■ムダをなくす 3  (No.280)

技術者の時間管理について述べてみる。

  今週一週間の計画が立っていますか?

ムダを無くすことを言う前に,先ず貴方の今週一週間でやるべきことが決まっていますか?それに要する時間はどれほどですか?このように技術者に尋ねると,大半の人はある程度やるべきことの回答を持っている。今週何をやってよいのか判らない,と云う人が居れば,その人はムダを考える前に,毎週やるべきことの計画をきっちり立てることである。それが先ず,仕事の基本中の基本である。

やるべきことがあると答えた人でも,それでは実際にどのような時間配分になっているか,と尋ねるとなかなか正確なところまでの計画が立っていない,或いはやるべきことは決まって到達目標はあるが,時間配分など詳細には決めていないことがある。要は出たとこ勝負で結果オーライか,ダメだったで終わってしまってその繰り返しをしているだけである。

ソフトウェアなどの仕事をしている人はWBS(Work Breakdown Structure)などと云った,やるべき仕事が細分化された計画が既にあってその工程に則って仕事を進めている人も多い。但し,実際には当初のWBS通りに上手く進むケースは少なく,問題が発生してその挽回で計画より遅れていることが多い。こうなると計画が目標のようになってしまって本来の計画としての役割でなくなってしまうことが多い。ただ,作業を計画も不十分なまま進めている人よりは,時間管理はできていると思われる。

私の経験から云うと,研究や開発を担当している人は,大略の計画はあるが,一週間単位できっちりとして計画を立てながら進めている人は少ないのではないかと思う。つまり,ソフトウェアや設計に従事している人と違って,不確定要素が大きいので,計画がなかなか立てづらく,また計画を立てても狂ってしまって計画の意味が無いことがしばしばあるからである。だからと云っていい加減な計画で良いということではない。うまく研究開発ができる人は,一週間ずつとは云わないまでも,全体に対するマイルストーン(中間目標)を定め,それに向かって進捗を管理している。

  開発・設計など技術者として付加価値ある作業をどのくらいできていますか?

技術者の役割は,付加価値をつける作業にある。材料を組み合わせることで新たな機能を発揮させ有効なものに変換したり,部品を組み合わせて新たな機能の商品を開発したり,即ち,顧客が価値を認める商品を創造することで付加価値を付けている。もちろん,直接担当している場合もあれば,その補助的な立場でバックアップしている場合もある。付加価値を付ける作業に貢献していることが,大きく云えば国民総生産の下支えとなっているのである。

しかし技術者として商品開発している人ばかりではなく,工程のトラブルシュートに明け暮れている人,品質問題の対応に当たっている人など様々な作業があり,自分の仕事がどれだけ付加価値を生んでいるかよく判らない人も多い。だが,少なくとも後工程にいる人,それは必ずしも顧客に直接繋がっていないかもしれないが,後工程の人に喜んで貰える仕事ができておれば,何らかの付加価値を生んでいると云えよう。どんな素晴らしい発明をしても,それが後工程にいる人が喜ばないこと,或いは役に立たないことであれば,付加価値は無いものと思った方が良い。ただ,その一瞬だけではなく,長い目で見て後工程に貢献できていれば,それは付加価値があることだと云えよう。

これも私の経験だが,技術者は結構一生懸命仕事をしているようでも,一日中,付加価値を付けている作業をしているわけではない。メールのやりとり,会議,打合せ,事務資料作成など会社生活では必要不可欠な作業ではあるが,技術者としての役割からは外れる仕事をしている時間が必ずある。大凡,一般作業者で80%以上,付加価値のある仕事に従事できていれば,十分できていると云える。もちろん,仕事内容によるので,一律に比較はできないが,一日8時間労働として,作業者で80%,管理者(プレーイングマネジャー)であれば50%程度であろう。

こうした実情を十分把握せず,例えば計画立案時,一日の仕事量を8H/人として計画すると,たちまち計画との乖離が出てくる。これは当然の結果で,のんびり仕事をすることを奨励することではないが,計画時点での作業量の配分をする際には,設計実質労働時間(8H*80%など)を考慮しておくのが,リーダの上手なプロジェクトマネジメントになる。

この付加価値を生まない時間をムダと云うべきか? それは実際仕事をすれば判ることであるが,一見ムダな時間のように見えるが,必要不可欠な時間で,ムダと云うのは言い過ぎであろう。もちろん,メリハリを付けて,時間管理をしながら,作業の進展を上手くさせるのがリーダの手腕でもある。

  情報が多すぎないか?

ムダで気になるのが,情報量の多さである。メールが普及したこともあって,メールを見たり,書いたりすることが一つの仕事になっている。これも経験上だが,技術者の利用するメールで付加価値のある部分は,時間にして10%もあるかないかでは,と感じている。メールは非常に便利で,一気に何人かの人に伝達でき,非常に優れた伝達手段であることは間違いない。ただ,便利なだけについつい余分な人にまで情報が伝達されたり,何でもすべて上司にはCCで報告しろ,と云う人もいる。

確かに上司は部下の監督管理が必要なので,行動を監視,理解する上でメールの情報は必要なことがある。しかし,それも度を超してしまうと,CCでメールしたつもりでも,上司が見逃していたり,或いは多い部下を持った上司は,部下のCCメールだけで,一日の処理メールが100件を超える人も多くいる。こうした場合,メールをチェックすることが作業で,肝心な上司の役割の時間を割いてしまっていることになる。情報の氾濫の弊害と云えよう。

メールを制限している,或いは時間制限をしている企業もあるやに聞くが上述した実情からすれば当然である。パソコンに向かっていることが仕事をしていることになるケースも多いように見える。実際,有効なパソコン利用はどれほどか? 少なくとも技術者であれば,設計したり,検討したり,実験したりとパソコン以外での仕事が大半であって良いはずである。もちろん,CADで設計している人などは除外してである。昔は,と云うと笑われるが,技術部で机に向かっている人は殆ど居なく,全員が実験室や研究室で大半を過ごしていた。効率的には今と比べてどうかと明確な応えは持ち合わさないが,少なくとも,パソコンに向かってメールなど,設計以外の仕事をしてはいなかった。

メールなどの情報の大切さは否定しないが,情報をもっと精鋭化して少ない情報で判断する訓練ができていないように感じている。私の場合,メールは極力少なくしていた。CCなども殆どの場合不要としていた。必要と感じたら,自らで情報を採りに行っていた。要は,少ない情報で不安がらないことである。重要な情報は,アンテナをしっかり立てておれば十分察知可能で,むしろその方が情報の精度が上がり,判断に困ることは少ない。情報の氾濫で溺れているようなことよりも余程ムダが少ない。

(続く)

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計画的な仕事の進め方を!

情報は少なく精度を上げては!!

 

[Reported by H.Nishimura 2012.07.23]


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