■開発現場の悩み・問題点を解く 4 〜プロジェクトが遅れる C 〜 (No.308)

次に,技術の壁が立ちはだかって前に進めない事態に陥り,プロジェクトが遅れることがある。

  技術の壁とは?

プロジェクトが遅れる要因で技術者が最も多く出くわすのが,技術の壁が前に立ちはだかる事態である。この技術障壁が大きければ大きいほど,プロジェクトの進捗に大きな支障を来す。と同時に,技術者の乗り越えようとする意欲を削がれてしまうことも起こる。この技術障壁は,プロジェクトのスタート時から判っているものは,それなりの覚悟でリソースも万全を期して開発に当たるが,往々にして出くわすのは,ある程度進んでみて初めて判る技術の壁がある。

技術者として,開発を心掛ける以上,行く先に技術障壁が幾つかあり,それらを乗り越えなければならない使命がある。この技術障壁を乗り越えるのは,純粋な技術スキルがあるかないかで,設計パワーとして人数を掛けることで障壁を乗り越えられるものではない。リソースの量の問題ではなく,質の問題である。したがって,こうした技術障壁にぶつかったときは,先ず,解決には時間が掛かることを想定しなければならない。ただし単に,時間が解決する問題ではない。

この技術の壁は,これまで経験してきた技術では容易に乗り越えられないもので,僅かなこと,例えば性能を5%向上させることがなかなか実現できないと云った,技術者が想定していたことと違ったことで,前に進めないことが起こる。これくらいと思っていても,案外手強い問題であることもある。このように,技術の壁は明らかに大きな障壁と判るものもあれば,当該の技術者しか判らないような小さな手強い障壁も存在するのである。

  技術者に一番悩ましい問題

技術の壁が立ちはだかって前に進めない事態は,技術者にとって非常に苦しい状態である。こうしたことは,開発業務に携わっていると幾度となく起こってくる。このことはプロジェクトの進捗を大きく左右する。パワー不足とか,ミスでの後戻りと云った見通しの立った遅れとは違い,技術の壁は読み切れないところがある。

また,この技術障壁の課題は技術者自身が解決しなければならないものであり,それだけに技術者にのしかかる負担は大きい。壁が立ちはだかって悶々とする日が続くようなことが起こると会社へ来ること自体が億劫になってしまうことさえある。不安が募り,自分の技術力を嘆くようなことも起こる。技術者にとって苦しい,悩ましい問題なのである。

技術者自身,難しい課題に挑戦していると胸の内では判っていても,どうしようもないイライラが募ってくる。特に,上司や周りからいろいろ言われると益々気持が萎縮してくる。こうした事態に陥った経験は技術者なら誰もが一度と云わず経験している。技術的に上位の経験豊富な技術者ならば解決策をアドバイスしてくれるかも知れない。しかし,若い世代の技術者だとそう云った人が周りに居るが,中堅クラスとなるとなかなかそうした人は居ない。上司といえども,的確なアドバイス,又は技術的な解決策のヒントを与えてくれることは少ない。独りで,或いはチームの仲間で悩むことになる。

  技術の壁を乗り越えるには

先ずは,冷静に問題の整理をすることが必要である。整理をするまでもなく,判りきった問題である場合も多い。ただ,闇雲にその壁にぶつかって行っているようではなかなか解決策は見出せない。そういう意味で,何を,どのような方法で解決しようとするか,整理することは必要なことである。

技術者自身が一人で悩み,考え込むこともあるが,数人のチームで検討している場合などは,みんなで知恵を出し合ったり,違った角度から検討してみたり,場合によっては他からの技術力を助っ人として依頼することも必要である。技術の壁は技術で解決するしかない。問題を解決する技術のスキルが足りなかったら,素直に認め,技術スキルの援助を要請するのは必要で,そうした素早い判断を下すことも大切である。

しかし,往々にして,そうした技術スキルを持った人がすぐに見つかる訳ではない。そうした人がたとえ居たとしても,忙しくて力を貸して貰えないことだったありうる。経験的に,自力での解決策として有効だったのは,何とか解決させると云う執念である。科学の事象は,正直で,必ず法則に従って現象が起こっている。その現象の法則に気がついていないことが多いのである。執念と云ったのは,そうした法則を見つけようとする努力である。その技術の壁には,意外と見落としてしまっている法則が隠されている,否,見落としてしまっている事象が潜んでいる。これを執念で見破り,解決策に繋がったと云う経験がある。

それは,実験結果の生データを自ら冷静に検証することから始めた。つまり,データの裏に隠されている自然の法則が無いかどうかを見極めることである。これまで気づいていないので,そう容易く見つかるものではない。部下やメンバーからのデータから検討するのもよいが,自らが実験に立ち会い,真摯な眼差しで実験結果と向き合うのである。最初は,何も判らない。しかし,何度か実験を繰り返している内に,ハッと閃く仮設が浮かぶ。その仮設をじっくりと検証するのである。

この閃きが大切で,容易に閃きができるものではない。一日中,考えるのである。食事をしているときも,入浴しているときも,布団に潜り込んでからも。とにかく四六時中考え抜くことである。私の場合,当時は忙しくしていてなかなかじっくり考える余裕もなかった。ただし,問題が頭から離れることはなかった。どうしたきっかけだったか今では覚えていないが,ハッと思いつくことがあったのである。きっかけは忘れたが,そのときの感動は今でも鮮明に覚えている。解決できたときの喜びは技術者冥利に尽きる。

最近では,ゆとりがあるせいか,技術の壁に悩まされることはないが,考え事に耽ることはよくある。なかなか思い通りの解決策が見出せないでイライラすることがある。ここのところは起きる前の朝方に,ハッとすることがある。寝ている間に問題点が整理されているようである。人によっては入浴中に閃く人も居て,それは様々である。しかし,何とか解決したいと云う強い執念があるから閃くのである。

このように必ずしも閃きで解決することばかりではない。中には乗り越えられない壁で,プロジェクトを諦めなければならないことだって起こりうる。或いは,目標とした性能をダウンして,開発を継続すると云う方法もある。一筋縄では解決できないのが技術の壁である。

技術の壁は厄介なものである

技術の壁を乗り越えたときの喜びは一入である

 

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[Reported by H.Nishimura 2013.02.25]


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