■本質を究める 21 (No.338)

個人の能力よりも組織力が優ることが多い

  天才か,強力な組織力か?

アップルを今日のように再生を図ったスティーブ・ジョブスの天才肌の経営能力は目を見張るものがあった。全く新規なものではなく,今までの技術の組み合わせの中で,新しいコンセプトを基に顧客に感動を与えるモノを世に送り出すことの天才だった。並み居る競合各社を寄せ付けず一人勝ちだった。優秀な人の集まりを抱えた電機関連の大企業のメーカーでも為す術が無かった。こうした事実を見ると,一人の天才の為す技の凄さを痛烈に感じるのは私だけでは無いだろう。

これこそは,一人の天才が競合各社の組織力よりも優った事例である。しかし,こうした例は希有では無い。これまで業績を伸ばしてきた企業の中にも,天才肌の経営者がカリスマ的に振る舞った例も多い。現在の日本の大企業でも,必ずと云って良いほど名の知れ亘った経営者が居る。世界的にも,素晴らしい経営者が企業を起こしたり,立て直したりしている例は多い。つまり,経営者は確かに強力な組織力に支えられてはいるが,推進力や決断力と云った経営的感覚が個人の能力に委ねられていると思われる。

しかし,これらは経営トップの話であって,通常の企業活動,技術開発においては,やはり個人の能力よりも組織力が優ることが多い。確かに,天才肌の人間は経営者に限らず技術者の中にも居る。彼らが活躍することはあるが,非常に限られた範囲での活躍である。企業の中での技術活動は,一人でできる範囲を遙かに超した規模の活動であり,各々の個人の力が結集した組織力で成し遂げられていることが殆どである。つまり一般的には技術活動では,天才肌の個人の能力よりも,チームワークの取れた組織力が優っていることが多いと云える。

  チームプレイの素晴らしさ

今回のオリンピック招致のプレゼンテーションでは,日本のチームワークの良さが際立っていた。他の国のプレゼンを見たわけでは無いので何とも言えないが,日本のプレゼンには及ばなかったのだろう。特に,一人ひとりが持ち場をわきまえ,各々が個性を活かし,それでいて全体としてバランスが取れ,日本として最高のプレゼンになっていたことは,その後のマスコミの報道でも明らかである。チームプレイの素晴らしい見本である。

企業活動でも,組織があり,その下に個人が所属して,各々が役割を果たしている。各々が与えられた役割の専門に特化して活動することで,全体として目標が達成される仕組みである。今回のプレゼンのような派手さや感激の大きさは無いが,着実に計画を必達することを目指して頑張り,為し得ている。これが組織力であり,特に,日本の組織力は素晴らしい。

日本の組織力を支える一つとして,伝統的な「和の精神」がある。聖徳太子以来,和を以て尊しとする日本人の心である。利己的な考えを抑え,互いに譲り合い,自制する心である。これはともすると馴れ合いになってしまう危険性はあるが,心の奥底に「和の精神」があるのが日本人で,固有のものである。中国人と比較すればその違いが直ぐわかる。

チームプレイは互助の精神でもある。個人一人が秀でるのではなく,個人の得意な部分を遺憾なく発揮して,全体でバランスよく力を発揮するもので,お互いの弱点を他の人がカバーして,全体として弱点を見せないところに意義がある。スポーツでも,一人がエラーしてもそれを他の人がカバーしてミスを帳消しにすることである。この互助の精神は,メンバーがお互いに信頼し合ってこそ成り立つものである。今回のオリンピック招致のプレゼンは,互助の精神はバックにあったと思われるが,それ以上に誰一人ミスもなく,各々の特長を遺憾なく発揮できた素晴らしいものであった。

  組織力強化に個性は必要か

それでは組織力強化には和の精神や互助の精神があれば十分かと云えば必ずしもそうとは言えない。必要条件ではあるが,十分条件ではないと言える。つまり,組織力を上げるには,やはり何と云っても一人ひとりの能力そのものが向上し,強力なものでなければならない。どんぐりの背比べの人々が集まって和を尊しと頑張っても,仲良くはできるが,組織力として強くなるとは言い難い。

そこには,秀でた個性が必要で,それらの個性が余り重ならず,且つ必要な能力を十分カバーできる人の集まりでなければならない。もちろん,最初から素晴らしい個性が集まっていればそれに越したことは無いが,たとえ最初には一部不足部分があっても,目的に向かって突き進む中で醸成できれば十分である。お互いが競い高め合う中で,個性が磨かれることも多い。チームワークと云って他のメンバーに委ねるのではなく,個人として素晴らしい個性が発揮できるようでなくてはいけない。

組織を束ねるリーダシップも強化には不可欠であるが,それ以上に一人ひとりの個性の輝きが最後にはものを云うことが多いことを理解しておこうではないか。

一人の天才よりも,組織力が優る

チームワークは素晴らしい個性が不可欠

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[Reported by H.Nishimura 2013.09.16]


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