■開発現場の悩み・問題点を解く 3 〜プロジェクトが遅れる B 〜 (No.308)
次に,計画性に纏わることであるが,立てた目標が高すぎて達成が困難なケースがある。
目標の設定
ここまで到達したい,こんな姿になりたい,競合に先んじて開発したい,など,プロジェクトの目標は様々である。ただし,その目標,到達点は明確で,それに到達することを目指して計画を作成する。しかし,その目標設定は,必ずしも技術者自らが見出して決めるのではない。顧客要求であったり,営業からの要望だったり,或いは上司からの直接指示であったり,いろいろなケースがある。
このように与えられた目標は,先ず自分の能力,或いは自分たちのチームの能力を考慮して決められたものでは無いことがある。つまり,先に目標がありきで,その目標に対して,リソースなどチームとしての能力を勘案するのが普通である。このことは,目標がリソースの能力とどれほど掛け離れているか,技術的に達成可能なのかどうか,上司の経験と勘で割り出されたものであることが多い。普通は,この判断が大きく狂うことは少ない。新製品開発とはそのような目標の設定であることが多い。
しかし,中には十分な経験が無く,実現する判断が困難な目標もあり,或いは,最初から困難な目標であることがある程度判っているケースもある。したがって,プロジェクトリーダーに任命される場合,その目標がどんなレベルのものか,リーダー自らが最初に検討しなければならない。もちろん,困難な目標と判っても,やらなければならないことはしばしばあるのだが・・・。
目標設定がいい加減,或いは高すぎる場合,プロジェクト遅れの原因となることは当然のことである。要は到達点は判っていても,決められた日程内に到達できなかったり,中間目標時点で大幅な遅れが生じているなど,開発能力と目標とのギャップが大きすぎるのである。プロジェクトリーダーは担当する初期段階で目標設定が妥当かどうかを見極めることが大切である。もちろん,できる目標設定が必要だが,ややチャレンジが必要な目標を設定する気持をもって臨んでもらいたい。
目標の妥当性の検証
目標に対して,プロジェクトが成功するかどうか,十分な吟味が必要である。目標が明確になっておれば,現状レベルとのギャップから何をしなければならないか,課題が挙げられる。もちろん,そのギャップを埋めるすべて課題が開発当初から明確な場合もあるが,なかなか初期の時点では曖昧なものがある。しかし,曖昧であっても,課題を乗り越え,目標達成の可能性があるかどうかは判断しなければならない。
その判断をするのが,個別課題に対する開発計画であり,この開発計画が立てられるか否かは,重要な判断材料の一つである。これまでの経験と勘で判断することも重要だが,最低限,詳細な開発計画を立てて吟味すべきである。もちろん,不確定な要素を含んだ計画なので,十分な根拠のある妥当性を求めることは難しいが,できる限り数値化して,達成度合いなどが明らかになるようにしておくことが必要で,そうした検討内容を記録しておくべきである。
不確定要素が多く,初期段階で判断するのは難しく具体的な検討が必要な場合がある。こうした場合には,期限を切って,検討内容を明らかにし,その検討結果をもって妥当性が十分かどうか判断することも必要である。このように,開発プロジェクトには,企画検討期間が必要なものもある。一度スタートしたら,できるまで挑戦し続ける執念も必要な場合もあるが,未知な要素の高いプロジェクトは継続の判断をする時期,又はタイミングを明確にしておくことであってもよい。また,どうしても開発計画が立たないようなものは場合によっては,目標の設定変更をすることも必要なことである。
高すぎる目標の弊害
目標が高すぎるとなかなか到達が困難であることは明らかであるが,他のところにも影響を及ぼす。目標が高すぎて到達が難しいとメンバーの心理にも影響する。手の届くところの目標だと,もう少しで達成と意欲が沸くが,目標が余り掛け離れているとやる気が出なくなり,モチベーションが低くなることが起こる。つまり,メンバーに発揮能力が低下する傾向になる。このことは益々プロジェクトを遅らせる要因となり,悪循環になってしまう畏れがある。
高い目標は達成に時間が掛かる。時間が長く掛かると云うことは,モチベーションの高い状態をいつまでも維持していなければならないことになる。しかし,変化のない状態においてモチベーションを高い状態で維持していくことは長くは続かない。マラソンでもゴールが間近に見えるからラストスパートができるのであって,仕事でも力を振り絞って頑張ることができるのは限られた短期間である。ゴールが遠すぎるのは,思い通りの力が発揮できにくいことを示している。
人の心理は微妙なもので,達成感が味わえない仕事をしていると,どうしてもモチベーションは下がる。だから,プロジェクトでは必ず中間目標を設定して,一段一段上がっていく方法を取る。この中間目標はチェックポイントであると同時に,達成感を味わうことで,モチベーションを上げて進んでいく方法なのである。このモチベーションが高い,やる気のある状態を維持していることが重要なのである。
また,高すぎる目標は,目標があるようで実際には目標になっていないことが多い。つまり,目標が遠くに霞んでいて,ゴールが見えない状態でもある。目標と現状とのギャップが大きいと云うことは,不確定要素が多くあることにもなる。つまり,見えていない部分に何があるか,どんなことが起こるか予測が難しいことになる。予測が付かないことには,プロジェクトを遅らす要因が潜んでいるリスクが高くなる。
高すぎる目標は見直そう!!
[Reported by H.Nishimura 2013.02.11]
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