■本質を究める 68 交渉の難しさ (No.563)
前回,実家の後片付けについて詳細に述べたが,そこで感じた交渉の難しさについて述べてみる。
交渉とは
これまでの企業の中で,いろいろな交渉の場面に出会ってきている。双方が対等の立場での交渉はまだしも,こちらが不利な立場,例えばクレームを出して謝らなければならなかった場面など,大変辛い思いをしたことがあった。基本的には交渉に当たっては,こちらが誠意を持って当たることが重要で,そうすれば何らかの打開策が拓けることがあった。
交渉はお互いの利害が対立する中で,お互いが妥協できる点を探し出し,各々が納得できる着地点に向かうことであるが,必ずしも対等での交渉になるとは限らない。場合によって,つまり相手との立場が有利か不利かによって交渉のやり方も変わってくる。
交渉にも説得のテクニックがあり,「感情」・「論理」・「威嚇」・「駆け引き」・「妥協」などがあり,使い方によっては強力なものになり得るが,相手によっては通じない,或いは逆手に取られることもあり,注意する必要がある。
双方の言い分
具体的に,今回の交渉事例について述べてみる。後片付けに関する費用の交渉で,先ず最初に見積を人件費と廃棄量による費用に分けて出して貰った。こちらでは初めての経験でありなかなか予測ができず,ただ感覚的なものとして,見積がやや高い印象があり,もう少し安くして欲しい要求をし,相手側も安くする方法を検討するとのことだった。ただ,残念だったことは,仲介者を介してのやりとりで,どこまで相手側に真意が伝わったかは判らなかった。
実際に処理に取りかかって,相手側から安くする方法として,行政機関の廃棄処理を利用すると良いとの提案があり,こちらも少しでも安くして欲しいことからその提案を受け入れ,できる限りの方法を取り,見積段階の廃棄量からは明らかに,量を減らすことになった。ただ,業者のトラックへの積み込みと比較し,我々の乗用車を利用した処理や行政の引き取りによるものでは,減った量はそれほど大きな量では無いことは事実だった。
廃棄処理も中盤から終盤に差し掛かると,業者の方はこの分は見積に入っていなかったとか,これは行政で処理して貰った方が安いのでこちらで処分して欲しいとか,しきりに廃棄量を減らすことを主張してきた。しかし,こちらとしては廃棄物自体を見積時点で隠していたわけではなく,総て開示して見積もって貰ったので,相手の主張は間違っていて,少なくとも見積時点よりも廃棄量が具体的に減った点をこちらは主張した。
そうすると相手の見解が変わり,見積時点での見積が甘かったと言い訳けするようになった。実際,大量の廃棄物があり,廃棄処理業者自身では見積ができなかったのか,わざわざ連れてきた専門業者に見積をしてもらって,それをそのまま廃棄量の見積としたのだった。だから,そうした言い訳けをしたかったのだろうが,見積は相手側の責任でなされたことであって,こちら側に非は無いと主張した。
互いの主張は平行線のまま推移して,最終段階を迎え,すべてが完了した。互いの言い分を言い合っただけで,少なくとも論理的にはこちらの主張が正しく,相手側は論理的に付け込まれると話をすり替えるなど思いついたことを次々と言ってきた。しかし,相手側は価格に対する執念だけは人一倍でガンとして少しも譲らず,変にこじれても仲介してもらった人に迷惑も掛かるので,こちら側が泣き寝入りすることになってしまった。
こちらで正確な廃棄量を確かめる術が無く,これも感覚的なものだが,見積より廃棄量が多く出たような気もする。実際にそうだったのならば,相手側が見積時点の甘さがあり,実際の廃棄量がこれだけあったのでオーバーし,こちら側の廃棄量削減の努力の効果も無くなったので申し訳ないとの言葉でもあれば,少しは納得もできただろうが,その言葉は無かった。業界的なものか,当該業者の社長の性格なのかは判らないが,全く論理も,感情も通じない後味の悪いことになってしまったのである。
今回の反省
結果的には,今回の交渉はこちらが泣く泣く譲歩する形で決着したが,反省点もある。先ず,見積時点で高いと感じたのならば,幾らぐらいにして欲しいと具体的な価格交渉をして,見積額自体を引き下げておくべきだった。また,そこで折り合いがつかなかったとしても,こちらの言い分を相手側が納得するか否かは別として,はっきり主張しておくべきだった。
交渉はこちらが幾ら論理的に正当性を主張したとしても,相手側が論理的なやりとりが通じない人にはなかなか納得させることが難しい。そうした場合,どこまでも論理的に詰めていっても相手が嫌がるだけで納得させる解決策には結びつかない。先ずは相手の性格や主張される点を見抜き,それに対応する策をもって対抗することが必要だっった。仲介して貰った人が最終的なことは任せておけと言われたので,実態を具に判っていない人に頼り切ってしまったことも反省点である。
交渉ごとは,冒頭に述べたようにいろいろな要素が絡み,更にはその人の人間性までも影響を及ぼす。今回はお金だけで済むことになったが,こちらに全く非が無くて誠意だけではなかなか通じない世界をしみじみと味わったのである。
交渉ごとは相手があってのことで誠意だけでは通じない
交渉に勝った負けたは付きものだが,誠意だけは常に持ちたい
[Reported by H.Nishimura 2018.01.22]
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