■技術者が持つべき資質 9 プロジェクトマネジメントができること  (No.465)

第9回目は「プロジェクトマネジメント」について考えてみる。

  プロジェクトマネジメントに初めて接して

プロジェクトマネジメントとは,それほど昔からあった言葉ではない。私の記憶では,ソフトウェア技術が大きな要素を占め,技術者の大半がソフトウェア技術を駆使しなくてはならなくなってきた頃からではなかったか?ハードウェア中心だった昔は,実験計画法とか,PERTとか,如何にプロジェクトをスムーズに行うかと云う個別的な手法があり,技術者の仕事の基本として学んだものだった。

仕事を如何に合理的且つスムーズに行うかと云う観点から,こうした手法は必要なときに,的確に使用できることが技術者として最低限必要だった。特に,PERTについては,橋を造るなど土木建築業では必須の手法と学び,自分自身の仕事でも,数人規模で行う仕事では,如何に全体を把握しながら進めるやり方には,利用できる優れたものだと認識し,極力使おうと心掛けていた。

したがって,その時代を経験してきた者には,私を含め,プロジェクトマネジメントをしっかり学んでおくべき,と言われても当然のことで,PERTを十分に使いこなすことと大きく変わらず,これまで学んできたことを言葉を換えて言っているだけだと感じていた。当時は私自身がソフトウェアにそれほど精通していた訳ではなかったので,我々ハード技術中心で育ってきた者には,ソフトウェア技術者には,まだまだ不十分な領域なんだなあ,との感覚だった。

どんなものかと,プロジェクトマネジメントに関するセミナーに参加したことがあり,その大半がソフトウェア技術を使った若い技術者だったことに驚いたと同時に,そのときはよく判らなかったのだが,資格をとるためにはこうしたセミナーを受講することが必須となっていることに,何か少し違和感を覚えたと記憶している。その違和感とは,我々は一つの有効な手法として教わったものを,資格を取得するためのものとして扱われていることで,その受講姿勢が我々の時代とは変貌してきているし,且つ,これまで個別で一つの手法として学んできたものを,一つにまとめ大袈裟にしているだけではないかとも感じた次第だった。

プロジェクトマネジメントの初めての接触は,こうした違和感があった記憶が残っている。

  プロジェクトマネジメントの重要性

その後,時代の流れと共に,ハードウェア中心の技術の中に,ソフトウェア技術が組み込まれるようになり,当時,マイコンを使った制御が主流になってくると共に,プロジェクトマネジメントも違和感が薄れ,本来の主旨である意味が,肌身で判るようになって行ったのである。

このホームページでもプロジェクトマネジメントとして,コーナーまで設けているので,詳しく述べるのは重複するので簡潔に述べるが,ソフトウェア技術が中心となり,その規模が数人から数百人と云う規模に増大してくると,全体の進行をコントロールすることが非常に大切な仕事となり,部分最適ではなく,如何に全体最適を図ろうとするには,プロジェクトマネジメントは欠かすことのできない技術となってきたのである。

ハードウェア技術の場合,プロジェクトの進行については,設計段階での試作品など,その出来映えがプロジェクトに携わっているメンバーの誰もが,ある程度実物を見て進行具合が判っていたが,ソフトウェア技術となると,規模が大きくプロジェクトメンバーも多く,自分の関係している部分は判っても,全体像や全体の進捗についてはなかなか把握できていないことが多い。つまり,プロジェクトの見える化で志気を鼓舞するには,プロジェクトマネジメントで示すことが最適なのである。

全体の進捗と自分の受け持つパートとがどのように関連し,どのような重要な仕事を受け持っているか,且つ,日程的,時間的な余裕などもプロジェクトマネジメントから知りうることができる。これは,プロジェクトに関わっているメンバーには非常に大切な情報なのである。プロジェクトマネジメントは,ソフトウェアを組み立てるプロジェクトに於いては,無くてはならぬものであり,ソフトウェア開発の必須要件なのである。

  プロジェクトマネジメントの心得

プロジェクトマネジメントを学ぶに当たって,個々の手法を学び自分のものにすることは大切なことであるが,そもそもこれを学ぶ重要性をきっちり把握しておくことが必要である。即ち,これを学ぶ目的は,如何に上手くプロジェクトを成就させるかであって,個々の手法の知識が豊富になることではない。つまり,幾ら豊富な知識を蓄えたとしても,実践でプロジェクトの運営に活用できなければ,宝の持ち腐れどころか,実用的でない頭でっかちでしかない。

少ない知識でも,プロジェクトを上手く成功させるために,今何を為すべきかを常に考え,行動に移し,その結果を素直に見直すことを繰り返せば,自分の実力が次第に付いてくることが判るはずである。理論をしっかり学ぶことを否定しているのではなく,理論だけでは解決できない実際の課題を如何に解決させようとするのか,そこにプロジェクトマネジメントの本質がある。

プロジェクトマネジメントとは,日本語ではプロジェクトを管理すると云う意味である。確かに,内容的には如何に上手く管理するかであるが,管理と云う言葉,マネジメントであるが,管理することが重きとなり,プロジェクトが雁字搦めの管理状態になってしまうことは,本来の意図するところではない。プロジェクトを実際に進めるリーダが上手く采配することは当然だが,管理者と称して管理を目的にプロジェクトをコントロールすることではない。あくまでも,プレイングマネジャーが行うものである。

  リーダになる前に習得

プロジェクトマネジメントはどのように学べば良いか?もちろん,きっちり基礎から学ぶことは大切なことであるが,必ずしもそうした時間の猶予が持てないのが実態である。忙しいからと云うことを理由に,学ぼうとしないと,いつまでもガムシャラに働くだけの技術者になってしまう。しかし,いつまでも担当者として任された部分の仕事をこなすだけでは寂しい。

ソフトウェアの規模が大きくなるにつれ,それに関わる技術者も増大し,数人の仲間で仕事を分担することが必須となってくる。そうなると,プロジェクトマネジメントを知らないとスムーズに仕事を運ぶことができなくなり,仕事の効率が悪くなる。そうならないためにも,サブリーダの任務を任されるようになる前には,基本的なプロジェクトマネジメントの内容を学んでおくことが大切である。

大上段に構えてプロジェクトマネジメントを学ぶのではなく,必要に応じた部分的なところから入って行けばよい。効率的な日程表を計画し,クリティカルパスが何処にあって,それを如何にすべきか,と云った具体的な内容から入れば十分である。要は,多くのメンバーと共に如何に効率よく,目標に達成するかを試行しながら学ぶことである。

初めは一人で,そうして次第に部下と共に仕事をするようになってくれば,如何に上手く部下に全体像を理解させ,各々が目標に向かって全体最適な形で仕事ができるかを示し,指揮命令できるように努力することである。そのために準備すべき必要事項が次から次へと出てくるが,それらを経験しながら自分のものにしていくことである。そうすれば,自然とプロジェクトマネジメントが何たるかを理解でき,何処でどのようなことをすべきかが判ってくるのである。

  プロジェクトマネジメントができないと・・・

プロジェクトマネジメントについてザッと述べてきたが,それほど難しいことではない。しかし,プロジェクトに関わる以上,プロジェクトマネジメントを理解し,活用できないと,上司から求められるパフォーマンスに応えることができず,取り残されるリスクが大きくなる。つまり,技術者の各々の段階に応じたプロジェクトマネジメントに対する理解が必要不可欠となり,それができないと仕事を任される機会すら少なくなってしまう。

リーダになってから学べば十分だと思わず,担当技術者であっても,リーダの思いがどこにあるかを理解することは必要である。繰り返しになるが,プロジェクトの目的は,目標を達成することはもちろん,予定通りの日程で,予算通りに実施できることであり,そのためにプロジェクトマネジメントができることが必要で,これはあくまでもツールの一つである。プロジェクトマネジメントがきっちりできたからと云って,それは必ずしもプロジェクトの成功ではない。知識が多少欠けていても,マネジメントが十分ではなかったとしても,あくまでも目標に計画通りに必達出来たか否かが,プロジェクトの成否である。

プロジェクトマネジメントができないと,プロジェクトが上手く進まないことは事実だが,ときどき,ツールを完全に使うことが目的となってしまう人が居るから気を付けたい。

プロジェクトマネジメントは技術者の必須のツールである

 

[Reported by H.Nishimura 2016.02.22]


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