■抽出法2 なぜ,なぜと問いかける
次に,いろいろな原因究明の分析手法の中で,最も基本的な,かつ最もよく用いられているものに,「なぜ,なぜを繰り返す」と云うものがある。これは,課題(問題)を解決に導く方法の一つであるが,同時に課題抽出にも非常に有効な手法なのである。
なぜ,なぜと問いかける有効性
先にも述べたように課題とは,目標と現状のギャップである。そのギャップがすべて明らかになっているとは限らないことが多い。なぜならば,目指す姿は理想像でもあり,現状から導き出したものではなく,現状とは全く別の理想の姿であることが多い。つまり,現状とのギャップを探し出さねばならない。
まず思いつくようなギャップは,単純な違いや格差である。そうしたすぐに見える課題もあるが,中には潜んでいる重要な課題がある。その重要な課題を見つけるために,思いつく事象(現象)からその事象がどうして起こるのか,その要因は何かと深く掘り下げて行く。このやり方は原因分析で根本原因に辿り着くやり方と同じである。社会事象は複雑に絡み合っていることが多いだけに,一つの事象を深く掘り下げ,その根本の要因となっている事象を見つけ出す方法として優れたやり方である。
このような課題抽出ができるのも,ごく基本的な,なぜ,なぜと問いかけることにある。この基本に忠実なことが確実にできるか否かが,重要課題を見つけ出す根源となっている。そしてこのやり方は,なぜ,なぜと問いかけると云う単純な方法で,多くの知識を必要とせず,誰にでもできることである。そのことは,即ち関係している人すべての衆知が集められることになる。つまり,課題抽出時点から,みんなの参加ができることである。
具体的なやり方
もともと,なぜ,なぜ,と問い掛けるやり方は,トヨタで始まった問題分析の一つの管理手法で,根本的な原因を見つけ出すのに優れており,企業の多くが使っている。このやり方を課題抽出にも応用しようと云うものである。
まず,問題となっている事象(現象),或いは問題になりそうな事象(仮設でもよい)をトップに書き出す。幾つかあれば,それらは各々別々に検討する。先ずは,それらの中の一つをトップ事象に挙げる。
その事象(結果)を生み出していると思われる要因(原因)を列挙してみる。そうするとまたそれに関する幾つかの原因が見つかる。これを第2事象(結果)として,またさらにその事象を生み出している要因(原因)を書き出してみる。これらを,下図のように順番に繰り返し,第5事象まで繰り返す。必ずしも,第5事象までしなければならないと云うのではなく,ものによっては,第3事象や第4事象で終わるものがあっても構わない。
実際やってみると,簡単に書き出せるものでなく,途中で振り返ると,結果と原因がひっくり返っていたり,第3事象で出てきた事象がよく考え直してみると,第2事象に置いた方が適切だったり,慣れない間は右往左往することがある。それでも構わない。じっくり考えてみることの方が大切である。先ずは基本的な,「結果を生み出している原因が何か」を事象を下げて繰り返すことである。この方法は,原因分析の方法と全く同じやり方である。
ここでは,思いついたことを全て洗いざらい列挙することが重要である。先にできるかどうかを考えるのではなく,思いつくまま書き出す(発散させる)ことである。このように表にしてみると,重要な事象が中に潜んでいて,浮き出されてくることがある。自分で納得できる整理ができるようになれば一人前である。
一人でじっくり考えることもできるし,グループで仕事をしている場合などには,メンバーが集まって意見を出し合って,まとめていくのでもよい。あまり難しい方法ではないので,すぐに,誰とでもできる方法である。品質管理を勉強した人や品質管理に精通した人は,特性要因図を描こうとするかもしれないが,ここでは素直に事象の結果を引き起こしている要因を列挙することにすればよい。
やり方の問題点
一見簡単で,誰でも容易にできると云ったが,実は必ずしもそうではない。簡単なやり方であっても,じっくり考えることが必要である。初めての人にやってもらうと,事象の結果と原因の区別ができない人もいる。つまり,二つの事象のどちらが原因で,その結果としてもう一つの事象を引き起こしていることをはっきり捉えられないのである。そんな簡単なことが判らないのか?と疑問を抱く人も多いかもしれないが,社会事象では意外と区別が難しいことがある。
試しに上図のような図表を作ってもらうと,第一事象に対して,第三,もしくは第四事象まで進んで,その要因を考えると第一事象に戻ってしまうようなことが起こることがある。この場合,二つのことが考えられる。
一つは,やり方を十分理解できていないで,深く要因を探ることができず,現象だけを辻褄を合わせて並べている場合である。一見すると尤もなことであるように見えるが,よく見てみるとどこかが論理的に飛躍していることがある。これは初心者に多い。この場合は,ベテランやこのやり方に熟知した人がアドバイスをしてあげよう。
もう一つは,社会事象にありがちな「風が吹けば桶屋が儲かる」のように一つのサイクルになっている場合である。事象に対する要因が幾つかすると元の事象に戻っているのである。具体的には,赤字経営に陥ってそこから抜けようと一生懸命やろうとしているのに空回りしている場合などがそれに当たる。
これは,次の,「負のサイクル」で説明しよう。
なぜ,なぜと問い掛けるポイント
先ずはなぜ,なぜと素直に,事象として現れていること(結果)に対する原因を探ってみよう。ここでは社会事象を取り上げているので,純技術的な現象に対する原因を調べる調査・検証をするのではない。根本的な原因がどこにあるのかを探すことである。そこに重要な課題となりうるものが潜んでいるのである。
なぜ,なぜは一見簡単そうにみえても,的確な課題を抽出することができるようになるまでは,少し時間を要する。日頃から常に考える習慣を付けておくことが大切である。
[Reported by H.Nishimura 2008.08.05]
[Reported by H.Nishimura 2013.02.08 見直し]
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