■技術経営とは? 2 (技術経営の必要性)

なぜ,このようなホームページを作ったのか?

MOTを詳細に説明する前に,なぜ,このようなホームページを作ったのか? について説明した方が,皆さんの理解も高まるのではないか,と考え,その理由を先に説明することにする。

1.21世紀の日本社会を考えるとき,技術立国になることが必要不可欠な環境になっている。

我々,団塊の世代をはじめとする高度成長時代は,アメリカを見習い,追いつけ追い越せでがむしゃらに頑張ることが,日本社会を成長させることであり,一路邁進することでよかった。1980年代までは,日本の成長が世界で取り沙汰され,アメリカが悩んだ末に,そのお手本としたのが日本の経営であった。そうかといって,日本の経営者が戦略だってやったことではなく,アメリカの物作りに忠実に,日本に合ったやり方を進めた結果がそうなったのである。

それも長くは続かず,1990年代に入り,高度成長が頭打ちになると共に,ASEAN諸国など日本の物作りを脅かす,低賃金で日本の物の作り方,ノウハウが移転した国々が現れた。それも,日本の各企業が,安い労働力を目につけ,ASEAN諸国での物作りに力を入れた結果であり,国内産業の空洞化が問題になり始めた。既に,その頃から,日本社会は物作りだけでは,生き残れない産業が出始めた。日本の物作りのノウハウに,現地の安い労働力が合わされば,日本に勝ち目はなかった。

未だに,自動車産業など国内での物作りが生き延びているもののあるが,これはむしろ珍しい例である。電機,機械の主な企業が海外生産を始めると,それを構成する部品産業もそれらに引きずられた形で海外生産が始められた。結果,中小企業までもが海外生産を余儀なくされていったのである。

こうした産業空洞化の危険性を早くから予測し,日本企業の中で,新製品の研究開発など知的労働の部分が,21世紀の日本の産業であるとの見方をするところもあった。当に,その予測通り,21世紀に入り,低賃金の国が高度成長し,他の低賃金の国へ生産が移行する流れはあるものの,日本の役割は知的生産がより強く求められるようになってきている。言い換えれば,日本は技術立国として生きていく道を求められているのである。

私が経験した電子部品でも,既にASEAN諸国で,生産が始まって20年も経過するところが出てきており,そうしたところでは,現地生産から,現地設計(現地の材料,部品を使った設計)の段階に入っている。全くの新製品は未だであっても,簡単な設計変更品は現地でできるレベルになってきている。それと同時に,IT技術の発達で,日本と同じ設計図面がリアルタイムで利用できる環境も整い,ますますそれらに拍車が掛かっている。

2.技術立国を目指すのは,余りにもその意識が乏しい,且つ行動も伴っていない

こうした外部環境の変化の中にあって,日本国内では企業の生き残りがますます厳しさを増し,事業構造改革など,経営の刷新が行われている。V字回復などマスコミなどを賑わしている景気回復は,実際に内部に居る者にとっては,そんなすばらしいものではない。選択と集中という名の下に,赤字事業の切り捨て,余剰人員のリストラ,低賃金のフリーターによる労働力確保など,かっての企業とは全く姿を変えてしまっている。最も端的なものは,社員が一堂に会する食堂での食事時間では,正社員より外部社員の方が多いと云う光景になってしまっているのである。

目に見える現象はそのようなものであるが,社員の意識も随分変わってしまっている。昨今,企業経営で赤字経営は許されないのは常識であり,社員の末端まで浸透している。赤字事業はリストラの対象のイメージが強く,企業トップから末端まで“利益”に対する注目度が以前よりも高くなってきている。そのこと自体は企業として望ましいことであるが,どのようにして利益が出るかを深く考えず,近視眼的な利益追求に全員が血眼になっている姿が浮き彫りにされるのである。

実際に私が事業実態を調査した結果では,組織内の意識構造は下図のようになっている。理想型は下図の左のようなものであるが,実態は右のような意識構造,もちろん活動もそうなってしまっているのが,昨今の状態である。これは何を意味しているかと云えば,左図のように,本来,風土・文化・仕組みなどに支えられた組織力があって,QCDSをきっちり確保しながら,商品の差別化を図り,販売を増強し,その結果利益が得られるのである。これは,その職位によって,どこまで深く考えているか,或いは行動しているかは違っている。しかし,昨今の実態は,右図のように,まず利益が意識のトップにあり,販売,商品差別化,組織力とだんだん尻すぼみの状態である。職位によって差はあるが,全体の構図は変わらない。

極端に図示してあるが,これを見れば,如何に事業が不安定な状況にあるかは,一目瞭然である。ものの考え方自体が間違っている場合さえある。実際,下図を見せられて,自職場を眺めて見ると,なるほど,昨今は利益追求が厳しく指摘されるとおりだ,と思った人がどれほど多いだろうか,想像がつく。世の中の多くの日本企業が危うい意識構造になっているのである。

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私が,このホームページを立ち上げた理由は,MOTを解説することではない。MOTそのものに関してはいろいろな大学教授や専門家がMOTについての研究をされているが,企業の実態,本当の技術者が直面している問題を具に検討されている例は少ない。だから,MOTの理論や戦略論の専門的な箇所は,著名人に委ねることにして,現場の抱えているMOTを生々しく,検討する場を設けようとしたのである。今,日本の企業に必要なのは,裏付けされた理論も必要だが,やはり実践に即した課題提起,課題の共有,課題解決法などであると感じている。

MOTの必要性は,上記の例からも十分理解いただけたのではないかと思う。

 

次は,技術経営に必要な条件について

[Reported by H.Nishimura 2007.03.10]


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