■新製品開発 10 (No.416)
これまで9回に亘って,新製品開発について述べてきた。市場のニーズと技術シーズが上手くマッチング,又は融合したとき,新製品が生み出されることを感じ取って貰えたのではないかと思う。しかし,現実は言葉で表現するほど容易いことではなく,ドロドロとした生々しいものである。現に,新製品開発で悩んでおられる技術者も多いことだろう。以前とは比較にならないほど,変化が激しく,開発規模も大きく,それでいて開発スピードも要求される過酷な競争下に曝されている。
成功事例から学ぶこと
以前との環境変化はあっても,新製品開発の王道は変わりない。スポーツでは「勝ちに不思議の勝ちあり,負けに不思議の負けなし」と云われるように,負けにはそれなりの理由があるので,それを改めないといけないと云う教えがある。しかし,逆に,新製品開発には,成功した製品(勝ち)には,それなりの理由がある。もちろん,上手く製品化できなかった製品(負け)にも,それなりの理由がある。
それでは,上手く製品化できなかった製品の理由を突き止めて,改めれば新製品開発に成功するかと云えば,なかなかそうは行かないものである。失敗した事例を深く突き止めて改善に努めることは,同じ失敗を繰り返さないようにはなるが,成功に結びつくには及ばない。確かに,失敗を改めることは品質改善などの目的には大いに役立つことが多い。しかし,新製品開発では役立たないことの方が多いと云えよう。それよりも,成功した事例から,その理由なり,要因を分析して,それと同じ方法,もしくは共通したやり方で新製品開発をした方が上手く行くことが多い。なぜなら,成功した要因には,成功する秘訣のようなものが必ずあり,そのやり方を上手く採り入れることができれば,成功に繋がるからである。
成功要因は,時代が変わっても不変なものが多い。もちろん,業界によってその成功要因は様々で,自分たちが置かれた業界で通用するやり方かどうかの見極めは必要である。だが,成功要因をきっちり分析してそのポイントを把握し,それを新製品開発で実行してみる価値は大いにあると云える。何度も述べてきたが,製品化の成功は,市場ニーズと技術シーズのマッチングであり,それを実現できる手法は成功要因の中に存在するからである。
(成功から学ぶについては,本質を究める 8 を参照)
相手方をよく知り,信じること
新製品開発は必ず相手方が居る。通常技術者は,売り手側で,買い手側(顧客・消費者など)の動向を良く把握しておくことは不可欠な要素である。つまり,よく言われることだが,顧客重視,顧客本位など,顧客側に立った見方をしなければ,製品化が成功しないことが多い。これは,単に顧客の言いなりになることではなく,顧客が感動し,喜んで製品を買おうとするような新製品を創出することであり,市場(顧客)ニーズを先取りすることである。
そのためには,市場分析,顧客分析など,顧客の思いを十分把握することから始まる。技術者は新しい技術など技術シーズには長けており,それがあれば必ず顧客を喜ばせることができるような錯覚に陥りやすい。ところが,顧客は技術の素晴らしさには興味が無く(よく判らない),使いやすさや性能の良さなど使う側の利点に関心が深い。顧客の立場に立って開発に当たれ,と言われる所以はここにある。頭では容易に理解できることだが,実行することは容易ではない。
また,技術者の多くは,売り手側に立つだけでなく,買い手側に立つ場合もある。具体的に云えば,セット製品開発や自動車などの開発に従事する技術者は,部品屋に優れた新部品を開発させる側(買い手)になるケースと消費者にとっては売り手側になり,或いは,部品屋の技術者でも納入する製品側に対しては売り手側だが,部品の基となる材料などは材料メーカに依存し,これは買い手側の立場になる。つまり,技術者は一方的に売り手側と思われがちだが,そうではなく,売り手側と買い手側との二つの面を持つことが多い。
ここで重要なことは,相手側を信じることができるか,である。つまり,買い手の立場では,開発を委ねる材料メーカ,或いは部品屋の技術,及び技術者を信じて任せることができるかどうか。良い材料,良い部品が使えれば,製品化に優位に働く。自分たちの技術だけでなく,共同する技術者たちの技術を取り込んで,総合的に優位な製品化が実現できる訳である。日本の製品が優秀なのは,こうした材料・部品メーカなどの技術力があり,それらの礎に立って製品が出来上がっているからである。
新製品開発では技術者が主役であり,売り手側も買い手側も共に技術者である場合も多い。お互いの技術者が,お互いの技術を讃え,技術者同士が信じ合える環境下で開発が行われれば,必ずそれは素晴らしい製品に仕上がる。それが実現できることが理想である。
時間・場所・機会(TPO)に注目
新製品開発の成功,不成功には運も伴う。どれだけ素晴らしい製品を開発したとしても,市場・顧客が喜んで買ってくれないと商品化に成功したと云えない。したがって,これらを運・不運で片付けてしまいがちだが決して運だけではない。
商品化に成功した多くの製品は,市場ニーズに上手くマッチングさせている場合が多い。つまり,いつ製品化するのが一番良いか,絶妙のタイミングがある。早すぎても,遅すぎてもダメである。だから,技術シーズがあるからと云って製品化を試みるのではなく,技術シーズを幾らか貯め込んでおいて,戦略を練って,これはと云うチャンスをみて,一気呵成に開発して,競合他社の一歩先を行くなどの戦術が必要となってくる。
市場ニーズと技術シーズのマッチングについて何度も述べたが,それが実現する絶好のTPO(時間・場所・機会)が必ず存在する。もちろん,自らの努力で創出させることだってあり得る。それを見極め,すべての力を注ぐことができた技術者達が勝利の美酒を味わうことができる。
最後は,技術者としての執念の強さ
何度も繰り返すが,製品化に到るまではいろいろな苦労が伴う。まして,ヒット商品になるには,その数倍の困難なことが待ち受けている。そうした困難を乗り越えるには,たゆまぬ努力の積み重ねが必要である。何としても製品化してみせると云った思いや執念が,待ち受ける困難を打ち破ってくれる。簡単に諦めてしまうようでは,物事は成就しない。
これまでの開発経験から,大きな壁にぶち当たってどうしようもない状態に陥ったことは何度かある。しかし,そうした状態がある程度は続いても,必ずと云って良いほど,どこからか助け船がやってくる。それは,開発の仲間だったり,ベテランからのアドバイスだったり,上司の助言だったり,と必ずしも同じではないが,解決の糸口が見つかり,大きな壁を乗り越えられてきた。それは,技術者として真摯に取り組む姿勢なり,日頃の努力の姿,何事にも諦めない姿に手を差し延べてくれたのだろうと感謝している。
或いは,いろいろな助けもままならない状態に陥ったとき,製品とじっくり向き合うことだった。これまでのデータを整理して,何かヒントになる手掛かりは無いかと無我夢中だった。容易に解決策が見つかれば,これほど苦労はしなかっただろうが,真剣に製品と向き合い,何とかものにしたい一心で製品を眺めていると,不思議なことに「製品が応えを教えてくれる」ことに出会った経験がある。まさしく,技術者の執念が為し得た瞬間である。新製品はこのようにして生まれることもある。
新製品開発は技術者の努力の賜物である
[Reported by H.Nishimura 2015.03.16]
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