■本質を究める 40 (No.434)
物事の成就は取り組みの姿勢に大きく左右される。最近あった出来事から,集中力の有無によって結果が大きく変わる例を紹介してみたい。
なでしこの決勝戦の姿
女子のワールドカップが終わった。なでしこの決勝戦を見ていて,立ち上がりのアメリカの攻めは凄く,立て続けに4点も取られてしまった。なでしこにとって,今までこのような試合はなかった。それほどアメリカの攻撃はなでしこの弱点を見抜き,組み立てられた戦略だったように感じられた。スポーツはサッカーだけでなく,野球でも立ち上がりがなかなか思うように行かないことが多い。当に,なでしこはこの虚を突かれたものだった。
なによりもアメリカの立ち上がりの集中力は素晴らしいものがあった。相手が試合のエンジンを掛ける前に,一気にたたみかけた波状攻撃だった。もちろん,なでしこのチームワークの良さ,パス回しには定評があり,そのモードに入る前の一瞬を突かれたように感じられた。個々の身体能力で優るアメリカだが,それを立ち上がりの時間に集中して,上手い流れに持ち込んだ戦略に,まざまざと嵌ってしまったなでしこであった。
立ち上がりの4点を除けば,それほど一方的な試合ではなく,互角に戦っただけに,悔やまれる時間帯だった。終わった後の好評でも,4点取られた後でも2点取り戻し,善戦を称賛する声は大きい。総てを観戦するタイミングが無かったので,詳細までは判らずビデオの一部しか見ていないが,確かに,気後れすることなく,最後まで戦った姿は清々しかった。
身体能力では劣勢の日本だが,チームワークと素早いパス回しで決勝戦まで勝ち上がってきた。アメリカ優勢の声はあったが,日本も気力では負けていなかった。それが,コーナーキックでの低いボール(普通は身体能力で勝る方が,高いボールを奪うことでゴールを目指す)での攻撃は,日本の守備を攪乱するにはゲームに十分入り切れていない時間帯では有効な手段だったようである。日本の守備への集中力が未整備な状態を突いた,アメリカの攻撃に対する集中力が勝っていた瞬間と云える。この時間帯,試合開始20分も満たない間の出来事である。
阪神の福留外野手の活躍
一方,プロ野球に目を転じると,今年の阪神の福留外野手の勝負強さも群を抜いている。現在,阪神ではホームラン数がトップだし,ここ一発と云うときに打っている。先制打,逆転打,決勝打とチームに最も貢献している。打率そのものは,2割7分程度で他の選手と変わりはないが,打者としては一番存在感があり,他球団からのマークも厳しいものがある。
昨年後半から調子が戻ってきた福留外野手だが,バッターに立ったときの集中力は外の選手より,突出しているように感じられる。つまり,打つタイミングを自分のタイミングに引き込むように,ピッチャーとの駆け引きに時間を採り,スイングもフルスイングすることが多い。実際に練習しているところを見たわけでは無いが,解説者の言葉を聞いていると,人並みならぬ努力をしているように聞かされる。したがって,普段のたゆみ無い練習の成果が,好結果に繋がっているには違いないが,一球に掛ける集中力は凄いものがある。
打者毎に成績がよく放送されるが,得点圏打率と云うものがある。つまり,ランナーが2塁や3塁にいる状態のときに,どれだけヒットを打って得点に繋げているかと云う打率である。ここ一番と云うときにヒットを打つ,勝負強さである。この打率が高い選手は,やはり集中力が高く,チームへの貢献度が高い。ただ,福留外野手の得点圏打率は,普通の打率とほぼ同じである。特に,得点圏に居るからヒットを狙っているわけではないことが判る。打点がゴメスと同じでチームトップであり,長打率は,5割近くとこれもチームトップである。
2013年の田中投手の活躍
ピッチャーにも集中力が重要で,得点圏にランナーを背負ったときに,如何にバッターを抑え込むことができるか否かで,勝敗が大きく左右される。田中将大投手が,2013年に24勝0敗の成績を収めたときも凄かった。ヒットを打たれない剛速球でバッターをなぎ倒したと云う訳ではなく,如何に失点を少なくするか,と云う投球に徹していたような気がする。
つまり,ここで打たれたら失点に繋がると云う場面で,一段と上の投球術を披露するのである。それには,彼特有のスプリットボールと云う打者が打ちづらい球があることは事実だが,これをいざと云う場面で,伝家の宝刀のような切れ味を示すことができたのである。これも,バックの守りにも助けられたこともあるが,勝負に集中する力が強く,チームを引っぱっていたからでもある。集中力と云う言葉だけでは筆舌尽くしがたいが,当に集中力の本領発揮だったように映った。
錦織選手の活躍
一方,テニス界をみると,錦織選手が居る。テニスプレーヤーとして,小さいときから英才教育を受け,今日に至っているが,トップテンに入ることができたのも,技量だけでなく,メンタルな部分も強くなったからと云う。ここでも,勝負に掛ける集中力を発揮している場面をよく見る。ゲームカウント5−4など,ここのゲームでブレイクすれば勝ちが転がると云う場面での集中力は凄い。
サーブをキープしあっていても,どこかで相手のサーブを破る場面が無いと,テニスではセットポイントを奪うことができない。もちろん,チャンスが来れば,そのゲームをものにしようとする姿勢には変わりないが,技量以外に好不調の波が来る。ゲームに対する集中力を切らさないとは云うものの長丁場では,ずっと維持することは難しい。気を緩めるときも必要である。ただ,いざと云う瞬間に,どれだけ集中力を発揮できるかが勝敗を分けるスポーツでもある。
ここでも,いざという場面であれだけの集中力を発揮できるのは,単に精神面だけではなく,日頃の並々ならぬ練習量の賜物だろう。解説者が錦織選手がギヤーチェンジしました,と解説した場面は,見ている側でも明らかに動きが違っているように見える。単にエースを狙うだけでなく,辛抱強く,且つ,いざと云うときにねらい澄ましたショットが放たれる。見ている側でもスカッとするものがある。
如何に集中力を高めるか
スポーツは相手との勝負である。上手下手の差は歴然とあるものだが,実力が互角である場合,一瞬の油断,気の緩みが勝敗を分ける。その相手の弱みを見つけ,その瞬間に勝負に出る集中力を発揮できる者が勝つ。
ただ,誰もが容易に集中力を発揮することができるわけではない。上述したスポーツ選手はもちろんその技量は優れているが,それだけで集中力が発揮できるわけではない。日頃の練習の賜物であって,地道な練習の繰り返しができているから,いざというときに実力を発揮しているのである。ただ,同じように日頃から練習していても,結果が付いてこない選手も居る。それは,相手との呼吸で,相手側の間合いや呼吸,即ち,相手側に有利なタイミングを作らせてしまっているように映る。
上述した選手の活躍を見ると,いずれも自分のタイミングを上手く創り出し,自分のペースに引き込んでいる。これができるか,否かで結果が大きく違うように見える。これも地道な練習と努力の賜物だろう。
集中力を高める秘訣は自分のペースに持ち込むことではないか!!
[Reported by H.Nishimura 2015.07.20]
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