■もしドラ 開発リーダ編 2 〜企業とは何か 事業とは何か,その目標は〜 (No.222)
開発リーダとしての仕事は,組織として仕事をすることである。組織としての仕事とは何か?
企業とは何か
会社組織に居ると,上からは,販売を伸ばせ,利益を上げろなど,会社経営に貢献することの追求がある。しかし,ドラッカーは,企業に於ける成果とは何かをしっかり知った上で行動することが重要であると説いている。目先の利益の追求や,企業の目的が利益では無いことを知らしめている。
ただし,企業にとって利益を上げることは必要なことで,利益を上げ税金を納めることで社会貢献を果たすことが出来る。しかし,企業の目的は利益を上げることではなく,企業は社会の機関であることから,企業の目的は顧客を創造することであると定義されている。企業とは何かを決めるのは顧客であり,顧客が価値を認め購入するものは,財やサービスであるが,そのものではなく財やサービスが提供する効用である。顧客を創造するためには,マーケティングとイノベーションが必要で,この二つが成果をもたらすのである。
最近は景気変動が激しくなかなか利益が上がらないことが多い。そこで会社の上から末端まで,利益,利益と叫ばれているが,利益を上げるのは結果であって目的ではない。経営的に云えば,価値を創造する部分(組織力,製品開発力など)があって,初めて価値を獲得する部分(販売,利益)があるのであって,価値を創造する部分に力を入れずに,価値を獲得しようとすること自体,論理的に矛盾を来していて,その矛盾を理解せず叫んでいる幹部・経営者も多い。濡れ手に粟のような仕事は,企業としての役割を果たしていない。
ドラッカーは,利益とは原因ではなく結果であると云い,利益は経済的機能を果たす必要不可欠なものであると説いている。即ち,次のように説明している
- 利益は成果の判定基準
- 利益は不確実性というリスクに対する保険
- 利益はよりよい労働環境を生むための原資
- 利益は,医療,国防,教育など社会的なサービスと満足をもたらす原資
事業とは何か,その目標は
あらゆる組織において,共通のものの見方,理解,方向付け,努力を実現するためには,「我々の事業は何か。何であるべきか」を定義することは不可欠であり,「我々の事業は何か」を問うことこそ,トップマネジメントの責任である,と説いている。各々の会社には,社是,ミッション,ビジョンなどが掲げられており,それらが当に「事業とは何か」を物語っている。しかし,一般的には,社員に十分浸透しているかと云えば,そうでもなく,大企業などきっちり新入社員教育を行っている場合を除いて,あまり一般社員には関心が無いことが殆どである。会社の玄関など,来客からもよく見えるところに掲げられていて,来客の方が関心をもって眺め,社員の方は何も感じていないことがよくある。
開発リーダでも,十分心得ていない人が多い。関心は目先の課題,問題解決で,社是が解決してくれるとは思ってもみない。本当はそうではない。悩み苦しむことがあったときの拠り所が,社是やミッション,或いは経営方針であって,それに立ち返って物事を判断することが経営者としては非常に大切なことで,開発リーダも組織責任者としては,同じ立場で考えることが大切で,心の奥底には必ず「我々の事業は何か」があるべきなのである。
企業の目的の出発点は顧客であり,顧客によって事業は定義される。ところが,頭では,或いは,このように大上段に構えて考えるときはそうであっても,日頃の行動で,顧客を真に大切にし,顧客重視の姿勢があるかと云うと,なかなかそうではないことが多い。いろいろな問題が起きても,通常一般は内部的なことに目が注がれ,内部的な販売や利益がどうだという点の議論が展開される。反省会でも同様である。顧客のこの字も出てこないことがよく見受けられる。企業の原点が顧客にあるならば,議論の原点は,顧客に対してどうだったかが先ず論じられなければならない筈である。しかし,顧客は遠い存在,或いは忘れられてしまった存在であることがしばしば見受けられる。
事業の定義があって初めて,その目標が定まる。ここでも,マーケティングとイノベーションで,この二つの貢献に対して,顧客は代価を支払うのである。マーケティングの目標は,いろいろあるが,新製品・既存製品/新市場・既存市場で目標が各々定められる。イノベーションの方は,影響度と重要度の測定が難しく,目標設定がなかなか定まらないことが多い。
最近は生産性向上と云う言葉は一般的に使われるが,その基となる経営資源,即ち,人・物・金の確保が必要で,これらに対して生産性の目標を設定することになる。生産性の向上こそが,マネジメントにとっては重要,且つ困難な仕事なのである。品質第一と一般的には云われているが,最終,経営活動での指標は生産性の目標であり,これが明確でないと方向性を失うことになりかねない。
また,ドラッカーが言っていることは,何もかも出来る企業はない。優先順位をつけることが大切である。事業が何かを考え目標を検討するのは,組織のエネルギーと資源を正しい成果に集中させることである。目標は実行に移さないと目標ではなく夢である,と。
現実,毎日の活動から,「事業とは何か」を考える余裕などないのが正直なところである。それはそれで致し方ない。しかし,大切なのは流れに身を任せて,気づいたときには,手遅れになって,あのときもう少し考えておけばよかったと,後悔することがないようにすることである。忙しさを理由に,言い訳けしていては,成長もない。開発リーダである以上,組織責任者,少なくとも経営の一端を任された者として,組織運営,さらには部下育成を少なくとも数%は考えて欲しいのである。
事業とは何か,を考えたことがありますか?
開発リーダは組織責任者で,経営の一端を任されていますよ! その自覚がありますか?
[Reported by H.Nishimura 2011.05.30]
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