■もしドラ 開発リーダ編 １１ 〜 おまけ３ ： 社員稼業 〜 （No.232）
もしドラに関してドラッカーの考えについてこれまで述べ，途中，なでしこジャパンの快挙があって，一部そのことに関して挿入した。その前からドラッカーの考えと非常に共通する考え方があることが気になっていたので，記述していたことを最後に書くことにする。それは，松下幸之助が社員に対して繰り返していた「社員稼業」と云う独自の考え方で，これについて紹介しておこう。一般的には，聞き慣れない言葉であるが，パナソニック（旧松下電器(株)）には，ずっと伝え続けられている言葉である。
社員稼業とは
パナソニック（旧松下電器(株)）は早くから事業部制を執っているが，それは大会社になると優秀な方であっても，経営者としての立場に立つ人はごく限られ，大部分の人が一社員として，ある部分の仕事の担当になり，そこで生き甲斐を見出して行くが，その域を出ないところに問題があると，幸之助自身が悟ったところにある。それを事業部制にすることで，できる限り多くの優秀な人が，経営者としてのものの考え方ができ，そこで生き甲斐，或いは味わうべきものがたくさんあるのではないかと考えたとされている。
さらにそれをもう一段進めたのが「社員稼業」で，社員はすべて一つの独立経営体の主人公であり，経営者である，と云う考え方である。社会から見れば，自分の仕事は一つの会社の社員と云う職業であるが，その実態は，自分は社員という稼業の経営者であると考えること，こうした考え方に徹しきれないか，との問いかけである。普通一般的には，直ぐに理解できるものではないが，パナソニック（旧松下電器(株)）には，過去からそうした考え方が徹底しており，仕事を通じていつの間にか体得し，なるほどそう考えると良い仕事ができそうな気がしてくるものである。
その具体的な例として，経営方針発表会（毎年1月10日に実施されていた）でも紹介されたことがあるが，自分の稼業が夜なきうどん屋の主人になったと考えてみて欲しい。そうすれば，単に命じられただけの範囲で仕事を済ませることはできないのではないか。自ら進んでうどんを売るというような心掛けで仕事をしなければならないし，川縁に屋台を出して，お客さんに呼びかける必要があるだろう。また，今日のおつゆの味わいはどうであるかと，自ら食べてみて，自分で味わい，考えることもするようになるのではないか。
幸いに最初のお客さんが来たときに，うどんを差し出し，まず第一に，「今日の味は如何でしょうか」と問いかけるのではないか。自分は味はこれで良いと感じていても，お客さんがどう感じているか，これは当然聞くべき事と感じるはずである。それを聞かない夜なきうどん屋の主人であれば，それは自分の商売を軽視しているとしか思えない。ところが，自分の商売に非常に熱心であれば，炊きたての汁の味，うどんのぬくみと云うものが，どういうふうにできているか，お客さんはどうこれを判定してくれるか聞きたくなるものである。そしてお客さんから，「今日の味は美味いよ」と言って貰えることによって，非常に安心だ，それではこの通りやったらよい，と云うことになるのではないか。
そういうような努力の姿に，独立自営の花が咲く。すべての独立経営というものは，そんなものだろう。そしてこれは，社員稼業の主人公である皆さんとしても同じ事が云えるのではないか。みなさんが，みなさんの勤める会社の社員と云うことについて，「これは自分の稼業なのだ。私はこの会社の社員稼業の主人公なのだ。これは私の家の事業でもあり，またこれは謂わば自分個人の事業なのだ。そういう意味でのこの会社の社員だ」こういうふうな考えに徹したならば，皆さんの頭から何が生まれるかと云うと，想像もできない，偉大な力が生まれてくると思うのです，と松下幸之助は言っている。
如何ですか？ ドラッカーの「マネジメント」と松下幸之助の「社員稼業」，言い方は全く違っているが，マネジメントは幹部だけがやるものではない，また，経営者的感覚で仕事をするのも幹部だけではなく一社員からやるべきである，と非常に共通した見方であると思っている。「マネジメント」は世界共通の言葉であるが，「社員稼業」は殆ど知られていない。しかし，夜なきうどん屋の主人に喩えられる話は，日本人であればよく理解できる話である。もしドラの女子高生みなみが「マネジメント」を学んだように，開発リーダが「社員稼業」にあるよなきうどん屋の主人のことをよく理解し，開発プロジェクトを自分の稼業として，それに徹したようなチーム運営をしたならば，そのプロジェクトは成功するに違いない！！
もしドラの連載は終わり
「社員稼業」に徹したチームを作ろうではないか！！
[Reported by H.Nishimura 2011.08.08]
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