■本質を究める (No.325)
足下,根本をしっかり固めることは大切なことである。このことを趣味の一つである菊作りから考えてみる。
菊の作り方
菊は日本の花である。その菊を10年以上作っている。菊は畑などで毎年咲かせるものは,そのままでも良いものもあるが,通常は一年草で春に挿し芽をして育て,秋に花を付ける,その繰り返しである。だから,結構,手間暇の掛かるものなのである。
挿し芽をしてそのまま育てるかと云えばそうではなく,挿し芽をして根を出し,先ずは小さなポットに移植,さらに5号鉢に移植し,その後に大きな鉢に植え替える。最低,3回は移植しなければ大きく育たないのである。その理由は,根をしっかり張り巡らせるためである。一本の挿し芽から,秋には大輪を付けるまで育て上げるのが菊作りなのである。
水やり
菊の水やりは難しい。適当に水をやるのでは水分が多すぎると根腐れを起こし,少なすぎると枯らしてしまう。
挿し芽した状態
特に,挿し芽をして根を付かせるまでは,水やりの加減が非常に難しい。何度となく失敗を繰り返している。挿し芽なので,切り取ったところに根を付けることから始まる。単に挿し芽を適当にすれば良いと云うものではない。肥料など栄養分が全くない鹿沼土(挿し芽に適切)の下に燻炭(くんたん:もみがらの蒸し焼きしたもの)を敷きつめたところへ,発根促進剤を付けて挿し芽する。これは肥料分があると発根しないからである。このことは菊に限ったことではない。その後の水やりだが,挿し芽して3,4日は水をやってはいけない。夕方しおれていても,朝になって元気な状態であれば,水を控える。じっと我慢が必要である。
1〜2週間程度経つと発根してくるが,ここでも水を与えすぎると根腐れを起こしてしまう。発根した根は水分を求めて伸びる。だから水分が多いと根が伸びない。むしろ少ない状態の方が,水分を求めて伸びる。この水やりの加減がベテランになっても難しい。3週間程度経つと十分な根が張っている。もちろん,品種によって発根し易いものとそうでないものがある。ここで,ポットに移植する。
その後も水の与え方は微妙である。水をやりすぎないように注意する必要がある。ついついしおれていると水をやりたくなるが,どちらかと云えば水分の多いのを嫌う。切り花では水に浸けておくことで長持するので,水があることは良いことのように思いがちだが,根の付いた花は,根から水分を吸収するので,根がしっかり張っていることが大切である。ところが,成長過程で水を多く与えると,根を十分張り巡らさなくとも水分が採れるので,根を張ることを忘れてしまう。そうすると,成長期の一番必要なときに,肥料など栄養分の十分な吸収ができなく成長が不十分になってしまうのである。
水分が足りない程度だと,根を張って何とか水分を吸収しようとする。こうして根が十分張り巡らされることが,花を大きく育てることに繋がる。所謂,過保護では根を張ることを怠り,花も育たないのである。水やりだけでも3年は掛かると云われている。
肥料の与え方
水やり同様,肥料の与え方も難しい。成長させなければならないときは肥料をきっちり与えなければならないが,花の咲く時期には,肥料分が残っていると立派な花は咲かない。むしろ,花の咲く時期の前には,肥料を抜かなければならないのである。半年の間に大きく育てようとすると,肥料の三要素である窒素,リン酸,カリを時期に応じた配分で与えなければならない。
菊専用の乾燥肥料などが売っているのでそれを利用するが,与えすぎは良くない。小さなポットの間は,液肥などで十分根を張らせ,5号鉢で3枝に分ける頃には,十分生育するだけの肥料が必要だが,根元ではなく,鉢の周囲にばらまくようにする。肥料が直接根に触れるようでは根腐れになるので,土に染み込んだ養分を吸収させるようにする。
大きな鉢に移植してからも肥料は欠かさないできっちり定期的に与えなければならない。そして十分生育させ,つぼみが付き出す前頃からは,特に窒素分の多い肥料は控え,カリ分の肥料を与え,窒素分の肥料は抜くようにしなければならない。それに応じた液があり,それを利用する。
成長には肥料は必須である。人間も成長期には十分な栄養,教養などが必要だが,与えすぎは禁物で,適当なタイミングで適量を十分消化できるよう,しっかりとした土台(根を張り巡らすこと)をつくることが重要である。
根がしっかり張らないと大輪は咲かない
ポットに移植した状態
花の大きさは根の張り方に依存する。根が大鉢の周りを埋め尽くすように張り巡らせたものは,大輪が付く。ところが,根が張り巡らせていないものは,先ず,下の葉の部分が落ち,花自体も小さいものになる。それほど,根の張り具合が重要なのである。ポットから5号鉢,そして9号ないし10号の大鉢に移植するのも,各々の鉢で,根がしっかり張り巡らされてから,次の大きさの鉢に移植するので,鉢全体に根がぎっしり張り巡らされることになるのである。
5号鉢に移植した状態
菊の花の大会などで見かける大輪は,注意して見てもらうと,花自体の大きさはもちろん,葉も大きく,鉢の下の方までぎっしり揃っている。このように,大きな花だけでなく,3輪が天地人と微妙な段差で揃っている。そこに菊本来の姿がある。
人の人生も同様,成功を収める人は,並々ならぬ努力をしている。それは普段から怠りない基礎作りである。運不運もあるので,成功者がすべてきっちりした土台を作られているかと云えば必ずしもそうでない人も居る。しかし,基礎がしっかりした人は,出世云々はいろいろあるが,人生を豊かに過ごすことができることは間違いない。
菊作りは人の人生に通じる
菊作りを長々と述べてきたが,水やり,肥料の与え方,根の張り具合と,人の人生に通じるものがある。気を利かしたつもりの過保護でも人は育たないし,十分な栄養と教養を取らないと人生が豊かにはならない。これは親として子供を育てる場合の教訓である。成人した後は,自分自身の意識である。基本をしっかり身に付け,土台をしっかりしたものでないと,その後の振る舞いも十分なものにならないのも,根が十分張り巡らされているかどうかである。
[Reported by H.Nishimura 2013.06.10]
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