■5原則シートに関して (No.324)
課題解決法の一つとして,5原則シートを活用する事例を紹介したところ,いろいろな方にアクセスして戴いているようである。Googleの検索で5原則シートと入れると一番上に出てくる。そのせいかアップして3カ月にも満たないが,500件以上のアクセスがあり,当ホームページの中ではダントツである。どんな方がアクセスして戴いているかまでは判らないが,少なくとも毎日のように数名の方からアクセスして戴いているようで,恐縮している。
5原則シートがなぜ注目されるのか?
正直なところ,5原則シートについて一家言を持っている訳でもなく,ただ単に,課題の解決法の一つにこのようなやり方もあると紹介してみたまでである。最近は仕事を離れているので,この5原則シートがどのように活用されているのか定かではない。今なお,自動車メーカを中心に,品質問題の後始末の方法として使われているのかも知れない。だから,関心ある人がいるのかも知れない。
どのような方が関心があるのか推測でしかないが,何らかの形で品質問題に関わっておられる方なのかも知れない。或いは,自動車メーカーとの付き合いは無い製造業で,再発防止策に苦労をされていて,何か良い策は無いものかと日々悩んでおられる方かも知れない。少なくとも自動車メーカー以外の,それでいて5原則シートと云う名前だけを聞き,どんなものなのか興味津々と云った方かも知れない。課題を解決する方法は他にも幾つか紹介しているが,なぜこれだけが注目されるのかはよく判らない。Googleの検索の影響かも知れない。
活用の仕方は既に課題解決法で紹介しているのでそちらをご覧戴きたいが,5原則シートに関して,もう少し補足しておく必要があるように感じたので追記してみた。折角,見ていただいた人の少しでもお役に立てればとの思いである。
5原則シートの背景を探る
私自身5原則シートを創りだした者では無いので,このシートが創られた背景は知る由もない。しかし,長年自動車メーカーと付き合ってきて,部品メーカーの技術者として感じることはある。そうした立場で,背景を推察してみる(実際には,間違っているかも知れない)。しかし,実際の現場で,この5原則シートを活用させられ,それを上手く利用してきた者の方がその本質を見出しているかも知れない,と思って書いている。
5原則シートは少なくとも自動車メーカーの品質問題の後処理として,長年活用されてきていた(まだ使われているのかも)だけあって,同じような品質問題の再発防止をするためのツールとして利用されてきた。品質問題の解決にはいろいろな手法が用いられているが,問題の原因を追究する最もシンプルな,それでいて発生原因と流出原因を分離して,両面から調査しようとするもので,流石品質問題一つで人命に関わるような事故に繋がるリスクがある自動車メーカーの品質第一の思想である。
そもそも一般の製造業で,品質問題に対して再発防止策として,発生原因を追究することは行われているが,流出原因を分離して再発防止を図っているところは,私の知る限り少ない。発生も流出も同じ一つの原因として扱われ,原因追及されている。その大きな違いは,製品そのものが,人命に関わるような事故の危険性の有無のように感じる。
そもそも組織体制が自動車メーカーと一般製造業では違いがある。その特長は,検査部門にある。通常一般の製造メーカーでは受入検査や出荷検査と云った検査の付く部署はあるが,品質保証・品質管理の一部門である。それに対して,自動車メーカーの検査部門は,市場に出す車の品質責任を一手に引き受けている。つまり,市場で品質問題が発生すれば,そうした車を市場に出荷を許可した検査部門の責任である。製造部門が出荷すると言っても,検査部門の許可が無ければ,如何なる場合でも市場に出すことができない。検査部門はそれだけの責任と権限を持っている。
このように検査部門は流出原因に対する全責任を持っている。発生原因は,設計部門,製造部門などが責任を負っている。このように組織体制そのものが,発生に関する責任と流出に関する責任が明確に分離されている。要は設計や製造部門のミスで,品質問題を出すような車を作ったとしても,検査部門でその問題を発見し,市場に出さないと云った思想である。人命を預かる品質第一を標榜する企業として素晴らしいことである。したがって,5原則シートもこのような組織体制の背景から,発生原因と流出原因を分離させて,創られたのではないかと推察できる。5回繰り返すのは,なぜなぜと問いかえす手法に過ぎない。
5原則シートの効用とムダ
以上のような背景を推察してみると,5原則シートの活用には効用とムダが存在する。品質第一を掲げている企業が殆どなので,再発防止法として使えば良いのでは,と云う見方もできるが,品質問題が起これば,何でもかんでも5原則シートを利用すると云うのはムダであることも多い。
5原則シートはきっちり書こうとすれば,時間が掛かる。もちろん,重大な問題に対して,きっちり時間を掛けて再発防止策を練ることは重要で,そうしたときにこの5原則シートを使うことには大賛成である。ところが,品質問題の中には,原因が判りきった問題も多い。そうした問題も含めて,ルールのように何でもかんでも5原則シートを書かせるのはどうかと思う。自動車メーカーは一旦品質問題を起こせば必ず書かされるようなルール(品質問題を解決するルーチン)に当時はなっていた。そうなると,原因の明らかな判りきったものは,5原則シートの作文,つまり穴埋めをするようなムダな作業になり,本来の5原則シートの意味合いからは外れたものになってしまう。
品質部門の傾向として,一旦ルールを定めると守ることを監視することが仕事になる。そうした品質部門が5原則シートで再発防止を図るルール作りをしてしまうと,5原則シートを作成する必要では無いと思われるムダな作業が発生する可能性が出てくる。本来5原則シートの有効利用を考えて,品質問題をランク付けするなどして,重要な問題に絞って5原則シートを活用するなどの方法が取られれば良いのであるが・・・。
5原則シートが課題を解決してくれる魔法の杖のようなものではない。自動車メーカーが活用された以上に,その本質を知り,その特長を上手く利用して,企業としての自社に見合った技術力や品質力を高めるツールの一つとして活用されることを願う。それが,敢えて,追記した理由である。
5原則シートの上手い活用を!!
単に使うだけでなく,企業体質を高める努力を!!
[Reported by H.Nishimura 2013.06.03]
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