■もしドラ 開発リーダ編 5 〜人の強みを活かす〜 (No.225)

開発リーダにとって人を活かすことは非常に重要なことである。

  人の強みを活かす

我々の仕事は,組織を通じて行われることが殆どである。したがって,組織のメンバーの活動が如何に有効的な働きをしているかによって大きく変わる。人は持てる知識やスキルを与えられた仕事に有効に活用することによって,付加価値を付けたり,顧客にサービスを提供したりすることができる。このことは言い換えれば,仕事の内容と保有する知識やスキルがマッチングしていて,持てる能力を発揮することになる。

ところが,人の持っている知識やスキルが必ずしも仕事とマッチングしているかと云うと必ずしもそうではない。特に,会社組織で仕事をするとなると,適材適所とは言われているものの必ずしもそうなるケースは多くない。もちろん,例えば技術部門であれば,少なくとも関連した知識やスキルを持った技術者の集団で,技術系で無い人が集団の中で活躍する場は殆ど無く,そうした人が居ることは殆どない。しかし,同じ技術者といえども,各々専門とするものがあって,仕事とその専門がピタリと合っていることは殆ど無い。

もちろん複数のメンバーで仕事をするので,各々の専門に近い,或いはできる能力を見越した仕事が割り当てられる。例えば,開発する製品において,幾つかの要素技術を必要とするが,既にメンバーが有している技術もあれば,そうでなく新たに開発要素がある技術もある。競合と比較して,秀でている要素技術と劣っている要素技術とがある。こうしたとき,製品開発に必要な要素技術が劣っていれば補う必要があり,それに優秀なメンバーを充てることも考えられる。そうではなく,劣っている部分は致命傷で無い限り,ほどほどのレベルで十分と考えるやり方もある。

製品開発競争では,差別化が重要視される。つまり,顧客が価値を認めてくれるのは,他と比較して同じレベルのものではなく,何か魅力を感じるものがあるかどうかである。他より優れた特性を持っている方に目が向くことが多い。そうした意味では,弱点,即ち他より劣っている部分を補うことに力を注ぐよりも,優位な点をさらに高めて,他と大きく差別化できる方が魅力的なものに仕上がる。と云うことは,優秀なメンバーが持てる最大の知識とスキルを活かすことを武器に戦うことの方が優位になる可能性が高いのである。

ドラッカーは,人のマネジメントが大切で,まだまだ人の潜在能力が活かせる仕事を与えられていないと嘆いている。仕事と職場に対して成果と責任を組み込み,共に働く人を活かして,強みが成果に結びつくように配置すべきと説いている。

私は部下を育成するときに気を付けていたことがある。人は皆,弱点を持っており,それを指摘して直させる方法を取る人も居るが,私の場合は,持てる強みを見つけ出して,それをさらに伸ばす育成方法を取った方が,人は成長することを実感しており,いつも,この人の強みは何かを聞き出し,或いは,見つけ出して指導・育成していた。そうすることが,その人の成長にも大いに役立ったと実感している。

また人の能力は不思議なもので,強みを伸ばすことで大きな自信ができると,弱みと見なされていた部分がいつの間にかカバーされて弱みが無くなっている状態になることがある。そうした意味で,弱みを気にして何とか改善をしようと努力するよりも,強みを活かすことの方が自然と弱みを無くしてしまっているケースをよく見てきた。人は強みに自信を持って(自信過剰ではいけないが・・),事に当たることが大切なことであることを物語っている。

  「人こそ最大の資産である」

会社組織のルールや規定などは,貴重な財産である。特に,人の入れ替わりの激しい場合には,人に依存するような仕事のやり方をしていては,品質にも性能にもバラツキが大きくなってしまう。したがって,一般的には,プロセスを重視し,人の入れ替わりがあっても,同じ製品品質が保たれるような仕組みを考えている。元々,品質管理の基本はそうした仕組みをきっちり仕上げることにある。

仕組みを充実させて,管理を上手くやることで成果を上げる方法は最適なやり方である。しかし,ドラッカーは忠告している。管理する方法は結局,定量化して測定,比較することで判断するのだが,それを人の判断基準にしてはいけない。即ち,利益などを基準にして,景気変動で会社経営が危うくなると,すぐに人を簡単に切ることを諫めている。優秀な人材を引き留めることは,前年度の利益よりも重要である,と。このことは経営者にとっては,厳しい表現である。つまり,会社経営が成り行かなくなってしまえば,優秀な人も役立たなくなってしまう。だから会社が傾く前に,優秀な人も含めてやむなく切ってしまうことになる。大企業では,会社の赤字部門を売却してしまうことがその一つであり,中小企業では,トップとよりが合わない人材がそうした憂き目に遭う。それが優秀な人材であっても・・。

嘗ての日本企業は人を財産として重宝した。欧米の契約主義に対して,終身雇用制(定年まで雇用を継続すること)を採用していた。そこでは一旦選んだ会社組織は,社員として家族のように扱われた。そして,社員の成長と共に会社の成長があった。高度成長時代の良き制度で,人は会社の財産だった。松下電器はその最たるもので,松下幸之助の神話になっていた。しかし,21世紀に入り,経営が行き詰まるとリストラを慣行,人を大切にする会社から豹変した姿だった。定年まで働くつもりだった多くの仲間が去って行った。経営者として止む無き処置ではあったが,「人こそ最大の資産である」との思いとは明らかに違っている。それ以降,今日まで,欧米並みのリストラ,と云うのは言い過ぎでそれなりの日本人的な配慮はあるが,日本企業の殆どの会社でリストラと称した会社都合での解雇が当たり前のように行われている。

それに輪を掛けて行われているのは,非正規雇用の社員で構成された会社組織である。アウトソーシングで,各々の業務で専門の会社に任せて,自社の専門とする分野に注力するのは間違いではなく,ドラッカーもそうすべきだと言っている。しかし,昨今の非正規雇用の実態を見ると,アウトソーシングとは名ばかりで,本来社員でやるべき業務を非正規雇用の社員で賄い,社員と同じ働きをさせながら,安いコストの誘惑に逆らえず,日本で業務をやるには,グローバル競争上やむを得ないこととしてしまっているフシがある。本当にそうなのだろうか?「人こそ最大の資産である」との観点からは,大きく外れてしまっている。取り返しがつかないことにならなければ良いのだが・・。

(続く)

人のマネジメントを考えよう

人の強みを活かす方法を追求しよう

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[Reported by H.Nishimura 2011.06.20]


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