■本質を究める 38 (No.425)
物事を極めるには,深耕して詳しく調べることが大切である。そのことは,専門家として一つのことに秀でることでもある。技術者の多くは,自分の専門の分野で第一人者になろうと努力し,或いは第一人者の拘りは無くとも,自分の得意なことを伸ばし活かそうとする。しかし,一方で深く極めることだけではなかなか得られないものがある。それが全体像を俯瞰することである。
全体像がなぜ重要なのか?
物事は現象としては一部分に現れることも多いが,大きな流れの中で起こっている場合が多い。現れた現象に囚われて,それに夢中で取り組んでいると,思わぬ落とし穴があることがある。現れた現象に対処することは間違ってはいないが,それだけではその奥にある根深い原因を突き止めることには到らない。現象の元にある原因を取り除かない限り,根本対策にはならない。所謂,モグラ叩きで,次から次へと現れる現象に振り回されてしまうことが起こる。本人は一生懸命だが結果が付いてこない。
原因を突き止めるために深く掘り下げることは,当たり前の振る舞いである。必要なことで,追及の手を休めてはならない。しかし,少し引いてよく見ると,意外に見過ごしている部分が見つかることがある。つまり,深く追求することは必要なことではあるが,全体像を一度落ち着いて見直して,広く浅く全体を俯瞰することが必要な場合が多いのも事実である。この全体を俯瞰することが出来ない人が意外にも多いのである。
特に物事に集中していると,その一点に焦点が行き過ぎて,周りのことを一切気にしないことがある。同時に幾つのことを考えるのはなかなか難しいことであるが,見る視野を狭めてしまうと本当の出来事の全体像が見えなくなってしまうことが起こる。特に,技術者は広く大きく捉えることを苦手としている人が多い。広く浅く見ることが技術者の感覚に合わないように感じている人が結構多い。それで,本質的なものを見落としてしまっていることが起こっている。
俯瞰するには?
それでは実際に俯瞰するにはどのようにすればよいのか?簡単なことのように見えるがこれがなかなか難しいのである。
先ず全体を俯瞰するには,少し高い位置から全体を見渡すことで可能になることはよく判っている。高台に上がって,市街の全体を見渡した経験はあるだろう。自分の住んでいる街でも,高台から全体を見てみると,いつもと違ったものが感じられる。それは,近くで見ていたとは違った街全体の様子が手に取るように判るからである。全体像が見えると,見方が変わってくるものである。
しかし,頭で理解することと,実際に出来ることとは違う。我々の周りに物事に対して,高台に上って見ることと同じようなことがなかなか出来ないのである。自分の位置に固執して高い位置に立つことができない人が結構居る。日頃から自分中心の見方しかできていない人には,高い位置で物事を見ることができないのである。一番易しいようであるが,結構難しいのが,上司の立場から物事を見てみることである。要は視野を広く物事を見ようとすることで,全体像が見えてくるのである。そうすると,今まで見ていた世界とは違ったものが見えるようになる。
俯瞰とは,高いところから見下ろすことであるが,同じように全体像を把握する方法は,幾つかある。そこで,上司の位置で見ることが難しい場合は,当該の物事の周辺を見直してみることである。例えば,関係する人の話を聞くのも一つの方法である。自分とは違った見方をする人の意見を参考にしてみるのである。決していろいろな意見に振り回されるのではなく,参考にしながら,物事の本質を探るのである。多様な見方があるところから,新たな発見が生まれ物事の核に迫ることが出来る場合がある。
物事は一点集中でなく,いろいろな周辺の物事の中で成り立っていることが多い。だから,自分が見つけ出そうとする本質を突き詰めようとするならば,周辺のことも理解しておくことが必要となる。周辺情報には,必ず幾つかの重要な点が含まれていることが多い。だから,周辺情報を的確に把握することが役立つことが多い。
或いは,冷静になって物事を見直してみることも大切である。一点を見つめ,物事に集中しすぎていると,反って大切な部分を見落としていることがある。顕微鏡でいくら小さなことまで細かく分析しても,全体像は見えてこない。また,カメラの望遠レンズで一点に集中して居る場合,確かにその一点は大きく見えるが,ズームレンズをずっと引いてみて広角のアングルで見てみると,違った景色が現れる。全体像の美しさである。このように,広く大きく物事を見てみると,新しい発見が生まれることがある。
全く別なやり方の一つは,物事に対して真剣に悩むことである。人間とことん悩むと,何処かに活路が見出されることがある。良く経験したことであるが,夢の中で物事をきちんと整理してくれることがある。とことん悩むことは,夢にまで見ることであり,その夢は,日頃の考えていることを意外にもきちんと整理して,解決方法を示してくれることがある。これまで見えなかった全体像を,夢の中で整理して知らせてくれることが起こる。そこまでとことん悩むほど,真剣に考えれば,良い応えを出してくれる機会に恵まれることもある。
俯瞰して全体像を把握することは重要なことである
[Reported by H.Nishimura 2015.05.18]
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