■本質を究める 26 (No.363)

技術者にとって先見性があることは大切なことである。特に,開発者は未知なものへの挑戦が必要だが,それには先を読む力があってこそ意味があり,その力があって初めて顧客を感動させるような製品が出来上がるものである。

  先見性とは?

先を見通すことができれば,将来起こることを予測して予め準備ができる。準備ができていれば,物事がスムーズに運ぶことが多い。つまり,何事においても計画性があり,着実に成果を上げている人は,この先見性が備わっている人でもある。通常一般では,なかなか先を見通すことは困難である。要は将来のことは変動要素が一杯あり,しかも想定外のことが起こることがしばしばあるからである。世の中の出来事は不確実性なことが多い。その不確実性の中から,如何に的確な予測ができるか否かである。

技術者が未知なものへ挑戦する場合,先に何が起こるか全く判らないことが多い。そうした中で,過去の経験などから想定するしかないのだが,起こってから対処する場合と事前に仮設を立てて,起こることを幾つか想定して対処方法を考えておく場合では,後者の方が素早く対処できるケースが多い。つまり,将来起こるであろうことの良い仮設が設定できれば,対処が容易にできることになる。

  良い仮設を立てるには?

それでは,如何にすれば良い仮設が立てられるだろうか?仮設とはこれまでにも述べてきたが,仮の答えを予め想定することで,必ずしもそれが正解になるとは限らない。しかし,良い仮設とは,ズバリ正解だったり,正解を導くために有効な仮の答えであれば,その後の対処方法が素早く,効果的なものになる。

その良い仮設を導くには,普段からの努力が必要である。たまたま仮設を立てて当たったとしても,それ限りで長続きしないものでは,良い仮設が立てられるとは云えない。この先にどんなことが起こるか予測して仮の答えを導くのだから,先ずは現状を正確に分析できていなくてはならない。現状が判らなくて,将来を予測するのは当てずっぽうで,それは価値がない。現状がよく判っているので,将来に起こることが予測されるのである。

ただ,現状分析がどれだけ上手にできたとしても,それだけでは良い仮設が導かれるものではない。様々な経験値が予測には役立つ。つまりこれまで経験した事柄から,似通ったケースを想い出し,そこから将来を予測をするのである。経験値は重要だが,実際には経験できないことは多く,経験値が頼りになるのは極一部である。だから幅広い知識も必要で,この知識は身に付いたものなので経験値とも見なせるが,知識は次の知識を呼び,経験値ではない新たなことを予感させることもある。狭い範囲の専門知識だけでなく,幅広い知識が重要なのは,広範な角度から物事を見なすことができるからでもある。

そうした幅広い知識を持った人を時々見掛けるが,そうした多くの人は好奇心が旺盛である。つまり,何事にも関心が高く,食らいついていくところがある。つまり,同じ物事を見ても,その見方が違い,何故か,何故そうしたことが起こったのか,など次々疑問を呈し,それに対する答えを追究し,納得するまで続ける。そうしたことが繰り返されて知識を拡大し,豊富な知識人となる。

  進取の精神

先見性を持つには,その背景にしっかりとした進取の精神がある。つまり,何事に対しても,自ら進んで取り組む気持が無くてはならない。この前向きな気持があるからこそ,先を読もうと努力し,いろいろな情報・知識を収集するようになる。こうしたことは一朝一夕にできるものではなく,普段からの地道な努力の賜物でしかない。

普通一般には,いろいろな経験値がある。失敗した経験も多い。だから通常は慎重に物事を見ながら確実に歩むことを好む。事実そうしたことのできる人は,着実に成長をして行く。歩みは遅いかも知れないが,確実性がある。論理性が高い技術者にはこうした傾向がある。失敗をせずに確実に進める道を歩もうと努める。これは非常に大切なことではあるが,技術者としては物足りない部分がある。

つまり技術者は,未知な世界に飛び込み,開拓していくような仕事が与えられることも多い。誰の足跡もない世界に,自らが第一歩を踏み込むことになる。そうすることが,新しい技術の発明や発見に繋がって行くものなのである。それは技術者の一部の人にとっては,重要な使命でもある。つまり,開拓者精神を発揮でき,世の中に貢献できる新製品開発をすることなどは技術者冥利でもあるのだ。

すべての技術者が新製品開発をするわけではないので,仕事によっては効率よくすることもあり,メンテナンスなど陰で支える重要な仕事もある。ただ,技術者として与えられた仕事を無難にこなすだけでなく,どんな仕事に従事していても,新たなことに挑戦することは不可欠なことである。この挑戦する気持が,先見性を磨くベースにもなっている。

学校や企業でもこの「進取の精神」をモットーとしているところがある。改めて知ったことだが,かの有名な早稲田大学の校歌の「都の西北 早稲田の森に ・・・」その中間に,「進取の精神 学の独立」とある。過去に何気なく謳っていたが,改めて重要なものであることを認識させられた。新たな道を切り拓いていく精神が,日本のいろいろなところで重要な心の支えとなっている。

先見性ある個性を磨こう!!

 

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[Reported by H.Nishimura 2014.03.10]


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