■もしドラ 開発リーダ編 8 〜イノベーション 2〜 (No.228)

イノベーションの続き。開発リーダにとってのイノベーションを考えてみる。仕事の役割からみて,開発リーダにとっては,イノベーションがやりやすい立場にある。むしろ,イノベーションすることが一つの大きな役割であるとも云える。

  開発リーダにとってのイノベーションとは?

前回冒頭で述べたように,「イノベーションの結果は,より良い製品,より多くの便利さ,より大きな欲求の満足である」と云うことは,新製品開発をして,より良い製品を送り出し,顧客から喜ばれることになれば,イノベーションの成果となることを意味しており,それは開発の使命を全うすることに外ならない。企業として製品のイノベーションを図るミッションは開発部隊にあり,そのリーダの貢献度は大きいものがあると云える。

  1.開発の壁へのアタック(チャレンジ)

新製品開発の仕事は,新しい製品開発,もしくは新しい市場開発を意味しており,それを成し遂げるには,これまでの技術に何らかの新たな要素技術を付加して,新しい付加価値を付けることにある。それは,市場で見れば既存市場であって,そこへこれまでに無かった新たな付加価値の付いた新商品を送り込むものであったり,また一方では,製品としては従来品を改良したものであってもこれまでに無かった市場を開拓して送り込むもの,或いは,その両者,新製品/新規市場と云う場合もある。

いずれにせよ,これまでに無かったことを打ち立てる,即ち新しい壁を打破することで成し遂げられる。これが開発の使命そのものである。開発リーダはその規模の大小はあるにせよ,その役割を果たさなければならない。新しい事へのアタック,チャレンジ無くして開発の仕事をしているとは言い難い。それにより,新たな発明が生まれたり,或いは特許を取得するなどと云う付加価値も付いてくる。

もちろん,新しい発明や特許が多くできても,それが世の中に製品として日の目を見ないものでは,技術者としての自己満足に過ぎず,少ない発明や特許であっても,新製品として世の中に送り出され,顧客に喜んで貰えることの方がイノベーションの価値が高い。それがヒット商品となり,世の中の多くの顧客に感動を与えることができるものとなれば,それこそ技術者冥利に尽きるものである。

こうした感動を得るには,開発リーダとして心掛けておかなければならないことが幾つかある。先ずは,チャレンジ意欲である。失敗を恐れ,新しいことへチャレンジしないようでは,得られるものが少ない,或いは無い。そのためには,日頃から広く浅く,ときには深く,好奇心が旺盛でなければならない。失敗が次の成功に繋がる位の積極的な姿勢も必要である。また,開発のリーダとしては,先読みができる深い洞察力も求められ,そうした自信を持っている態度がメンバーからも信頼されることになる。一人で新製品開発をするケースは殆ど無い。メンバーとの協働作業で為し得るためには,的確なリーダシップも要求される。そして,何にも増して重要なことは,最後まで諦めない執念である。開発には,多くの壁が待ち受け,その壁に阻まれること必至である。それを乗り越える忍耐力,執念が必要不可欠なのである。イノベーションとは,こうした地道な努力から成し遂げられる。

  2.新しい顧客の創造

開発リーダとして,新製品を開発することは役割の大きなものであるが,新製品が顧客に受け容れられなければ意味がない。つまり,新製品開発において,新しい技術,新しいやり方に幾ら優れた要素が込められていても,それを顧客が価値として認めてくれない限り,付加価値があるとは云えない。そうした意味では,製品の持つ価値を,新たな顧客に知らしめ,感動を与えて買って貰うことは重要な意味を持つ。つまり,開発リーダは製品開発において,顧客をしっかり見据えて新製品開発にあたらなければならないことである。

新製品開発において,マーケティングが重要と云われるのも,顧客が何に付加価値を見出すかをよく調べておくことが大切だからである。会社や組織のスローガンによくある「顧客重視」も,自分たちの作り込んだ製品,或いはサービスなどが,顧客がどれだけ付加価値として認め,買って貰えるか,それを熟慮した組織活動になっていることが重要だからである。

顧客を創造することは,新製品開発を以てできる。つまり,これまでに無かった新しい商品を開発することは,これまで既に顧客だった人はもちろんのこと,これまで顧客で無かった人までも,新製品の魅力で惹きつけることができる。即ち,新製品で新しい顧客が生まれることになる。このインパクトは大きい。従来品を新しい顧客に売り込むことは地道な努力で徐々に拡大する。しかし,新製品はそれ以上の魅力を持っており,状況次第で大きな顧客創造を為しうる可能性を秘めている。開発とはそうした可能性にチャレンジすることで,開発リーダの思いは,新製品開発に依って大きな市場を開拓する,即ち新たな顧客を創造することにあらねばならない。

  3.新しいプロセスの確立

新製品を開発するには,新しい技術の導入が不可欠で,そのためには安定供給できる点でも,内部のプロセスがしっかり確立できなければならない。つまり,顧客に向かって付加価値の提供を探ると同時に,内部の開発プロセス,或いは製造のプロセスの確立は必要十分条件となる。このことも,従来プロセスを打ち破る意味で,イノベーションを図る必要がある。

価値は顧客が決めると云ったが,その価値を認めてもらうバックには,内部の開発プロセス,製造プロセスが,品質の安定化の点でも非常に重要なことは誰しも判ることである。開発リーダにおける新製品開発は,1個の貴重な新製品ができることではなく,安定した製品供給が重要で,新製品開発には,新しいプロセスの開発もついて廻ることが多い。見方を変えれば,新しいプロセス開発が確立できれば,それはその製品だけでなく,次の新製品にも役立つプロセスになることが多い。

顧客から価値を獲得するには,こうしたプロセスなど,製品個々には見えない重要な工程が作られなければ為し得ないもので,価値を創造する過程はこうしたプロセスを大切に扱うことにある。とかく新製品そのものにスポットは当たりがちであるが,開発リーダの中には,必ずしも全てが製品開発するわけではなく,こうした新しいプロセスの確立に貢献するリーダも必要であり,イノベーションはこうしたところにもあることを忘れないで欲しい。

(続く)

開発リーダとしてのイノベーションができていますか?

企業のイノベーションの先頭に立っていますか?

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[Reported by H.Nishimura 2011.07.11]


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