■技術部門の役割と課題 1 (No.343)
技術に関するいろいろなことを述べてきたが,昨今の情勢ではなかなかヒットする新製品がなく,技術者が苦しんでいる状況が窺える。そこで,改めて技術部門の役割と課題を整理しながら,どこに課題があって何を為すべきかをじっくり考えてみることにしたい。もちろん,各自が実際に置かれた状況は様々で,ピッタリ当てはまることでは無いかも知れないが,何らかのヒントになればと思って述べてみる。
技術部門の役割
技術部門は新製品を創出し販売に貢献する役割を担っている。しかし,昨今の情勢は厳しく,新製品で販売に貢献するものがなかなか出てこない。もちろん,ipod,iPhone,iPadなどと云ったビッグなヒット商品もあるが,そうしたビッグなものでなくとも,少なくとも会社の利益に貢献する新製品が確実に創出されて欲しいのである。技術部門はその要である。
確かに,販売が低迷して会社全体に元気がないと云うところが多い。製品がコモディティ化してしまって,どこでも簡単に作れるようになってきているので,低価格商品が売りで,なかなか利益が上がらない,もしくは,その商品からの撤退を余儀なくされると云った事態がよく聞かれるようになってきている。なぜ,このような事態が起こるのか?それは,本来技術部門の大きな役割の一つである先読みが十分で,時代の流れに取り残されてしまっているからである。過去の栄光にしがみついて,負の遺産を背負ってしまっているのである。
古い考えかも知れないが,技術部門はやはり常々先を読み,顧客の要求に応じた商品を次々生み出していくことが最大の役割であり,基本中の基本である。そのために,次のことが大切である
「商品(技術)のロードマップが作成されていること(市場・顧客要求を先読みした,或いは,要求に合致した)」
「このロードマップの実現が確実に行われること(日程,性能,予算などが守られること)」
ところが,この基本的なことがなかなかできていない。変化の激しい時代には,ロードマップなど役に立たない,或いはそんな悠長なことを考えているようでは取り残されてしまう,と云った意見もあるだろう。だが,この単純なことすらできていないので,益々不利な状態に陥ってしまってはいないだろうか?今一度,よく考えてみていただきたい。
@狙いが定まらない(戦略,戦術が弱い) 〜全体スキーム,方向付け〜
上述した,技術ロードマップ通りの製品実現が狙い通りにできておれば問題はないのだが,なかなかそうならないところに問題がある。そもそも,技術部門の役割は,事業成長のエンジンであり,外部環境の変化,技術動向を先読みして,進むべき方向性を示し,新製品開発を中心に事業を引っ張っていくことである。
ところが,実際には日常発生している諸問題の対応に追われる日々であり,その結果として,じっくり考えない,考えても思考が浅いために,戦略らしきものになっていない。自称戦略と称しているのは,市場動向や技術動向を分析して,それを追認しているだけのケースが多い。動向を察知するのなら未だしも,業界全体がある程度動き出してから,あわててその方向に合わせるような舵取りでは,戦略とは云えないのである。このような状況では,企業の将来性は乏しいのである。
戦略を決めるのは,非常に決断を要する場合があり,技術マネジメント自体になかなか自信がないと云ったことも想定される。しかし,昨今の変化の激しさでは,方向付けそのものが,全体の効果,効率に最も影響することが多い。トップ(人)の重要な役割ではあるが,トップ一人では限界もある。そうした意味では,技術戦略を専門とする精鋭が必要不可欠なのかもしれない。単なる,そうした部門を創るのではなく,戦略を専門とする精鋭(人)である。その少数の精鋭が技術マネジメントをサポートするような仕組みである。大企業と雖も,本当に優秀な人材は限られているので,形だけの戦略室になっているところが多い。
誰が見てもその方向になる,と云ったものには,戦略よりも戦術が重要視される。如何に,戦略を実現する具体施策があり,それを実行する能力があるか否かである。戦術は,如何に効率よくできるか,オペレーションのすばらしさが問われる。設計開発のスピードであり,設計完成度の高さ,さらには差別化できるものに仕上げる能力である。この戦術の善し悪しが高度成長時代の差別化要素であった。低成長時代では,戦術よりも先ずは戦略である。ただ,良い戦略が出来上がっても,これらの戦術が伴わない限り,戦略が絵に描い餅になってしまう。昨今は,この戦術面の弱さも露呈してきている。
これら戦略はトップマネジメントの役割であり,技術のみに止まらず,事業全体を大きく左右する要となることを十分認識した行動が求められている。この最重要な役割を果たしていないトップマネジメントがいかに多いことか。技術も戦略があってこそ活かされるのであって,トップマネジメントの力不足が優秀な技術力が眠っているのではないか。
(続く)
戦略が無い技術部門は,いつまで経っても改善が見込めない
技術部門にとって戦略的な動きが必要不可欠
[Reported by H.Nishimura 2013.10.21]
Copyright (C)2013 Hitoshi Nishimura