■技術経営とは? 1 (技術経営の歴史,背景)

次に,なぜ,MOT(技術経営)が必要なのか?について考えてみる。まずは,歴史的背景から見てみよう。

MOTの起源

MOT(Management of Technology)は,最初米国のMITで,1962年に,“Management of Science and Technology”と云う研究分野を作ったことに発している。その後,1981年に,ビジネススクールの中に,修士号が取得できる派生コースとして,“Managemnt of Technolgy(MOT)”のコースを設置したことに始まっている。

1980年代の米国は,日本の製造業の台頭により,国際競争力の優位性が急速に低下し,これに危機感を持った産業競争力委員会によるヤングレポートや,MITの教授による“Made in America”は,改革の指針を示したものとして有名であるが,これら一連の提言において,人材育成の必要性が叫ばれ,ビジネススクールをはじめとする高等教育改革が示唆された時期である。これらも,米国におけるMOTプログラムが拡大した契機になったと云われている。

MITでは,1988年に製造業におけるリーダを育成することを目的とするLFM(Leaders for Manufacturing)プログラムが開始されている。これは,インターンシップを通じ,大学,教員,学生,企業がお互いWin-Winの関係を構築できるないようになっている。即ち,産業界と大学が連携し,インターンシップやプロジェクト演習などを盛り込むことにより,学生に対し実践的な教育機会を提供すると共に,産業界に対し人材獲得機会を提供している点にある。

一方,日本では遅れること約20年,2002年度より開始された「経済産業省 技術経営人材育成プログラム導入促進事業」により始まっており,MOTという言葉が日本で使われ出したのは21世紀に入ってからで,未だ十分浸透している言葉ではない。しかし,一旦導入が開始されると,広がりは速く,既に大学機関で多くのMOTプログラムが開講されている。

日本型のMOTとは

MOTとして正式には随分遅れたが,実際80年代から進められていた日本の特徴はどんなものだったのか。日本の製造業は,昔から技術の優劣が企業の経営を左右することを重く受け止めてきた。日本の有数の大企業が新しい技術開発を経営の根幹において成長してきたことはよく知られており,技術を育て,その技術から新製品を生み出し,企業を成長させるサイクルを廻してきた。これはMOTとの定義ではなく,「日本の物作り経営の原点」でもあった。

ただ,昨今の環境の変化,即ち,グローバルな競争社会や情報化社会,さらには市場ニーズの変化の激しさなどに対して,これまでの伝統的な日本のやり方だけでは日本の競争力が維持できなくなってきている事実がある。特に,日本は科学・技術研究の水準では世界のトップクラスに居ながら,マネジメント面では極めて低い評価を受けているのである。つまり優秀な技術をもちながら,それを事業に生かし切れていないと云う評価なのである。特に,不確実性に満ちた環境下での意志決定を的確に行うための,戦略性の部分が日本企業は弱いとされている。これらの点が,最近になってMOTが叫ばれている要因の一つでもある。

とはいえ,日本の地理的な環境など踏まえても,日本固有の物作りを中心としたMOT,カイゼンやカンバンなどを生み出した日本の製造現場の持つ技術力や豊富な「知」の力,いわゆる「現場力」などをもっと信頼して,小さな個人の衆知を集めた大きな組織知にしていくようなMOT,阿吽の呼吸が通じるチーム力などを活かすMOTを目指すべきと云われている。

製造現場の実態からは,MOTという言葉さえ,組織責任者の多くが未だ知らない状態である。定義を説明し,その内容を解説してやっと,その重要性は無意識の中であるが認識している,と云った状態である。まして,日夜仕事確保に明け暮れている中小企業の中で,本当にMOTの必要性を感じている人がいろだろうか?しかし,日本の物作りを下支えしている人々の多くが,中小企業で働いているのである。ただ無意識のうちに,技術なしでは経営できないと云うことを肌で感じている人々でもある。

MOTと横文字を並べると如何にも高等な学問のように聞こえるが,言葉はともかく,日本企業の将来の生きる道を見定める上で,非常に重要なことであることには違いない。

 

次は,技術経営の必要性について

 

[Reported by H.Nishimura 2007.03.10]


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