■技術部門の役割と課題 6 (No.350)
続き 技術部門の役割と課題について述べる
E「顧客価値の創出」ができていない 〜顧客の声を素直に聞く〜
商品の価値は技術者や製造者ではなく,顧客が決めることはこれまでにも述べてきた。いくら優れた,或いは最新の技術を駆使して技術的に価値ある商品を生み出したと思っていても,それを使い,利用する消費者がその価値を認めない限り,商品価値は上がらない。逆に技術的には付加価値は余りないと技術者は思っていても,使い勝手など利用者が良いと感じる商品は価値が上がるのである。
世の中のヒット商品を見ると,このような事例は数多あることが判る。デザインでも同じで,顧客が気に入ったデザインだと,その商品の価値そのものが高くなる。つまり,モノを設計し,製造する側にとって,顧客が認める価値を如何にして付加するかが大切なのである。よくマーケティングの大切さを云われる。市場の求めているものが何かを敏感に感じ,それに応えることが製品開発には重要なファクターなのである。
プロダクトアウトではなく,マーケットインして顧客の声を反映した商品作りを心掛けることはとっても大切なことである。つまり,顧客が求めているものを供給するのだから,需要と供給が上手くマッチングして,商品化したものが売れるのである。ただ,顧客の求めているものはどんどん変化し,今日求めているものが一週間後にも売れるかと云えば必ずしもそうならないこともある。だから先読みして,商品化できる頃に丁度顧客が求めているものを供給しなければならない。
極端なことを云えば,顧客の声を聞いてから製品開発していては間に合わないことだって起こりうる。顧客が欲しいと思うモノは,今あるものに何かを加えたモノや何かを変えたモノなど,要するに今ある形からの連想である。或いは,作ることが不可能なモノの場合もある。プロダクトアウトが良くないとされるのは,物づくり側の発想から生まれる商品だからである。しかし,顧客がこんなものを欲しがるだろうと想像逞しく作り上げる場合だってあり得る。つまり,顧客ニーズを的確に掴み,技術シーズ(提供できる技術)を上手く噛みあわせ商品化できれば,それは顧客価値を新たに創造したことになる。技術者としては,そんな姿でありたいものである。
商品のコモディティ化
技術者を悩ます商品のコモディティ化がある。要するに,顧客が求める商品であって,誰にも容易に作れて低価格競争に陥っている商品で,昨今の電気製品は多くがそうなってしまっている。昔はテレビでも,アナログで部品を単に組み合わせるだけでは品質の高い商品はできなかった。部品間の調整技術など,現在の自動車が未だそうであるように,組み合わせ技術に妙味があり,高品質を維持し,それで競争している。ところが,昨今の電気製品は,優れた部品を購入してつくれば,高品質な製品化ができるようになってしまっている。それはデジタル化したことに依るものである。
デジタル化は決して悪いモノではなく,世の中に大いに貢献している。顧客にとってはコモディティ化は良い商品が安く手に入ることだから,世の中にとっては良いことである。製品が均質化されるようになってしまっているのである。そのため,顧客価値は製品性能や品質にはそれほど依存していない。これは造る側はたまったものではないが,価格だけの競争になって,日本の商品の特長が活かせなくなってしまったのである。現在ではこのように電気製品では顧客価値を見出すのが非常に困難な状況になってしまっている。。
ブランド価値を獲得
顧客の認める価値の一つに,ブランド価値がある。これは当該のブランドであれば信用できると云う価値観である。単にヒット商品が創出されるのとは違って,価値の提供の長年の功績によって作られるもので,何にも増して強力な顧客価値である。コモディティ化を嘆いてばかりいても始まらない。低価格競争に巻き込まれるのはブランド価値が無いからである。
ブランド価値の高い商品はそもそも安売りはしない。顧客はそれだからこそ,高い商品を買い,ステータスシンボルのように扱う。またブランドは製品そのものが良いだけでなく,サービスも優れていて,使っていても安心感があり,顧客に共感を呼ぶようなところが見受けられる。つまり完全に顧客のハートを捉えてしまっているのである。当に顧客価値の真骨頂とも云える。
ブランド価値は顧客の信用から成り立っているので,作り上げるまでに時間が掛かるので,競合と雖もなかなか追随することが難しい。ただ,信用なので何かブランドイメージを悪くする出来事があれば,一瞬にして顧客価値は無くなってしまうこともある。長年に亘って築き上げたブランドは強い反面,脆さも同時に持っている。
顧客価値の創出は技術者の使命である
顧客価値を得る商品化を目指そう
[Reported by H.Nishimura 2013.12.09]
Copyright (C)2013 Hitoshi Nishimura