■本質を究める 42  (No.442)

オリンピックのエンブレムの盗作問題が話題になっている。最終的には原案者の取り下げもあって,白紙撤回になり,やり直しになってしまった。

  エンブレム問題

オリンピックのエンブレムが白紙撤回になってしまった。当初,ベルギーの劇場のロゴに酷似していると訴えられたときは,似ていると云えばそうも取れるが,商標権登録など調査済みであり,穏便に納まるものと確信していた。しかし,その後次から次へと出てくる盗作疑惑,一部は盗作を認めているものもあるが,ここまでいろいろな問題が噴出すると,原案者のモラルを疑いたくなるようになったのは,私一人ではあるまい。

原案からの変更など,オリンピック委員会から説明がなされたが,反って疑惑を上塗りしたような事実が幾つも出てきて,最早猶予もできない状況に陥ってしまった経緯は,改めて説明するまでもない。創作者の本心はどうなのか?これまで自分自身は模倣をするようなことは無いと言いながら,スタッフなど含めた会社としては,模倣していたことは紛れもない事実であり,管理不行き届きで済まされる問題では無く,本人の資質が問われる大きな問題である。

奢りがあったのかそれとも多少の模倣は見逃していたのか,真偽は判らないが,オリンピックのオリンピックのエンブレムに当選したからこそ,噴出してきたものであって,そうでなければ闇に葬られていたのであろう。商標登録や著作権など,デザイナーにとっては作品を保護される重要な権限であり,生命線でもあり得るものを,軽んじたがための失態と云えるだろう。

しかし,今回の疑惑の発端は,インターネットで調べたようで,いとも簡単に似た画像が検索できるようになっていたことを初めて知らされた次第である。画像検索など,最近どんどん進化しているので,利用する機会が増えてきているが,画像を検索サイトでドロップするだけで,似た画像が出てくるまで進化していたとは驚いた。その一方で,素人がいとも簡単に見つけ出せるものを,見過ごされる業界の仕組みはどうなっているのか,疑いたくなる。

  技術者と盗作

創作については技術者もデザイナーと同じような環境下にあり,他人のものを黙って使用するようなことはあってはならない。創作するとはいえ,何らかの知見を下に生み出すので,他人の影響を受けることは起こり得る。技術者も創作物に対して,特許・実用新案と意匠を登録する制度があり,創作物が他人の著作権(知財権,意匠権)を侵していないかどうかは,予め調査し,侵していないことを確認の上,上市することになっている。

もちろん,調査が不十分で,上市した後でも,特許侵害で訴えられることはしばしば起こっている。特に,競合関係があると,製品の出荷差し止めと云う事態も起こり,通常はしかるべき特許料を払うことで折り合いが付くケースが多い。ただ,侵害かどうかは,デザインのように見た目で素人でもすぐ見つけられると云ったものではなく,専門的な見地からの判断が必要で,デザインのようには行かない。

また,デザインのように盗作するケースは極めて希である。なぜならば,盗作しようとすれば,非常に狭い範囲の中に限られ,すぐにバレてしまうことは間違いない。また,盗作するリスクが高く,メリットよりデメリットの方が大きいことは言うまでもない。デザイナーでも同じだと思うが,技術者にとっては新たな創造をして世の中に貢献することが使命であり,最高の幸せを感じることができるのであり,それを曲げて盗作しようとする人は希有であろう。或いは切羽詰まった状況に追い込まれたケースであろう。

市場の流行に沿った開発では,競合他社と同じようなことを創作することがしばしばあり,盗作するつもりは無くとも,競合相手が先に出願していることもあり得る。つまり,開発者にとって,いち早く特許を出願することは必須要件であり,特許で抑え込むことを戦略的に行う企業もあるくらいである。

  知財権

新しく考案したものに対する特許は通常は日本特許の申請であるが,昨今のようにグローバルに展開している製品では,US Patentなどアメリカへも特許出願する必要がある。先願権があるので,グローバル展開するようであれば速やかに(1年以内に),US出願するかどうかを判断しなければならない。特許法も随時変化しているので,その詳細を述べることが本来の主旨ではないので,詳細については別途確認を頂きたい。ここでは,技術者としては,特許・実用新案など新たな考案したものは速やかに出願することに止めておく。

デザインと違い,技術者の創作する特許・実用新案は見た目ではなく,申請通りに実施すれば確実に再現されるものであり,基本的な,或いはシンプルな考案ほど,特許の範囲が広く効果が大きいのは当然である。また,関連特許として,周辺を含めた広範囲に及ぶ特許を取得して,他を寄せ付けないようにするケースもある。

いずれにせよ,技術者にとっては特許を取得することは自分の仕事が認められることでもあり,且つ企業に大きな収益をもたらすよう貢献できることでもあり,有効な特許を取得することは栄誉あることでもある。日頃の努力を上手く特許に結びつけたいものである。

 

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[Reported by H.Nishimura 2015.09.14]


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