■なぜ,行動(実行)できないのか 5(No.156)

【実行動】

次は,現実の行動で起こるパターンである。知識はあるが行動に結びついていない。

●知識・スキルがあっても成果が伴わない

研修やOJTでは優秀,あるいは特別なスキル資格を持っている人でも,実際の業務ではなかなか成果がでない。そうしたこととは裏腹に,現場で高い業績(成果)を上げる人もいる。そうした人の行動特性を,スキルとは違ってコンピテンシーと云う。こうしたコンピテンシー(業績発揮能力)とは,仕事や役割に関して効果的で優れた成果を発揮する個人の行動特性のことを云う。

知識やスキルが仕事上で発揮されないのでは,何の役にも立たない。資格もそれを生かす仕事になっていて,初めて意味がある。知識やスキルは,実行動で磨かないと錆びた刀同様,切れ味が悪くなってしまう。現実に,優秀な知識を持ちながら,それを有効に活用仕切れていない人が居る。

仕事内容そのものが,その人の有する知識やスキルを活かせないことになってしまっているケースもある。もちろん,その人が居るから仕事を作るのではなく,仕事があるからメンバーが揃っているのである。そうしたとき,その人のスキルと仕事が合っていないならば,仕事を変えてやることも必要である。或いは,新しい仕事にチャレンジさせ,新たな知識を学び,新しいスキルを身に付けさせることも必要である。いずれにせよ,全体(会社)として成果につながる方を選択すべきである。

つまり,コンピテンシー(業務発揮能力)を最大化することが,一番重要なことで,特にリーダや組織責任者は,役割(MUST)を明確にし,持っているスキル(CAN)を十分使えるようにして,モチベーション(WILL)を上げられるようにさせるべきで,この三つの重なりが大きければ大きいほど,コンピテンシーが最大限になるのである。このことを部下を持った人はよくよく理解しておくことが重要なのである。

問題は,仕事に対して知識やスキルが合っていて,それでもなかなか成果が出ない場合である。本人は一生懸命,熱心にやっているのだが,一向に成果に結びつかないことがある。こうした一因は,重要なポイントが押さえられていないことがある。プロジェクトマネジメントで云う,クリティカルパスが判っていないやり方であったり,スループットを上げるためのボトルネックが判らず,ボトルネックでないところの効率を上げていたりしているケースがある。やっている本人はこれが正しいと思い込んでやっているので,なかなか気づかない。そうしたときは,上司や仲間の一寸したアドバイスが効果的なことがある。

また,新製品,特に新規開発などの不確定要素の多い場合には,なかなか成果が上がらないと云ったことが付きものである。“技術のハードルが高い”との一言で片付けられるケースもあるが,自社だけでなく競合も含めてそうなのか,見てみる必要がある。技術パワーの問題でなく,技術の質の部分は本質を突いた回答がなかなか難しい。しかし,目に見える段階上に上がっていく成果は見られなくとも,一定期間での成果,これも相対比較で競合などの状態を考慮した中で,正しい評価をすべきものである。

●総論賛成だが,各論で具体的になると行動が伴わない

一般的に,大きな総論的な内容に真っ向から反対する場合は仕事上ではめったにない。ところが,総論から具体的な各論に下りる段階で,責任の所在を巡る問題や,行動に伴う見返りが自分の所に戻ってこない問題などにより紛糾することがある。つまり,総論で賛成しておきながら,実行段階に入ると,いろいろ難癖ではないまでも,できない理由を並べる人が居る。

そういった人々は,よくよく観察してみると,総論でも積極的な賛成でないことがある。全体としては反対する理由は取り立ててないのだが,具体的な内容になってくると,損得勘定が働くのである。「全体最適」よりも「部分最適」がより身近な問題で,こちらの方を優先させているのである。組織のリーダであれば,多少の自己犠牲(部門の犠牲)は覚悟で,全体として良くなるならば,その捨て石になっても良い,と云った心掛けが欲しいものである。

これは野球の送りバンドを考えれば容易である。「犠打」とも云われるように,自分はアウトになっても,走者を進塁させる打ち方である。チームプレイを考えれば,時には重要なことである。野球の場合は,監督(トップ)からのサイン(指示)があり,明確で,且つ,それを評価をしてくれる仕組みが出来上がっている。

我々の仕事も組織で仕事をしているのだから,チームプレイが優先されるのは当然である。リーダは各論で反対するとき,チームプレイに反していないかどうか,一度考えて欲しい。

●何が一番重要か判っていない(緊急な仕事のやりくりに追われる)

プランの段階で優先順位が重要であることを述べたが,実行動においても成果の出ていない部署では,重要な仕事が緊急の仕事で覆い尽くされてしまう状態が起こっている。次々起こる緊急案件を潰していく作業である。中には重要な案件も入っているが,殆どが緊急事態を生じたが為に見せかけの重要になっているものである。このやりくりに追われてしまっていては,肝心要の重要な案件が少しも実行されず取り残されていくのである。一生懸命頑張るのだが,一向に成果が出ないことが起こる。

起こった問題(マイナス)に対する対策であるから,対処できてマイナスが避けられ“0”になるだけである。目標に対する課題(プラス)に対しては何ら実行が伴わないのだからプラスにはならない。仕事をしないでサボっているわけではないので,仕事の充実感だけはあるから,随分仕事をした気持ちになるから,厄介である。こうした現象は,日常茶飯事よく見られることである。お互いに気をつけたいものである。

成果が出ていない,或いは赤字状態など経営数字が悪いところに限って,こうした現象は顕著に現れる。上から下まで全員が,緊急問題の退治に追われている。重要な仕事がなおざりにされてしまう。結果,経営状態は良くならない。この負のサイクルが廻っているのである。

●「やらねばならないこと」より「できること」から手をつける

これは普通の人の行動である。プランの段階の優先順位に大いに関係する。いろいろ仕事があると何からやるかは,その人のやり方に依存する。全体の仕事が優先順位が付いている場合は,それに従うが,たいていの場合明確な優先順位がない。そうすると,やりやすいものから手を出すことになる。容易なもの,結果がすぐに出るもの,自分の成果に結びつくものなどから始めることになる。

順序はどれから始めても,全部最後までできれば問題はないのだが,普通一般的には,後になることは先延ばしすることで,実行できないことが多い。このことは,できることからやり始めると,重要な「やらねばならないこと」ができず仕舞いになってしまうことになるのである。これも,仕事上では行動が伴わないパターンになってしまう。

プラン段階だけでなく,実行動に移す段階でも,「やらねばならないこと」が何であるか,それもいつまでにか,を考えた行動が重要である。

●やらねばならないことは判っているが行動に結びついていない

次は,「やらねばならないこと」が判っていながら行動に結びついていない場合である。一番多いのが,「時間がない」と云う理由である。これは逃げ口上を言っている場合が多い。本当に「時間がない」人も居ないわけではないが,一般的には,「時間がない」のではなく,「その行動することの重要性の認識が足らない」のである。

あるいは,「やらねばならないこと」は判っていても,具体的なやり方が判っていない,できない(能力がない)場合である。これでは行動の取りようがない。こうした場合には,周囲の仲間に相談を持ちかけたり,上司に相談したり,本当に熱意があれば,やり方はいろいろある。

また,周りで行動できていないことを指摘されると,つい「評論家じゃなく,実際にやって見せてくれ」と云いたい気持ちになることがある。「できないから困っているのに,そんなに云うのならお前がやって見せろ。そんなに簡単にできるものではないのだぞ。それを判ってみろ!」と云った心境である。しかし,これも責任のなすりつけ合いになるだけで,組織としては何の進展もない。自分の持っている職責を全部相手に譲るならともかく,言葉での言い合いが殆どである。

そんなことに注力するくらいなら,指摘されたことで自分ができること,或いは,自分のやり方で考えればこうすれば,少しは良くなるのではないか,と冷静になった方がよっぽどましである。感情を前面に出した行動は,成果に結びつくことが少ない。

●指示されたことをやるスタイルが染みついている(指示されないと行動できない)

仕事とは基本的には上から指示されたことをきっちりとやることである。しかし,組織がだんだん大きくなると一から十まで指示することはできなくなり,大きな方針やビジョンに則って仕事をしているかどうかが,行動の判断基準になる。それぞれの自主性に任せたエンパワメントした仕事の進め方になる。

ところが,自主的に仕事を始めても,途中で上から変更を余儀なくされたり,成果が出ないとプロセスはともかく結果のみで追求があったりすると,上から言われたことをやっている方が楽であると云う事態になってしまう。指示がなければ手待ちの状態も起こりうる。こんな状態の組織になると,組織は沈滞ムードになってしまい,成果もますますでなくなってしまう。

そこで,成果が出ないことを追求されても,指示を出さない方が悪い,或いは方針がはっきりしないから実行ができない,などできない言い訳だけがまかり通ることも起こる。そこまでひどくなくても,上からの指示待ち型での仕事のスタイルが定着してしまう。こうなると組織は硬直化してしまって,自らが考えて自主的な行動することがなくなり,活性化がなくなってしまう。さらに成果が出ない方へと向かって行くことになる。

(続く)

【リーダがとるべき7つの行動】 〜実行を支える行動〜(「経営は「実行」」より)

  1. 自社の人材や事業を知る
  2. 常に現実を直視するよう求める
  3. 明確な目標を設定し,優先順位をはっきりさせる
  4. 最後までフォローする
  5. 成果を上げた者に報いる
  6. 指導によって社員の能力を伸ばす
  7. 己を知る

【リーダに必要とされるもの】 〜人々を行動に向けて開放する〜(「意志力革命」より)

  1. マネジャーが自分の意図を頭の中にイメージとして描く手助けをする
  2. マネジャーに障害を覚悟させる
  3. マネジャーに自身の相反する感情と対峙させる
  4. 選択が可能な風土を創り出す
  5. 自己規制システムを築く
  6. 海へ漕ぎ出したいと云う願望を創り出す

 

自分の行動,或いは今居る職場の活動に当てはまるものがあったのでは?

コンピテンシー(業務発揮能力)の最大化を目指そう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2010.02.15]


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