■技術者の眼 12 アマスポーツ界の不祥事  (No.594)

アマスポーツ界の不祥事が相次いでいる。マスコミを賑わしている話題は,どの局も同じ事を繰り返し報道されているから,イヤでも耳に入ってくる。アマチュアレスリングに始まり,アメリカンフットボール,アマチュアボクシング,そして今回の体操と。

  パワハラと暴力

今回の体操界の問題は,最終的にはまだ決着が付かず,日本体操協会が第三者委員会を立ち上げ,両者の言い分を十分聞いた上で裁定を下すことになっている。その問題の中心は,パワハラ問題である。

当初は暴力を振るったコーチが日本体操協会から無期限停止処分を受けたことに端を発し,暴力行為そのものは認めたものの,そのコーチの元に居た選手が暴力は受けたが,パワハラではないと言い切り,逆に協会幹部である塚原夫妻からパワハラを受けたとテレビ前で訴えたことが大きな問題になっている。

一世代前では,パワハラと云う言葉もなかったし,体罰(暴力)は日常茶飯事に行われていて,指導の一環として認められていた。しかし,昨今では事情が大きく変わり,僅かな暴力行為も許されないようになってきている。つまり,昔の体罰で指導するやり方は時代遅れで,言葉でしっかり指導するべきとされてきている。親が子供を叱るときでも暴力は認められない。

暴力行為がいけないことは周知の事実になっているが,パワハラとは,権力者がその権力を肩に相手に嫌がらせをすることで,暴力だけでなく根が深い問題で,受け手とやり手側での感覚の違いも大きく,受け手がパワハラを感じれば,やり手が受け手のためを思ってしたことでパワハラのつもりはない,と言い張っても認められることは少ない。

つまり,権力を持った側が倫理観を伴った適正な権力を振るっている段には何ら問題は無いが,権力を横暴に振る舞う権力者が多いから,パワハラの問題が起こってくるのである。(No.583 権力者の倫理観

  アマチュア界の仕組み

今回の一連の騒動はアマチュアスポーツ界で起こっている。プロと違いアマチュアはお金が絡むと云うより,権力が絡むことが多い。報酬がどれほどか知らないが,報酬よりも名誉職で成り立っているように感じられる。つまり,組織内で権力を持ち,それを使うことで地位を確保することが行われる。

だから組織運営に長けた人よりも,その業界で名を馳せた人が自然とその幹部になっていることが多い。オリンピック選手で金メダルを獲得した人などが幹部に押し上げられている。過去の栄光に生きている人達である。総ての人がそうではないが,権力を持ち,トップに近づくと自分の判断力がすべてになってしまう人が多い。権力者に逆らえない組織構造ができあがってしまっている。

したがって組織の権力者の倫理観がすべてで,倫理観に欠けている権力者が現れるとパワハラが堂々と行われ,それに鈴を付けようとする人が次第に排除され,イエスマンの塊の組織になってしまうことが多い。今回の体操界の問題も,個々の中では燻っていたことだが,なかなか勇気を振るって鈴を付けようとする人が現れなかったようである。

そもそも閉じられた世界なのか,公正な審判をする人が選手を抱えるクラブの監督をしていると云った奇妙なもので,人間ならば自分の子供,或いは部下が可愛いのは当然で,えこひいきとまで行かなくとも,有利なような判定を下すのは当たり前のことである。それが変だとも感じない業界の未熟さに呆れ返るばかりである。野球で例えれば,球審や塁審が球団のお抱えの人がやっているようなもので,公正な審判がなされず,試合が成り立たないのは当たり前の話である。

狭い中での組織で,協会の幹部がクラブの監督と兼務されていると云うが,これもおかしな組織である。協会の幹部ならば,少なくともクラブの監督は辞退して,中立的な立場に立つのが当然である。こうした基本的な公正さを担保できない組織運営は,アマチュアといえ許されるものでなく,例え人が代わったとしても同じ事が起こる温床が残っていることになる。

今回のことを冷静に考え,あるべき姿は何なのか,東京オリンピックを目前にして,アスリートファーストがどうすれば担保されるのか,よくよく考えて結論を導き出して欲しいものである。

アマチュアスポーツ界の組織運営に疑問を感じてならない

 

[Reported by H.Nishimura 2018.09.03]


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