■本質を究める 3 (No.261)
技術者としての大きな役割の一つは,新たな価値創造(新製品開発や新サービスでの付加価値の創出)である。
●価値創造なくして価値獲得はあり得ない
企業は顧客に製品やサービスを提供して販売に繋がり利益を上げている。つまり,顧客が製品やサービスに価値を見出し,それに対する対価を支払っている。言い換えれば,顧客が価値を認めてくれるものを生み出さない限り,販売も上がらないし,利益も上がらない。これは当たり前のことである。
ところが,ときとして販売増加や利益確保そのものが至上命令として,とにかく売れる物を,僅かでも利益が上がれば良い(薄利多売)と云うことも間々見かけることである。特に,目標とした販売や利益が届かないとなるとトップの号令一つで全員が必死で頑張ることがある。デジタル化の前に需要が見込まれるとテレビ業界が競って売りまくったのも同じである。決して悪いことではないが,よくよく考えてみると,テレビの場合,需要の先取りであって,販売が前倒しになったに過ぎない。事実,その後,売れないので(需要を先取りされたので),テレビの価格はかなり安くなってしまっている。目先の販売や利益に目を奪われて,結果的に業界全体が沈んでしまっている。
これは一つの事実であって,技術者としてはよくよく反省をしなければいけない。確かに売れるときに売ること自体間違いでもなく,悪いことをしていることではない。しかし,このことは新たな付加価値を創造せず,濡れ手に粟のように販売増,利益増を目論んでも企業としては一時的な効果がでるだけで,長期的な視点からは結果的に良くないことになっていることを見極めなければいけない。
企業の組織活動の中で,販売を上げ,利益を上げることは重要で,そのためにいろいろな役割分担がある。その中で,特に技術者は,付加価値を上げるための役割を果たさなければならない。即ち,価値獲得(販売増,利益増)する基となる,価値創造(商品に付加価値を付けること)を果たさなければいけない。
何度か示した図を再度登場させる。
これは実際製造業で関係者をヒヤリングしていて,いろいろなやり取りの中で感じ取ったことを図式化したものである。そしてヒヤリングした人から,確かにその通りになっていると同意を得た図である。特に,リーダの意識構造を変革することを狙ったものである。言いたかったことは,販売・利益は,下部で支えている組織力(風土・文化〜QCD〜商品差別化)があってこそ,結果として生み出されるものであって,販売・利益にばかり目が行って,組織力を疎かにしていると,企業として衰退してしまうことである。つまり,「価値創造」部分の強化なくして,「価値獲得」は為し得ないことをよく判って欲しかったのである。
上図の左にある理想の姿の理解はできていても,実際の行動(無意識)では,いつしか右の図のようになってしまっていることが多い。販売,利益は定量的な数値で示されるので判りやすい。その点,それの源となる組織力は高まったと云っても,定量的な把握が難しい。さらには,組織力が高まったから直ぐに販売増,利益増にはならない。組織力の効果が現れるまでに,時間遅れが生ずる。これが,ますます組織力の強さを分かり難くしているし,組織力の強化の重要性を希薄にしてしまっている。
皆さんも一度冷静になって自分の組織を見直してみるとよい。理想の姿は頭で理解できていても,現実の姿として,上図の右の現状で示した意識構造になってしまってはいないか。その通りになってしまっていると気づく人が半数以上いることは間違いない。なぜそうなってしまっているかは,職場によって様々であるが,日頃の行動,数値の扱い,決算報告などいろいろな場面で,結果の数値がすべてである意識はかなり強いはずである。今からでも遅くない,改めて,価値創造と価値獲得の部分の役割を見直し,理想型に戻そうではないか。そうしたいと思う人は多いが,行動に移すまでの努力をしている人は少ない。特に,会社幹部の責任者層には猛省を促したい。
特に,組織の位置付けによって,意識構造は違ってくるのは当然で,組織責任者は価値創造の部分の強化を疎かにするようでは,価値獲得も思うようにならず,企業としては衰退を余儀なくされることは肝に銘じておくべきである。
企業の衰退は足下(組織力)から崩れていく!!
その原因は幹部の意識・行動にある!!
[Reported by H.Nishimura 2012.03.12]
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