,選手と一緒になって対話などを重ね,双方向のやりとりから答えを引き出して行く手法である。これに対し,ティーチングは,Teach(教える)を語源にした,先生が生徒に教育するように,知識やスキル,問題の解決法を教えることで,大きな目標を達成するものである。

だから,テニスなどスポーツ選手にアドバイスするケースでは,コーチングが一般的で,指導者が一方的に教えるのではなく,選手と共に対話など双方向のやり取りで選手の能力を引き出し,目標を達成させる方法が取られる。そこでは,やはり選手の自主性や積極性が重要で,選手が受け身的な態度では,コーチングの成果は出ない。

もちろん,相手の年代にも大きく影響し,小学校の低学年などでは指導者としてのティーチングが重要であり,コーチングではまだまだ選手自身の素質が伸びることは難しい。また,企業などでの研修など大勢を相手に指導する場合は,ティーチングが効果的であり,目標達成するために有効な手段である。

  コンサルティングとの違い

同じような指導の一環で,コンサルティングと云う手法もある。スポーツ選手にコンサルティングすることは殆ど聞かない。コンサルティングは企業などで,大きな目標を達成するために支援をするもので,外部から専門家を招いて行うケースが多い。

相手(クライアント)と一緒になって行うことは同じだが,相手が答えを持っていてそれを上手く引き出すように導くコーチングと違って,相手が答えを見つけられずにいる状態から,その解決策を教え,相手が自ら解決策を導き出せる能力を付けるように指導することで,コーチ自身が予め答えを準備しておくものである。

したがって,コンサルティングは知識も広く,経験も豊かな人が,その豊富なスキルを活かして指導することで,企業活動などではしばしば採り入れられるものである。この場合,目先の問題点の解決策を学びとることはもちろん,今後の問題点を解決できる能力を身に付けることも重要で,クライアントとしては盗み取れるものは総て学び取るくらいの積極性が必要である。

コーチングの善し悪しで選手は化ける

 

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[Reported by H.Nishimura 2018.09.17]


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