■開発現場の悩み・問題点を解く 20 (No.339)
新製品のスタートが曖昧なままプロジェクトが進んでいる。
開発現場の実情
新製品開発が途中まで進んだ段階で,採算が合わない,当初の狙いから外れている,など新製品の初期段階での吟味が不十分なケースがときどき現れる。要は決められた手順を踏まず,開発プロジェクトが進められているからである。中には上手く進んだプロジェクトもあり,これはたまたま上手く進んだのであって,結果オーライになっているだけである。
企画のタイミングの難しさ
新製品は先ず最初に新製品企画があって,それに基づいて開発プロジェクトがスタートすると云うのが,一般的なルールである。企業の扱っている製品の性質にも依るが,実際の運用面では,新製品企画よりも開発がアンダーグラウンドで進められていることが多い。これは,開発の責任者自身が,企画段階に上がる前から,これはモノになりそうだと開発者の勘で判断して,部下に検討させることがあるからである。その上の上司が知らないこともあるし,知っていても黙認していることもある。
そもそも新製品開発をやっている責任者ならば,市場で求められているものは何かと云うことを常々考えており,自分なりのアンテナを張り巡らしている。したがって,そのアンテナに引っ掛かってくる情報を基に,これはと感じたモノや,或いは,顧客から強く要望され将来的に有望と判断すれば(もちろんきっちりとしたデータなどなく,技術者としての勘で),アンダーグラウンドで検討できる程度の権限は持っている。もちろん,開発プロジェクト前の,企画検討と云ったものである。
もちろん,企画検討として期限を限ってやることも多いが,将来性ある未知のものは,なかなか企画として申請するには根拠となるデータが集まらないことが多い。特に,部品のように顧客が消費者でなく製品開発している企業であると,付き合っている顧客(企業)から正式なものでなくとも要請(要望)が情報として入ってくる。当然,競合他社があるので,いち早くプロトタイプなどを見せることで,開発を正式にスタートさせたいと思うのは当然である。その結果として,自社の開発ルールに則ったものより,顧客(企業)の判断で開発プロジェクトとなるかどうかが決まる。つまり,自社の新製品企画が正式に成り立つ前に,初期段階の開発がスタートしているのである。
また,新しい要素技術を採り入れたものなどシーズ型の開発(新技術から製品化を目指すもの)では,ある程度企画段階で製品化の実現が可能か否かの検討をしなければならない。もちろん,企画段階の開発プロジェクトも正式登録して開発するものも多いが,曖昧な状態で,開発責任者の思いで企画検討されるものもある。
こうした企業に依っていろいろな条件はあるものの,企画段階のアンダーグラウンドでの検討がズルズル延びて,新製品企画を正式にやらないまま,実質上の開発プロジェクトがスタートしていることはよく見掛けられる。つまり,企画するタイミングを逸してしまっているのである。
新製品企画会議の条件
新製品企画を立てるには,次のような情報・検討内容が必要とされる。その一例を示す。
必ずしも,企画時点ですべてが明確になってなければならないことではないが,量産化を目指す前提として,上記のようなことを概算検討しておくことが必要である。
新製品企画会議として求められるのは,こうした製品化としての大まかな事業計画が描かれているか否かである。もちろん,項目内容によっては,いつまでの時点に明確にさせるなど予定が入るものもある。原価にしても,企画時点で明確にできることは困難で,開発目標としての原価構成である。しかし,こうした開発目標が定まっていないと新製品企画にはならない。
このような条件を求められるため,開発を始めていても項目によっては決めることが難しく,正式な企画がつい先送りされるのである。開発を止めろと言われない限りにおいて。
新製品のスタートが曖昧なままプロジェクトの問題点
それでは,なぜスタートが曖昧なプロジェクトが問題視されるのか?もちろん,開発管理上,規定や基準に反した状態のプロジェクトが進められていること自体,プロジェクト管理上問題であると云わざるを得ない。ISO9000などの定期検査では,当然,改善要求が出され,是正処置を求められる。それだけでなく,開発ルールの無視が黙認された状態は,他の管理上の問題も引き起こすリスクを持つことになる。
開発効率の指標(新製品化率,技術者一人当たりの販売高など)を検討しているならば,必ずと云ってよいほど,新製品開発の問題点として,新製品開発ロスの中で開発が途中で中断,或いは製品化が赤字で断念などの項目が挙がり,そこでの問題点として,開発スタート時点の問題点,即ち,新製品企画時点の検討不足が浮き彫りになることが多い。
100%では無いが,新製品企画が十分検討された開発プロジェクトは製品化される率が高い。また,製品化ができなくても,企画時点の検討不十分な点が見直され,次の製品企画に反映される。こうしたサイクルで,新製品化率が上がって行く。もちろん,ルールやデータよりも開発責任者の勘での判断が有効な場合もある。しかし,それは個人の能力に委ねられたもので組織として強化されたものではない。また,上手く行かなかった場合も,正式な開発プロジェクトでないと,曖昧に処理されてしまい,責任の所在が明確にならず,開発ロスが見過ごされた状態になってしまい,組織として改善がなされないことになってしまう。
実際の経験だが,開発スタートの曖昧さが新製品開発上での大きな問題点として検討したことがある。部品メーカだったので,多品種少量生産のものが多く,開発のサイクルも短く,十分な企画検討がされないまま(開発ルールはあったが)運営されており,結果的に経営収支を圧迫(一次利益限界率が低いものが多く)していた。新製品企画段階の開発初期に,市場性,価格,顧客(製品化の可能性),内部技術力など,簡単なチェックリストを作成し,技術責任者の勘を補うものとして導入(もちろん,開発ルール化)して改善ができたことがある。
新製品開発状況の定期的な見直し
新製品の開発状況は,アンダーグラウンドでの企画検討も含めて,技術者のリソースをある程度以上割いているものは,定期的に検討することが必要である。やはり,開発技術責任者独自の判断だけでは不十分なことがあり,第三者の眼でチェックすることによって,暴走は回避できるし,限られたリソースを有効に活用できているかを上司が高い見地から判断することができる。
もちろん,的確な判断がなされないような会議を設定する必要はなく,また毎月でなく,3カ月程度の間隔でチェックされれば十分である。そうすれば,新製品企画会議ができずにズルズル進んでいる開発プロジェクトは,この時点でチェックが入り,見直しされる機会を得ることになる。簡単なチェックリスト(開発責任者の負担が大きくないもの)などを有効活用することでもよい。
未知なモノへの挑戦を的確に判断することは,第三者には難しい。だからといって,開発責任者の一存ですべてが決まるような仕組みでは,どこかに大きなロスが出るリスクを孕むことになる。衆知の目が光るところで,開発が堂々と進めば,誤りは誰かが気づくものである。優秀な一人よりも,衆知の知恵が優ることは大いにある。
開発プロジェクトが企画無しにズルズル進んでいませんか?
開発効率は上がっていますか?
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[Reported by H.Nishimura 2013.09.23]
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