■マニュアルの重要性  (No.396)

マニュアルの重要性を説く実話があるので紹介しよう。

優れた技術にはそれなりの価値がある。10年以上前の話になるが,技術供与する話が持ち上がり,相手先の企業に技術供与代として○○億円で売却することになった。それではと,技術供与の内容を確認してみると,何とキングファイル3冊分のドキュメントが用意されただけだった。供与する責任者及び担当者は,技術の実施指導料も含んでいるので,3冊のドキュメントだけでも,○○億円が決して高いとは少しも思っていなかった。過去に海外から技術供与を受けた経験がある社長は,あきれかえってものが言えなかった。実際にこの顛末は,これら僅かなドキュメントだけでは仕事が十分引き継ぐことができず,技術引継としてこちらから担当者が出かけて,一定期間,相手側の工場の現場で技術指導をすることになった。

一方,過去にアメリカから技術供与を受けたときの社長の話である。このときは相手側が持っている技術を○○億円で購入した。そのとき,アメリカの会社から送られてきたドキュメントはトラック一杯分程度もあった。とにかく,日本人の感覚では計り知れないほど,隅から隅までにわたった懇切丁寧なマニュアルなど,製造するに必要且つ十分なものであった。その結果,このマニュアルだけで,先方技術者の指導を殆ど受けないでも,確実に技術移転ができた。また,何か問題が発生しても,このマニュアルを拠り所に解決が図れたと云う。社長の感覚では,これがグローバルな技術供与のあり方だと。

この話は,欧米社会の契約社会での仕事の進め方と,いわゆる終身雇用型の日本社会での仕事の進め方の違いを端的に表している。日本では,以心伝心,見よう見まねと人から人へと伝承されるものを重要視して仕事をしてきている。これまでは,少なくとも日本のみで仕事をしている間は,そのようなやり方でもよかった。しかし,現在は違う。かなりの仕事がグローバルに通じるやり方,展開をしなければならなくなってきている。それでも,なかなか日本式のやり方から抜けきらない現状が残っている。技術のマニュアルを作ること自体が軽んじられ,技術の本来の仕事とは思っていない人が多い。どうしたものだろう。

だから,実際に海外工場の展開についても,殆どマニュアルといったものが無いのが実情である。したがって,日本から海外工場へ製品を展開するとなると,多くの日本人が現地へ行って直接指導に当たらなければならない。一旦指導が終わり現地人ができるようになっても,現地人が変わったりすると(人が変わることは当たり前の世界では),途端にまた一から指導し直さなければならない。また,日本人の応援者がいる間は巧く進むが,日本人が帰ってきた途端にレベルが下がってしまうといった事態がよく起こっている。欧米は云うに及ばず,アジアでもマニュアルの無い仕事のやり方は,現地人にも嫌われる。日本の仕事の進め方は,基本となるもの(ドキュメント)がなく,人(出向者)によって異なる指導をされることが多いからである。しかし,日本で仕事をし続けている人はそれに気がつかず,まだまだ日本流のやり方を押しつけようとしてきている。

世界の常識は,仕事の基本はマニュアルにあり,すべてドキュメントである。世界ではビジネスで日本人の”阿吽の呼吸”は通じない。日本人の常識である人から人へ以心伝心で伝えることは通じない世界がある。日本の常識が世界には通用しない。このことを冷静に判断すると,現在のグローバル対応が当たり前の世の中では,世界の常識である”マニュアルありき”の仕事のやり方を自分たちのものにすべきである。”わざわざマニュアルを作る無駄なことをして・・”と,苦言を呈する人もいる。しかし,真に世界を相手に仕事をしようとしたとき,胸を張ってそう云えるだろうか?日本の中,井の中の蛙と映らないだろうか?

日本でもマニュアルが全く無いわけではない。マニュアル(要領)といって,それを用いて進めると,スムーズに行くという推奨方法などが書かれているものがある。このマニュアルをきっちり整理,管理しておくことで,適宜巧く活用することによって,仕事の効率が上がることがある。特にサービス業などで,多くの人を均一的に仕事をやってもらうには欠かせないものである。また,仕事を引継ぐ場合など,マニュアルやドキュメントがきっちりしていることが,誤解もなく,マニュアルに従って進めることによって前任者がやっていたことが再現できる。長いスパンで考えたとき,仕事のマニュアルがあることが効率的であると云えないか?特に,ルーティン的な仕事にマニュアルは必須要件である。

創造的仕事がメインである技術活動には,マニュアルなんて無用の長物,常に新しいこと,以前と違ったことをやっている,との反論もある。確かに,創造的活動が中心の技術活動は,マニュアルに従って仕事をしているだけでは,決して大きな成果は生まれない。だが,果たして,どれ程の割合でいわゆる創造的仕事をしているだろうか?多分,その比率は極めて低いであろう。創造的仕事だと強調する人に限って,活動の多くが,マニュアルは無いが,過去の経験や先輩に教わったことなどマニュアル通りに行い,且つ,マニュアルに表現できる仕事をしているのではないだろうか?

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基本となるマニュアルを作って,仕事の効率を見直そう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2014.10.27]


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