■本質を究める 36  (No.417)

仕事は独りで行うこともあるが,大抵はグループで仕事を分担しながら行うことが多い。人数が増えれば増えるほど,いろいろな考えを持った人が集まることになり,全員のベクトルが一致していないと,なかなか思い通りに進まないことがある。こうしたとき,一番大切なことは,目標の明確化である。何をゴールとして目指すのかがはっきりしている場合と曖昧な場合では,進み具合に大きな差が付く。企業では,競合との競争は常にあり,一歩先を行くかどうかで勝敗が決まることがある。

  日常の問題にあたふた

我々技術者の仕事は,必ずしもプロジェクトのように明確な目標を定めて進めるものばかりではない。目先の問題解決に躍起になっていることだってよくあることである。計画していたことと違って,突然降りかかってきた問題を解決しなければいけない場合もある。長い計画の一部をコツコツ進めていることより,降りかかってきた問題を必死に解決していることの方が充実感があることだってよくあることである。

漠然と日々を過ごしているとあっと言う間に年月が過ぎる。気がついた頃には,今まで何をしてきたのだろうと悔やんでしまうこともある。それほど,日常生活は何かと問題を抱え,解決させながら進んでいる。企業で技術者として働いていても,人生の大半はそんな生活である。それでいて,成長してきているのである。

特に,節目のない生活では,明確な目標もなく,日々を飄々と過ごしていることが多い。目標のある生活と何が違うのだろうか?最たる違いは,向かっているところがあって,それに対して乗り越えるべき課題をクリアしながら進む姿勢ではなかろうか。その姿勢は如何にも前向きで,達成してやろうと云うモチベーションも上がっているものであり,清々しい姿でもある。あたふたしている姿は,一生懸命さにおいては優劣付けがたいが,何となくもがいている,問題を振り払って進もうとしているようで,達成感が無い(乏しい)ように感じられる。別段,後者の姿が悪いわけでは無い。目標もなく,のんびり日常を過ごすことも人生には必要なことである。

  目標や目的(狙い)がはっきりしているか?

技術者はプロジェクトに参画したり,新製品開発や改良設計などの技術活動においては,比較的に計画目標を立てて仕事を進めることに慣れている。或いは,事業計画などの立案に携わったりするなど,期限を設けてやり遂げる仕事に従事することも多い。だから,目標や狙いを定めて活動することは,技術者にとっては自然な振る舞いになってきている。

ところで,目標と目的(狙い)とは同じように見えるが,違いがある。目的や狙いは到達したい目指す姿,目指す状態であり,それはやや抽象的なこともある。その到達したい目指す姿(状態)を具体的に数値など測定できるものに置き換えたものが目標であり,目標値などがあるから,どの程度目的(狙い)が実現できたかどうか判断ができる。即ち,目的(狙い)をはっきりさせることは,目標(値)を決めることでもある。

目標や狙いがはっきりしていれば,それに到達するために何を為すべきかを考えることになり,それは為すべきことが明確になることでもある。人はやるべきことがはっきりすれば,それに集中し力も出せる。同時にやる気も湧いてくるものである。当然,具体的な目標があると,出来映えの測定が可能となり,成果も明らかになるので,自分自身の評価も明確になる。こうしたことを繰り返しながら技術者は成長していく。

特に,技術者の場合,独りではなく数人若しくは数十人のグループで仕事を進めることがよくある。その場合,狙いや目的は理解していても,個性があるように考え方も様々で,必ずしも進み方に統一がとれているとは限らない。しかし,目指す目標が明確であることは,ゴールが明らかとなり,その進むべき道筋もお互いが合意して,後述する中間目標も定まり,メンバーのベクトルが一致しやすい状況が作れる。このことは即ち,メンバーの力が最大限効率よく働くことになるのである。グループで仕事を進めるには,目標の明確化は必須要件である。

  目的と手段を混同しないためにも

我々の仕事には,目的や狙いがあって,それを実現するためにやろうとする手段がある。しかし,我々の仕事でも,目的としたことを実現する手段がいつの間にか目的に置き換わってしまっていることがある。手段はあくまでもそのやり方であって,手段を行使することが目的化すると,当初狙ったこと(本来の目的)と外れてしまうことが起きる。特に,抽象的な目的の場合にはそうなりやすい。そうならないためにも,目的に対する具体的な目標(値)を明確にしておくことが重要である。

手段の目的化は間違い,手段が目的化してはいけない,と云われている。このことは,我々の日常で起こりがちな過ちを牽制する意味で重要なことである。(会議など慢性化すると,会議を開くことが目的になり,本来検討すべき内容が蔑ろになるケースなど)

ただし,次のような場合は,そう単純なことではなくなる。会社組織で,トップ層の狙いに対して,それを実現する手段が幾つかあり,それが部下に下ろされる。部下への指示命令はトップ層にとって手段であることが,部下にとっては目的になることはよくあることである。これが末端まで繰り返され,仕事を進めるケースは珍しいことではない。ここでの手段が目的に転換されること(即ち,手段の目的化)は間違いか?末端から見れば,目的とすることが,或いは目標と定めたことが,上位層にとってはその上の目的を果たす為の手段であって,層の違いによる見方の違いに過ぎず,間違いとは言い切れないのである。

そうした場合でも,トップ層の最終的な狙いが末端まで十分説明されていないと,必ずしも部下のやっている目的が,最終目的に合致しないことだって起こり得る。こうしたことを避けるには,十分な説明も必要だが,全体像が把握できる図などで,個々の果たす役割が全体のどの部分に相当するかを見える化するなどして明確にしておくことである。これにより,目的と手段が整理され,全体としてバランスがとれた行動になる。

組織でなく個人でも,目的が手段になることは,必ずしも目的と手段の混同ではない。例えば,ある目的は,それが到達できれば,次の大きな目的を目指すことに繋がる場合,最初の目的は,次のステップの目的からは手段と見なされることがある。特に,順を追ってステップアップして行く場合などは,目的が次々と変化し,その前の目的は,次のステップにとっては手段に過ぎないものになる。

このように,目的と手段の関係は,戦略と戦術との関係でも同様なことが起こり得る。

  中間目標(マイルストーン)は設定されているか?

最終目標は明確でも,その道筋が出来ていなくてはならない。それがマイルストーン(中間目標)の設定である。どのような道筋を描いて目標に到達しようとしているかを示す節目がマイルストーンであり,そこへの到達の時点が早いか遅いかで,その進行状況が把握できる。マイルストーンに対して大きな遅れが生じるようなことが起きている場合には,最終目標到達にも支障を来す恐れがあるため,早めに挽回計画を立て,取り戻す努力が必要となる。そうした,チェックができるのがマイルストーンであり,これを有効に活用することが,スムーズな目標達成に繋がる。

技術者の場合,プロジェクトや新製品開発では,初期の計画段階で,必ずマイルストーンを設定する。デザインレビューやプロジェクトのステージの変わる時点に設定される。開発計画などにおいては当然なやり方であり,目新しいことではない。つまり,新製品開発など,時間を要するプロジェクトでは,最終目標だけでは進捗状況の把握が十分ではない。マイルストーンは,到達すべき中間目標であって,必ず通過しなければならない関門であり,その到達時点の状況が全体のスケジュールを大きく左右する。

デザインレビューで代表されるチェックポイントでは,これまでの開発経過の状況把握や残された課題,或いは,予測されるリスクに対する対応方法など,プロジェクトがスムーズに進行するためのあらゆる課題を整理し,最終目標必達の見直し計画が検討されることである。最近では,容易に使えるアプリケーションもあり,クリティカル・パスなど,重要な工程が一目瞭然になるなど,スムーズな進行に役立つツールが準備されている。

目標を明確にすることは,単に最終目標を明確に数値化して測定可能にすることだけではなく,進む工程をも明確にして,その節目にマイルストーンを設定して,全体の進行を誰からも見えるような形にして,個々のメンバーからも素早いフィードバックが掛かることで,最終目標を必達させることなのである。

仕事に於ける目標の明確化は,必達させる必須要件!!

 

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[Reported by H.Nishimura 2015.03.23]


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